七通目 苦い恋心と甘い憎悪

        “K”


 あぁ、さくらさんに会いたい。会って話したい。その一心でさくらさんの教室に訪れた。でも、またも先客に先を越されてしまった。俺の視線の先には楽しそうに話すさくらさんと琢磨が映った。泣きそうになった。鼻の先がつぅんと傷んだ。声をかけたいのにかけられない。ただ遠くでさくらさんを見守る俺は惨めだった。教室に戻ろうかな。そう思い、踵を返した時だった。

「んお?蛍じゃん。おはよー。」

 智也が丁度登校してきた。その途端涙が溢れた。そのまま倒れ込むように膝から崩れ落ちると智也は焦って俺を屋上への階段に連れて行った。

「で?どうしたんだよ蛍。情けない顔して。」

「……。」

「なんか言えよ。わかんねえーよ。」

「……先越された。」 

「へ?」

 智也は間抜けに声を出した。

「ライバルが現れたァァァァァ!!!」

 と大声を上げると智也は煩いと言わんばかりに耳を塞いだ。そして「煩い煩い」と言って俺をあやした。俯いてうじうじしてたら背中を擦られた。

「ライバルって誰?」

「………琢磨。」

「琢磨ってあの樋田?」

「うん…。」

 そう答えると智也は「あちゃ~」と声を出した。すぐに俺を励ましだした。

「だ、大丈夫だって。だってほら?琢磨ちびだし?お前の熱々ラブレターだって読んでくれてるじゃん。おまえの思いは伝わってるよ。」

「でも、俺なんか気持ち悪いと思われてそう…。」

 ネガティブな感情しか現れない。

「気持ち悪いと思ってたら一緒に食事なんか行かないよ。」

 智也は一生懸命あやした。だんだん恥ずかしくなって涙をぐじぐし拭った。

「俺今日授業サボるわ。」

 智也は呆れたように笑った。

「いつもの蛍に戻った。」



   桜薇

 

 今日は蛍君が来なかった。どうしたのだろう。仲良くなったばかりの琢磨君と話ながらそう思った。琢磨君は相変わらず話が上手。私も笑いながら話を聞いていた。

「青柳さん、得意な教科ってなんですか?俺は数学ですかね。やり方とか覚えれば簡単に解けるんで楽しいんですよ。」

「私は数学苦手だなぁ。なんか、計算間違えとかしちゃって。」

「そうですか?」

「そうだよ。私は国語が好き。自分の思った事を書けば花丸貰えるから。」

「えぇ〜…。俺、そっちの方ができないわぁ。すごいね青柳さん。」

 とまたまた褒め言葉。よくそんなにペラペラ出てくるな。

「あっそうだ。今度、一緒に勉強しない?青柳さんの苦手な数学は俺が教えるから国語教えてよ。」

「え…。私なんかよりも琢磨君の方ができてるじゃん。私教えるの下手だし。」

「いいじゃん。また連絡欲しいな。」

 優しくにっこり笑う琢磨君。琢磨君の話を聞きながらスマホを見た。連絡帳の一番上に『蛍君』の名前。また、ご飯行きたいな。そう思った。でも、あまり食べてばかりいるとお金なくなっちゃうな。私は暫く考えた。



       “K”

 さくらさんに会えずに暫く時間がたった昼休み。一人で寂しく大量の焼きそばパンを抱えて屋上に来た。涼しい風に吹かれて悲観的になった。ヤケになり焼きそばパンに思いっきりかぶりついた。するとガタッと屋上への扉がなった。ここを知ってるのは俺と俺の友達くらい。どうせ、智也に話を聞いた翔がからかいに来たんだろう。ふざけんな。

 扉が開くと同時に冷たく言った。

「何しに来たんだよ。」

「…っす、すみません。」

 そう言ったのはうざい声の翔ではなく、高く儚く可愛らしい声だった。そして、残念な事にこの声には聞き覚えがあった。

 扉からひょこっと顔を出したのはさくらさんだった。…………これは幻?

「さくらさんっ!?すみません!」

「いえいえー、一緒にお昼いいですか?」

「もちろんです!!」

 あぁ、嬉しいけど恥ずかしい。俺、なんてことをしたんだ。さくらさんは私の隣に座ると笑いながらお弁当を広げた。そして食べ始めた。

「……その、すみません。気づかなくて。」

 俺がまた謝るとさくらさんは笑いながら「大丈夫ですよー。ちょっと怖かったけどかっこよかったです。」と言ってくれる。どこまでいい人なんだ。

「あの、蛍君。」

 さくらさんから話しかけられてびっくりした。

「はっヒィ……な、な、な、なんですか!?」

「なんかいつもよりこじらせてない?」

 と苦笑。あぅ……恥ずかしい。

「今日、一緒に帰りませんか?」

「帰る…俺とっ!!!???」

「だめ?」

 と上目遣い。何?天使?俺死ぬ?あっ、やばい鼻血出る。かわいすぎる。食べてしまいたい。やっぱ好きだわ。さくらさんの事。俺ほどさくらさん愛せてる人いないべ。いやいねーよ。

「いいに決まってるじゃないですか!!むしろいいんですか?…俺で。」

「どうして?」

「だって…さくらさん、琢磨の事好きなんでしょ?」

 うわ俺キモっ。思わず自分で自分にツッコミを入れてしまった。

「琢磨君?好きっていうか…優しい?私が好きなのは神原先輩だよ!」

 !!!!!?????

 まさかの琢磨無関係。そしてライバルはまさかのイケメン先輩。あの、冷たい冷血漢が?確かにイケメンだけど……。もうやだ。

「蛍君?」

 俺はさくらさんの肩を両手で掴んで言った。

「さくらさん!!俺は貴方が好きです!死ぬ程愛してます!!」

 

 ……………うん?

 

 俺何してんのぉぉぉっ!!!!顔が一瞬にして真っ赤になった。口走った。さくらさんドン引きじゃん。終わった……。俺の青春。さようなら。あぁもう最悪だぁ!!!!

「あ、ありがとう?」

「あァ…もう。すみません。」

「やっぱりなんか今日変だよ?どうしたの?」

 もう、話そう。話さないとただのやばい奴だ。

「…嫉妬してんです。すみません、かっこ悪いのはわかってるんです。けど、俺だってさくらさんが好きなのになんか…琢磨と一緒にいて嫉妬してんです。すみません。」

「………あやまぁ…。なんか、嬉しいね。ありがとう蛍君。」

「そんな…。」

「じゃあ今日一緒に帰ろっか。」

「はい。ありがとうございます。」

 やっぱり、さくらさんが好きだなぁ。


 恋って苦しいな…。


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