第7話 鬼っ娘ろりの魔導講座〜ちょっとしたいじわる風味〜


「では、確認するがぬしは魔法と魔術の特徴と違いは把握しておるな?」


  地平線の彼方まで広がる草原の上に青空教室を展開してベルは魔導の授業を執り行おうとしていた。


「ああ、だいたいこんな感じだろ」


  ファウストはそう言って人差し指と中指を揃えてその指先に光を灯し、空間に文字を描いていく。これは無属性魔法である【魔法文字】ミスティックアートというもので、この魔法は魔術の魔法陣や術式(その魔術の役割を記したシステム構築文のようなもの)を描く際にも用いられる魔法で、使用法は指先に魔力を灯して描くだけなので最早常識的と言える程にポピュラーな魔法だ。

  空中には箇条書きでこう書かれていた。


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  [魔法]


  ・想像によって構築され、世界の法則の範囲内で行使される。


  ・自由度が高く、属性と魔法効果が合致していれば大抵その通りに働く


  ・上記より魔法効果、性質は魔法属性に依存する。


  ・魔法陣は世界により自動算出される。そのため戦闘中でも使いやすい。


  ・術によっては安定性や効果などは低下するが詠唱破棄または省略詠唱可能。


  ・魔法の行使に薬草、霊装などの物品は用いない。



  [魔術]


  ・術式によって構築された法則に則って行使される。よって、物理法則を無視した働きが可能。


 ・魔術は全て無属性魔力により行使される。


  ・上記より魔法属性に依存しない。


  ・新たな術式の構築は魔法と違い難しく、予め構築しておくのが基本。


  ・自身で魔法陣を描く必要があるため実践ではなかなか使いづらい。


  ・発動には詠唱が必要不可欠。しかし省略詠唱やノタリコンを用いた詠唱でも可。


  ・行使に物品を用いる場合がある。


  ・特殊な用法のものが存在する。



  [双方の共通項]


  ・魔力を消費して発動する。


  ・魔導の規模、効力の高低により消費魔力量が増減する。


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 これらの知識は全て昨日ベルに渡された魔導に関する分厚〜い教科書に乗っていた知識だ。ファウストは昨日のうちに教科書の中身程度はきっちり頭に叩き込んでいた。


「よし、それではまずは“魔力属性”から教えていこうかの」


  ベルはホワイトボードに【魔法文字】ミスティックアートを用いて瞬時に文字を描いた。ベルは創造魔法でよくプレゼンなどで使う長い指し棒を具現化してそれを指し示す。


「ぬしも知っとる通り、魔力属性というのはは『火』『水』『風』『地』『時』『空』『闇』『光』の八属性でこれを元素属性魔力と言い、それぞれ『赤』『青』『黄緑』『褐色』『藍』『橙』『黒』『白』という魔力属性色と呼ばれる色を持っている。

しかし、魔力属性はそれだけでなく、属性魔力同士を混合することで複合属性魔力というものを生成できるのじゃ。

例えばおんしがマッチョエイプとの戦いで偶然使用したという『木』属性。アレも複合属性魔力じゃの」


  ベルは魔力属性について講義しながら図式を描いていった。


「しかし、属性魔力を混合して生成するといえど好きなように混合できるというわけでもなくての。

この属性魔力混合式以外の混合では上手くまざらんのじゃよ」


  と言ってベルは先程講義しながら描いていた図式を棒で指し示した。そこにはこう描かれていた。


_______________



 火+水=霧

 火+風=炎

 火+地=金

 水+風=氷

 水+地=木

 風+地=砂


 『時』『空』『光』『闇』の四属性は他基本四属性と一切混ざることはないため別枠で、特殊四属性と呼ばれる。但し複合魔力属性とは混ざりにくいが混ざらないことも無く、才能次第では混合可能。『時』『空』『光』『闇』の四属性内でもそれぞれ混ざりにくい性質を持つためその難易度は高い。



