第34話 御子柴涼馬のどうしようもない厄日 2




 翌日の土曜日は久しぶりに水無瀬と出かけた。


 シマさんのところへ顔を出し、これからどうしようか迷っている時に、水無瀬が「新しいスニーカーが欲しい」と言い出した。水無瀬はいつも同じブランドのスニーカーを履いている。星のマークが有名なシリーズで、今日は白のハイカットだった。


 てっきりそこの店に行きたいのかと思いきや、水無瀬は不意に俺の足元を見やった。


「御子柴のはどこのやつ?」


 聞けば、格好良くて気になるのだと言う。いいのかよ、もしここのやつ買ったらおそろいだけど? いや、別にスニーカーのブランドが被ることは変じゃない。それに俺はむしろ嬉しいし。


 ちょうどすぐ近くに店があったので、買いに行くかと誘えば、水無瀬はこくんと頷いた。


「うん、行く」


 自覚があるかどうかは分からないが、目は柔らかく細められ、口元には淡い笑みが浮かんでいた。その素直な言葉と仕草が、俺の胸を突き刺した。痛みをこらえるべく、目の前にそびえる大きなビルを見上げる。


 ……最近、水無瀬が無防備で困る。前はもっとつんけんしていて、それが可愛くもあったのだが。今では結構態度や言葉で好意を示してくれるし、あと気を許されているのがはっきり分かる。


 今じゃないだろうか、と頭の中の計算高い部分が提案する。もちろん来週の土日のことだ。今言えば、同じ調子で「うん、行く」と言ってくれるんじゃ……?


「——あのさ、水無瀬。全然、話違うんだけど」


「え? お、おう」


「その、なんだ……ええと……」


 まずい、変に口ごもってしまった。こうなると後が続かない。俺は戦略的撤退を余儀なくされた。


「……ごめん、また後で言う」


 え、俺ってこんなにヘタレだっけか? 俺が密かにショックを受けていると気づきもせず、水無瀬はしきりに首を捻っていた。


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