第11話 謎解きは騒乱の前に






  あれから十年の時が流れ、ファウストは十五歳となっていた。

  ベルとの魔導の修行だけでなく、ベルゾレフやベルの召喚体との対戦形式の武術訓練の成果もあり、ファウストは既に前世の頃と何ら遜色ないレベルにまで肉体を戻していたどころか、闇龍人ゾロアギリアのポテンシャルの高さもあり前世の最盛期をも超える完成度に仕上がっていた。


 成長したのは勿論戦闘面だけでなく、身体面においてもだ。

 身長は174cmまで伸び、顔は本人の予想通り順当に整った顔立ちに成長し、若干長めだった髪は肩あたりまで伸ばして項で縛り、髪から僅かに覗く程度だった短い龍角も成長して10cm程の長さになっていた。琥珀色の透き通るように綺麗な瞳は切れ長だがどこか甘さの残る瞳に成長した。その容姿は決して女性的なものではなく、精悍な顔つきなのだが、老若男女問わず魅了してしまうほどに整っていて、何気に親バカなWベル(ベル=ヴェルクとベルゾレフ)は島を出てから変な女に引っかからないか心配しており、プニに変な女に引っかからないよう注意してやってくれと頼む始末だ。尚、あのころからちょくちょくベルと一緒に(偶にベルゾレフも連れて)プニの元へ遊びに行ってるがその度に彼女は技を磨き、強く可愛くなっていった。心做しかぷるぷる感モチモチ感が増したような気もする。本人曰く最近『人化』という文字通り人型になる魔物限定のコモンスキルを身につけたとのこと。


  そんなファウストは現在ガチムチアイランド西部に位置し、五歳〜十歳の頃ベルゾレフと共に修行した『スマートフォレスト』よりも遥かに強い魔物が跋扈する広大な過重力砂漠地帯『G・デザート』に来ていた。

  ここら一帯には多くの闇精霊が集まる為闇属性魔力の濃度が高く、その影響でここ『G・デザート』は通常の二〇倍もの重力がかかっているのだが、ファウストは二〇Gもの重力を相殺するために常に自分に重力とは逆方向に重力を掛けているため、何事もないかのように平然と突き進んでいた。これもこの十年の修行の成果の一つであり、彼は簡単なものなら三つまでなら常に同時展開していられるようになったのだ。しかし常時なら三つというだけで臨時なら近接戦闘中で最大五つ、魔法に専念すれば最大十は展開可能だ。


  さて、何故このようなところにいるのかだが、それは簡単な話で、今日……、というか最近の修行は『G・デザート』の魔物との対魔物戦闘訓練だからだ。と言ってもまだガチムチドラゴタートルのような『王級』には勝てないので王級の生息域には近づかないようにしている。


 修行は基本的に対人戦闘訓練→座学→対魔物戦闘訓練→魔導研究→煌鷹流総闘術の修練&開発及びスキルの強化→対人戦闘訓練のサイクルで行われている。

  そうしていつも通り『G・デザート』の異常に筋肉質な見た目通り屈強な魔物達と戦っていると、遠くの方に一瞬遺跡のようなものが見えたのだ。今も昔も男という生き物はロマンに惹き付けられる性質があるが、ファウストもその例に漏れず、気になって見に行ってみることにしたという訳である。


  ファウストは突然砂中から飛び出してきた巨大ワームをなるべく見ないようにして“指定範囲内の空間を消し去る”空間魔法【デリート】を用いて処理したり、群れで襲ってきたデザートハウンドというハイエナとオオカミを掛け合わせたような見た目の魔物を魔法で創った炎の剣で焼き切ったりと、道中の魔物を蹴散らしながら突き進んだ。