 時+空+闇=破壊

 時+空+闇+光=宇宙

 時+空+光=創造

 時+空=時空



 【特例】


 木+光=生命

 木+闇=死霊

 炎+地=溶岩

 氷+光=雷

 砂+時=風化

 金+光=聖天

_______________



(まるで化学反応式みたいだな)


  ファウストの感想は的を射ていた。彼の言う通り、属性魔力混合式というのは前世でいう化学反応式に近いもので、化学反応式同様、決められた形があり、その通りに反応させないと全くなんの反応も示さないものなのだ。化学反応式と違う点は全ての混合式が不可逆反応、つまり混合後の属性を混合前の属性に分解できないというところだ。


「ベル、この特例っていうのはなんなんだ?」


「ああ、それはスキルの有無ではなく、純粋な本人の才覚により使えたり使えなかったりする未だ研究中の謎の多い魔法属性で、魔導学界では元素属性を“第一魔力属性”、複合魔法属性を“第二魔力属性”とし、この特例を“第三魔力属性”と呼称しておる。一応説明しておくと、この“第三魔力属性”は“第二魔力属性”に+元素属性を一つ加えるというもので、この場合に限り『時』『空』『光』『闇』の特殊四属性も混ぜ合わせることが可能になるのじゃ。

これについては“第二魔力属性”と違い、使えたとしてもかなり扱いが難しく、それこそ年単位の修練が必要だから後回しじゃ」


「えー」


 ファウストは隠す気もなく残念がってみせる。

 ベルはそのあからさまな態度に袖で口元を隠して笑い嗜める。


「くくっ、安心せい。誰も教えんとは言うておらんじゃろうて。

ただ今はそれよりも先にやっておきたいことがあるだけで“第三魔力属性”の適性があればちゃんと後で教えてやるわ」


「本当か!?いや〜今から楽しみだな!」


 ベルはこれまで感じていた大人びた感じではなく、瞳を輝かせて喜ぶ年相応な反応にこれまた笑いを零す。


「くくく、ま、取り敢えず属性魔力についてはこれぐらいかの。

次は無属性魔法についてじゃ」


「無属性魔法……というと魔力を属性変換せず、魔力回路に流れるままの魔力を用いた魔法ということか」


「うむ、その通りじゃ。

これも一応属性魔法に分類されるのじゃがちょいと毛色が違う。

まぁ、別物と思ってくれた方がややこしくなくていいじゃろうな。

どんなものか具体的には想像しづらいじゃろうからまずは実演してみせよう」


  そう言うと、ベルは腕に高密度に圧縮した魔力を纏わせた。高密度に圧縮された魔力は質量を獲得し、透明な薄紫色の霊体状のガントレットとなっていた。


「先もぬしが言った通り、無属性魔法とはその名の通り属性変換する前の、魔力回路を流れるままの無属性の魔力を用いる魔法の総称じゃ。その例の一つがこの魔力を霊体物質化ーー質量を持った霊体状にする霊体物質化魔法じゃ。

活用法としてはこのように武具状にして攻撃を強化する類いのものが多いが他にもこんなものもある」


  ベルは両手を広げて何十羽もの霊体状の薄紫色に光る小鳥を生み出した。


「このように無属性魔法で小鳥を出して偵察させたり……」


  ベルは掌を軽く動かして辺りを飛び回っていた小鳥達を操り、少し離れた地面へと急降下させた。地面へ向かって急降下していった小鳥達は大爆発を起こして地面を大きく抉り飛ばした。


「込めた魔力を内部で暴走させてぶつけてやれば忽ち飛行爆弾となる訳じゃ」


  小鳥による飛行爆弾は実践でも有効活用できる優れた魔法だった。しかし、ファウストはその威力よりも偵察に使えるという点に着目していた。


「生物型の無属性魔法は皆最初っから使用者と視覚を共有しているのか?」


「まぁそうじゃのう。無属性魔法発動時に視覚を共有するよう設定すれば最初っから使用者と視覚を共有するようになる。他にも味覚、聴覚、嗅覚、触覚などの感覚も共有させることができ、体構造を事細かに構成すれば喋らせたり、自律機動させたりすることもできる。その分魔力消費量は多くなるがの」


