〈注意!〉

 名字の伊波で呼びました。

 名前のイナミではありません。ごめんなさい。

 本当に申し訳ないです。




「…………は?」


でかでかと書かれていた文章に、開いた口が塞がらない。


「これ、お前のために作ったんだぜ。名前と名字が一緒だと、何かと苦労するだろ?」


得意げに胸を張る田鶴。


「や、まあ、うん。そうだけど」

「驚いたか! 俺とにいなサンからのプレゼントだ」

「みなさん、拍手をお願いします」


司会進行役の先生の言葉に、あちこちから拍手が送られてくる。正直、嬉しくない。ありがた迷惑ってやつだ。会話中にこんなパネルを掲げられるなんて、毎回口で断られたほうがマシに思えるレベル。

全て回収して、粉々に粉砕したい。んで、燃やす。

だって、あの文章。悪意あるだろ。

俺にしつこく迫られて、嫌がっているって感じがすごくする。

それに、何もしていないのにフラれているみたいじゃないか。


「集会で配るために、急ピッチで準備したんだ。途中で材料が足りなくなったりしてさ、焦った焦った」


田鶴はのんきに製作秘話まで教えてくれたけど、俺はそれどころじゃなかった。この忌まわしきパネルをどうやって処分しようか、そればかり考えてしまう。

まず、第一に回収の問題がある。俺が1人ひとり回って集めるのでは、効率が悪い。やはり、トップを動かすしかない。にいなに頼んで、全てのパネルを手元に。それしかない。

となれば、善は急げ。にいなと会う約束を取り付けよう。




全校集会後。

これみよがしにパネルを見せてくる生徒たちを無視して、彼女が出てくるのを待つ。人でごった返す廊下の隅で、目を光らせる。

しばらくすると、一際ガタイのいい男が姿を現した。生徒会執行委員の大久保だ。にいなのボディーガードとのたまって、ちゃっかり隣をキープする要注意人物だ。

彼が出てきたということは、にいなもそろそろ来るな。早くなる鼓動、ブルブルと震える体。緊張してきた。立ち止まっていられず、一歩二歩と体育館に近づく。


「にいなの言う通り、やっぱりいたな。伊波」


パネルをポンポンと叩いて、名字呼びアピール。

これ、この先の学校生活で嫌というほど見るんだろうな。


「いたら悪いかよ」

「悪いね。だって、これじゃにいなが出てこれない」

「どういうこと?」

「そのままの意味だよ。俺は、にいなに頼まれてここにいる。お前が待ち伏せしてないか、確認してきてほしいって」


怖がってたぞ、と大久保は続ける。

怖がるって、なんだよ。俺が怒りに身を任せて、大暴れするとでも思っているのか?

気がつけば、冷静になっている自分がいた。


「ああ、そう。つまり、望月さんは俺に会いたくないってこと?」


自分で口にした途端、鼻の奥がツンと痛くなった。

油断したら涙が出そうで、下唇を噛みしめる。


「まあ、うん。ぶっちゃけると」

「分かった。じゃあいい。

パネルのこと、ありがとうって伝えて。お忙しいでしょうに、俺のためにどうもって」


冷静さは長く続かなかった。最低だと思いながらも、自分を抑えられず、嫌味を言ってしまった。

それをにいなが聞いているなんて、思いもせず。

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