この傷も痛みも全て

夜摘

序章

例えば

愛し合う二人が結ばれ 子供を授かって、

待望の我が子と出会う日を、

今か今かと待ち侘びて居たとして


やっとやっと生まれてきたその子供が

禍々しい痣が刻まれた青白い肌と、悪魔のような尖った角を持つ、

まるで蛮族かのような、魔神かのような

とうてい人とは思えない姿であったとしたら…


ああ、これを悪夢と呼ばずして何と呼ぶだろうか。

更に母親が、その子の持つ角によって胎の中を傷つけられた為に

出産の際に、命を落としていたとしたら?


本来であれば、

新しい生命の誕生を祝う、最高の日となるはずだったその日に

愛する妻を失い、目の前に残されたのは人と思えない化け物の子供。


例え彼がその子供を酷く憎んだとして、

それを誰が責められるでしょうか。

例え彼がその子供を傷つけるような振る舞いをしたとして、

それを誰が咎めるでしょうか。


その怒りや悲しみを止めることなど

誰にも出来はしないでしょう。


彼の心境がどんなものであっただろうかと考える度

私は酷く胸が痛むのです。


その度に私は

自分が生まれて来たことを 本当に、本当に申し訳なく思うのです。




これは、そんな私が

彼の元を離れ、村を出るまでのお話。



夜空だけが私を見ていた

あの夜までの話。

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