(視覚以外の五感の共有だけでなく発声や自律機動まで可能なのか…。なら視覚を共有させた小さな生物を大量に作れば簡単に敵状視察ができそうだな。いや、それよりもそれらへの対処法を考えるのが先決か)


  ファウストは生物型無属性魔法の最たる利点に気づいたと同時にそれの対処法を考えねばならないと思った。殺し屋としての過去の経験故だろうか。前世でも常に周囲を警戒し、諜報対策は必須と言えた。そしてそれは今世でも変わらない。科学、又はそれに準ずるものが発展しているのかは現段階では不明だが、少なくともこの世界の魔法は前世以上に警戒するに足る応用性、利便性を備えているのだから。


「そうか、じゃあもう一つ質問だ。相手を探知する無属性魔法とかはないのか?」


  ファウストが即興で考えた合理的な対処法、それが探知魔法だった。これならたとえどんなに小さくとも捉えられる上、探知対象を生物型の無属性魔法に限定すれば仮に街全体を探査しても情報量は処理可能なレベルまで落とすことができるからだ。しかし、これには欠点も考えられた。


「あるぞ。一般的なのは放射状に魔力を放出してそれに反応した相手の魔力を感じ取るといった魔法じゃな。しかしそれは魔導の心得があるものなら逆探知されて自身の居場所がバレるという危険性も孕んでおるがの。

だから普通、魔導師は探知魔法は居場所がバレてもいい場合しか使わん。

【探査】というコモンスキルを持っておれば相手に気付かれずに探知可能で、取得条件も周囲を注意深く探るというかなり簡単な部類だから取得も比較的楽なのじゃが、それでもスキル獲得率はそう高くないのう」


「やっぱりそうか。できれば魔法で探知したかったが【探査】を取る方が良さそうだな」


「まぁ、苦労して取るだけの価値はあるじゃろうな。

他に質問はあるかの?」


「いや、ないな」


  「では次に移るかの」と言い、ベルは腕を振って、先の爆撃で荒れた草原を一瞬で元通りに戻した。


「次は“実践魔術講座”じゃ。

早速我が召喚獣と戦ってもらうぞ」


「ちょっと待ってくれ。俺は魔術ってのはさっき言ったことと昨日貰った魔導の教科書に書いてた知識といくつかの基本術式ぐらいしか知らないんだが」


「まぁそうじゃろうな。ベルゾレフも簡単な概要説明しかしなかったろうしの。

しかし、魔術というのは多岐に広がりすぎて基本的な説明以外できんのじゃよ。

基本的な説明といってもぬしも知っておる“魔術は術式を組んで発動する”。これぐらいしかないしのう。術式や魔法陣の構築理論ももう完璧なのじゃろう?」


「まぁそうだけど……。他には何にも説明ないのか?せめてどんな種類があるかとか教えてくれよ」


「そうじゃのう……神や英雄の逸話を元にした『神代術式』、文字による様々な制約を課す『封印術式』、それから派生し頑強さ、機密性に重きを置いた『結界術式』、戦術級の属性魔法を放つ『属性術式』、薬草などの治癒性を限界以上に引き出して治療する『回復術式』、魔導工学などに用いられている『工業技術式』……他にもたくさんあるが有名どころはこんなところかの。

ああ、ちなみに術式を構成する文字じゃが、意味のある言語としてきちんと成立した文字ならどの言語のものでも使用可能じゃ」


「成程、確かに色々あるな」


しかしそこでファウストはあることに気づいた。最後にベルが補足した。それが指す意味に。


(ん?ちょっと待て今“意味のある言語として成立した文字ならどの言語のものでも使用可能”って言わなかったか?