 その先にそれはある筈だったのだが、行けども行けども遺跡へはたどり着けず、それどころか何時の間にか見失ってしまっていた。


「おかしいな。幾らここらの強い魔物と戦いながら向かってるといっても方向を見失うようなヘマはしないはずなんだけどな」


  ファウストは一度立ち止まり遠くを見据えて考え込む。


「……んー、もしかしてアレか。遠くからは見えるけど近くからは見えなくなる設置型の認識阻害魔術でもかかってるのか?」


  そう当たりをつけたファウストはそういう事なら近くに認識阻害の魔法陣が描かれているか、それと同じ役割を果たす魔道具か何かが設置されてるはずだと思い、辺りを【魔力視】を使い探っていく。

  すると、二時の方角一〇数メートル程先の所に認識阻害魔法を作動させてると思わしき、砂に埋もれた、黒曜石の石柱を発見した。それは高さ三メートル五〇センチ程の先端が尖った四角柱で全体に渡ってビシッと術式が刻まれていた。続いて周囲を見渡すと、そこから巨大な正方形を描くように同様の、合計四つの黒曜石の石柱があった。

 ファウストはそれを“風の弾丸を放つ”風魔法【エアガン】で攻撃し、破壊を試みるが、黒曜石の石柱は周囲の砂が吹き飛んで露わになっただけでそれ自体には傷一つついてはいなかった。


「……なるほど、まぁ、なんの防護対策もしていない訳ないよな。

面倒だけど一個一個試していくしかないか」


  ファウストは取り敢えずまずは全部同時に攻撃してみようと思い、着弾時間が全て同時になるよう距離に応じて速度を調節して全石柱に向かって同時に【エアガン】を放った。しかし、またもや石柱には傷一つなく、四つの石柱全てが外気に晒されただけであった。

  次に、全部同時じゃないなら順番か?と思い、あらゆる順番で攻撃していくが、やはり傷一つつかなかった。


「うーん……、順番も関係ないとなると……ん?これは……」


  どうしたものかと額にかいた汗を拭いつつ燦々と降り注ぐ陽光に照らされた黒曜石の石柱を眺めているとあることに気づいた。


「青色に……反射している?」


  普通黒曜石を含む大抵のものは斜めから見ると太陽光を白く反射しているように見えるが、この黒曜石の石柱は青色に反射しているように見えたのだ。試しに他の黒曜石の石柱も見ていってみるとそれぞれ赤、黄緑、褐色の基本四属性色を反射していた。だが……、


「黄緑……風魔法では攻撃しても傷一つつかなかったんだけどなぁ。……いや、別に破壊する必要はないのか」


  まず、青色に反射している黒曜石の石柱に触れて水属性の魔力を流してみた。すると、予測が当たっていたようで、認識阻害の結界が僅かに揺らいだ。しかし、魔力注入をやめてしまうと直ぐにまた元の状態に戻ってしまった。


「同時に注入しないとだめなのか。元々単独で出入りするようには作られてなかったってことかな。となればこれは人が頻繁に出入りするようなものじゃなくて、何かの儀式場や礼拝堂、はたまた王の墓とかそこらへんなのかな」


  ファウストは遺跡について軽く考察しながら指先から火属性、土属性、風属性、水属性、各種の魔力糸を出し、それぞれの属性が合致する黒曜石の石柱に巻き付けて魔力を流し込んだ。彼は一見軽くこなしているが指先から四種の魔力糸を出してそこから魔力を放出するのは何気にかなり高難度の精密操作技術だったりする。

  各属性魔力を流し込まれた黒曜石の石柱はそれらに強く反応し、眩い光とともに認識阻害の魔法が一時的に消えて先程遠方から覗いた遺跡がその姿を表した。

  遠目で見てもそれは大きいと感じたが間近で見ると当然だがなおさらそう感じた。だが、驚くべきはそれだけではない。なんと、認識阻害の結界内は空間も断絶されていて別空間となっていたようで、そこだけ区切られたかのように緑が生い茂げ、苔むした石や、蔦の這った壁が味を出す静謐な空間が形成されていた。その様は宛ら古の神殿が如し。

  ファウストは遺跡の荘厳さに圧倒されると同時に、この先には何があるのだろうと無性に好奇心を掻き立てられ、意を決して遺跡の中へと入っていく。


その数分後、結界が復元する間際に、一匹の白蛇が遺跡へと侵入した。





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