ということはまさか日本語や英語などの前世の言語も使えるのか!)


  そう、確証はないが“意味のある言語として成立した文字ならどの言語でも使用可能”ということなら前世の……、地球の言語も使えるかもしれないのだ。そしてファウストは前世の殺し屋時代、制圧部隊時代と世界中で活動していたこともあって、日本語、中国語、英語、ヒンディー語、スペイン語、アラビア語などのメジャーな言語は粗方習得している。故にもし地球の言語が術式として使用可能ならそのレパートリーは計り知れないものとなる。

  勿論ベルはファウストの前世のことなど、そもそも前世の記憶があること自体知らないのでそんな意図があったわけではなく、ただ単にこの世界のどのような言語でも術式に使えると言いたかっただけだったのだが……。


(何やら面白いことを考えついたようじゃの。

適当に防御力の高い召喚獣に相手をさせようと思っておったが予定変更じゃ。『ヤツ』を喚ぶことにしよう)


面白いことを考えついたのであろうファウストを見て、ベルは我が子の成長を喜ぶ母親のような表情で実践魔術講座の難易度を『EASY』から『HARD』へとランクアップさせた。

 ここで『VERY HARD』や『HELL』にしなかったのはベルの優しさだろう。まぁアレがファウストにとって『HARD』に収まるのかどうかは甚だ疑問だが……。


「さて、気を取り直して実践練習といこうかの!」


  ベルはパンパンと手を叩いて自身に注目させた。ちょうど考えをまとめたファウストはそれに従いベルに注目する。


「では、ぬしにはこれから此奴と戦ってもらう」


  そう言って、ベルは右手を翳して召喚陣を形成した。


  ちなみに召喚術に用いる召喚陣は魔術的魔法陣と違い、魔法と同様自身の手で描く必要はなく、自動的に使用者の意図を汲み取り、世界が算出して描くため、召喚術は無属性魔法に分類されている。そして、本来召喚術とは召喚体の強さ、数によって難易度が変わるのだが、今回ベルが召喚する魔物はその魔物の分類では・・・・・・・上よりの中位といえど、魔物全体で見ると末席だが上級に属する強大な魔物だ。常人なら、いや、魔法に長けたエルフですら詠唱を必要とするほどの召喚体だった。


  地面に映された鮮やかな魔力属性色八色に彩られた光り輝く召喚陣から何かがゆっくりと現れた。


  それは影を思わせる襤褸のようなものを着ていた。手足は細く何処か無機質さを感じさせ、頭は黒い炎が如く揺らめきその中に眼と思われるエメラルドグリーンの光点が二つ。胸部には魔石、いや、魔力を過度に圧縮することで形成される魔晶石がそれぞれの属性で八つ象嵌されていた。


「此奴の名は『エレメンター』。

エレメント系の魔物の中でも中位に位置し、元素属性全てを司る。

今回は此奴を完全に・・・倒すことを目標に戦うのじゃ。召喚体は殺しても二十四時間再召喚できなくなるだけで死ぬことはないから殺す気でいくのじゃぞ。制限時間は三十分。その時点で試合を終了とする」


  ベルはそう言うなり光の粒子となり消えた。おそらく試合の邪魔にならないところに移動してそこで見ているのだろう。

  エレメンターはいつでもかかって来いと言わんばかりに無言で暗闇に潜む双光を輝かせている。


(確かエレメント系の魔物は魔法や魔力を伴った攻撃以外効かないんだったか)


  開戦の合図などなかった。

  ファウストは殺意も気配もなく、一瞬でエレメンターの背後に周り、無属性魔法で作ったナイフで躊躇なく首を両断した。


 完全に不意を突かれたエレメンターは首を失い、地面へと崩れ落ちた。


「あれ?これで終わりか?」


  あまりに呆気なく終わってしまったので拍子抜けしたファウストだが、前世の最期の戦いを思い出し、足元を風魔法で爆発させて緊急退避した。


  その判断は正しかったようで、ファウストが脚を痛めながらも緊急退避したとほぼ同時にエレメンターの周囲の地面から夥しい数の漆黒の槍が飛び出した。


  よく見てみるとそれは高速振動する砂鉄で構成された槍だった。もし当たっていればズタズタに切り裂かれていただろう。


  夥しい数の砂鉄の槍の中で首を失ったエレメンターはゆらりと立ち上がった。切り落とされた首は霞の如く消え去り、新たな影の頭が再構築された。しかしよく見ると胸部に象嵌されていた魔晶石の内、白色の魔晶石が色を失っていた。


「なるほど。胸部に象嵌された魔晶石の数だけ自己蘇生できるってことか。だけど色を失ったところを見ると自身が使える魔力属性を犠牲にする必要があるみたいだな」


  ファウストはエレメンターの蘇生現象の考察をしながら左手で発動した風魔法【追い風】テイルウインドで風を送ることで強化した火魔法【炎球】ファイヤーボールを右手で乱射して牽制していた。


  エレメンターはそれを砂鉄の形状を変化させてうねる壁にして受けきっていた。そしてそれだけでなく反撃を仕掛けるべく炎魔法【地獄の業火】ヘルブレイズを放った。


  ファウストの牽制を飲み込んでその尽くを焼き尽くさんとばかりに、小さな林程度なら全焼できるほどの巨大な炎が襲いかかる。


「たく、さっきから複合属性魔法ばっか使いやがって。


荒れ狂う大海を穿ち 、鎮める海神の槍を我が手に……【大渦槍】メイルストロム


  ファウストはこの世界の言葉で詠唱し、水魔法【大渦槍】メイルストロムを行使した。


 巨大な大渦を生み出す魔法【大渦槍】メイルストロムと巨大な炎を生み出す魔法【地獄の業火】ヘルブレイズがぶつかることで莫大な量の水蒸気が発生し、辺りを埋め尽くした。


  だがそれは想定の内。ファウストが炎とぶつかれば水蒸気を発生させる水魔法で相殺したのはあえて視界を潰し、互いに姿が見えない状況を作り出すためだった。


  ファウストは水蒸気の中での戦闘も慣れているので視覚ではなく気配で相手の位置を特定することができるのだ。


  ファウストは気配を殺してエレメンターの側面へと周った。


(氷魔法は物理攻撃力は低いがこうすればそれも補えるだろう。【小爆弾】ミニボムin【氷の弾丸】アイスバレット)


  ファウストは無詠唱で大口径の氷の弾丸を生成し、銃のイメージをもってエレメンターへ高速回転射出した。


  氷の弾丸は見事エレメンターの肩に当たったが致命傷には至らなかったようで、弾丸の方向から方位を特定したエレメンターは反撃しようと広範囲の空間を破壊する破壊魔法【空間破壊】ディストラクションを放とうとした。


  しかしそれを放つ前に先ほど肩に着弾した氷の弾丸が内部から爆発し、エレメンターは上半身を吹き飛ばされてしまった。氷の弾丸の内部に極小の炎の爆弾、炎魔法【小爆弾】ミニボムを仕込んで時間差で起爆するようにしていたのだ。


(これで二回目。そして一回目の蘇生現象から奴の自己蘇生には三秒程かかることは分かっている。だからその間に魔法陣を描いて奴の蘇生回数をできるだけ多く削ってやる)


  ファウストは魔力でエレメンターを中心に高速で魔法陣を描いていった。その魔法陣には英語と日本語が使われていた。


  二秒で魔法陣を描き終わったファウストは次に残りの一秒以内に無属性魔法で強固な結界を張るべく魔法文字ミスティックアートで空間に魔法陣を刻み込みながら日本語で高速詠唱を始めた。


「『堅牢なる結界にて退路を閉ざせ』……【四方界牢】」


 堅固な結界で四方を囲み閉じ込める結界術式【四方界牢】でエレメンターを囲い閉じ込めた。


 それとほぼ同時にエレメンターの蘇生も完了し、それにタイミングを合わせてエレメンターを中心に描いていた魔方陣を起動させて魔術を発動すべくノタリコンを用いた短縮詠唱を唱える。


「『大地の霊力よ。S P O T E舞い上れI W F A遥か天空の彼方までU B T F S。……【地神奉天】アヌ・ラピッヅ』」


 エレメンターの足元の地面からポツポツと光の玉が現れ、その数と速度は加速度的に増加してゆき、魔法名をトリガーとして魔法は発動された。魔法陣が眩く光り輝き、ズァアアアッッ!!と幾つもの神秘的な光球が天空へと奔流となり舞い上がった。

  光球の奔流に巻き込まれたエレメンターは身体を著しく損傷し、再び倒れた。


(これで三回目)


  エレメンターを囲う【四方界牢】の直上、遥か上空の夕焼けの空に夜空に浮かぶ星々の如く光り輝く魔法陣があった。


ファウストは天空へと舞い上がった光の奔流を精密操作し、攻撃すると同時に上空に魔法陣を描くという人間離れした離れ技を成し遂げていたのだった。


闇夜をN S儚く照らす星々はF I S悲しみに暮れる。T G孤独の闇はL D雫となりて地を穿つD E D……【星屑の涙】ラルム・エトワール!」


  魔法名を唱えるに従い魔術は発動され、夜空の星の如く光り輝く魔法陣から幾つもの光の礫が再度復活したエレメンターへと降り注いだ。


ドガガガガガガガガガガガガッッッッッ!!


  天から降り注いだ光の礫達がエレメンター諸共大地を砕き、大口径の機関銃のような轟音を響かせた。その光の豪雨を咄嗟に土魔法で分厚いドームを形成して防ごうとするも、光の豪雨はそれを軽々と打ち砕き、エレメンターは光の豪雨に晒される。光の豪雨に打たれ、エレメンターは再度身体の大部分を破壊され地に伏す。


(これで四度目、次復活したらその瞬間攻撃して倒したいが……)


  光の豪雨により身体の大部分を消失させて倒れ伏すエレメンターの周りに黒い靄のようなものが発生し、爆発的な衝撃波を辺りに放射状に撒き散らして結界を破壊する。ファウストはそれに巻き込まれてビルの三階あたりの高さまで吹き飛ばされるが風魔法で姿勢制御し、真下に向けて風を放つことで勢いを殺して無事着地した。


「やっぱそう簡単にはいかないよなぁ」


  再度立ち上がったエレメンターの風貌は先程とは少しだけ異なっていた。

  胸部の魔晶石が白色に加え、『青』『黄緑』『橙』の三色が消え、残った属性のうち、『黒』を除いた『赤』『褐色』『藍』三色それぞれの五十センチメートルほどの結晶体が黒い靄を纏うエレメンターの周囲を巡回していた。おそらく残る『黒』はエレメンター自身が象徴しているのだろう。現に胸部に残っているはずの『赤』『褐色』『藍』は色が消えているが『黒』だけが残っていた。


「一気にカタをつけるつもりか。

手っ取り早いがその分難易度は数段増したようだな」


  ファウストは一気にカタをつけにきたエレメンターに対抗するべく、奥の手を行使する。


「【龍鱗鎧lv1】」


  種族レイシャルスキル、【龍鱗鎧lv1】を発動した。発動とともに、両手の爪が鋭くなり、両腕両足に鱗状の硬化した皮膚が形成されてゆく。他の箇所にも疎らに鱗状の硬化した皮膚が形成された。そして眼は瞳孔が細くなり、龍の眼となった。初めて【龍鱗鎧】を使用したファウストは一種の高揚感のようなものを感じていた。体の奥から魔力とはまた別種の、龍の力であろうものが湧き出てくるのである。


「さぁ、ファイナルラウンドだ」


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