五通目 手作りラーメンお家デート

 今日はラーメンの日!しかも、蛍君のお家のラーメン!楽しみだなぁ。何なら初めての男の子の部屋も…。

 蛍君と約束の公園で待ち合わせ。少しばかり早く来てしまった。しかし蛍君はもういて、一歩遅かったなと思い知る。蛍君は少し大人びて見えた。どこを見てるのか青い空を仰いでいた。でも、私を見ると子供らしく笑って近寄ってきてくれた。ほんのり赤い頬。ふわふわ揺れる茶色みがかった黒くて短い細い髪。

「さくらさん!こんにちは。」

「こんにちは、蛍君。ごめん、遅れちゃった。」

「いえ、俺も今来ました。」

 眩しいくらいの笑顔と少し不安気にハの字になった太めの眉。汗もかいている。

「調子悪い?」

 私がそう言うと、蛍君は顔を真っ赤にして慌てた。

「え!?どうしてですか?」

「汗とか酷いから。」

 すると、がっかりしたように両手で顔を支えた。顔は真っ赤になっていた。

「だってぇ……その言ってしまえば俺ん家に来るわけじゃないっすか。なんか、緊張しちゃって…。」

「なんで?」

 緊張するの私じゃない?

「え…!?なんでって……好きだから。」

 最後の方は声が小さくてうまく聞き取れなかった。でも蛍君の顔は爆発しそうなほど赤くなっていた。蛍君は「行きましょ。」と言って私の袖を軽く引っ張って歩き出した。



 着いたのは食堂みたいなラーメン屋さん。

      『もぐもぐ堂』

 可愛らしいお店だった。蛍君は私を座らせると大きな声で厨房に向けて「親父!」と言った。

 すると大きな蛍君のお父さんが厨房から現れた。そして私を見るなり手をタオルで拭きながら話しかけてきた。

「あんたがさくらちゃんか!息子から話は聞いてるぞ。可愛い彼女さんやなぁ〜。」

「か、かのっ!?」

「父さんやめてや。違うから!」

 関西弁?なんかお父さんも蛍君も少しなまってる。てか、彼女さん!?私が?

「なんや、違うんか?」

「違うから…。」

「なんや〜。蛍永が一方的に好きなだけなんか。」

「んなっ!?」

 蛍君がまたも真っ赤になってしまった。お父さんと仲いいのかな?てか、本当に私のことが好きなのかな?蛍君。

 蛍君はお父さんの背中を押して「醤油ラーメンよろしく。」と言った。あっ醤油ラーメン好き。お父さんがいなくなって静かになると蛍君も私の前に座って「ふぅ…。」と溜め息をついた。

「さくらさんすみません…。」

「いえいえ。仲いいね。」

「そんなこと…。そういえば俺の親父関西出身で俺に押し付けてくるんです。だから親父の前では関西弁になります。」

 あぁ、なるほど。

「あまり私を気にしないでいつも通りでいいよ。」

 蛍君は俯いて「はい…。」と言った。そばから醤油ラーメンのいい香りがした。すると厨房から湯気を立てたラーメンをお盆に二つ乗せたお父さんが現れた。コトッと音を立てながらラーメンを机に置くと「ゆっくりしていってな。」と言ってくれた。お、美味しそうなラーメンだァ…!!私は目を大きくしてラーメンを見つめた。そばで蛍君が笑ったのがわかった。

「頂きます!」

「俺も頂きます。」

 から沢山頬張った。ここのラーメンは神なのかぁ!?最高に美味しかった。蛍君も嬉しそうに私を見ていた。


 ラーメンを一瞬にて平らげた。幸せは一瞬。そう思った。うっとりと顔をあげ、空になったラーメンの器を撫でた。蛍君はなんともう4杯目。やはり次元の違う人だった。蛍君は私を見ると「あと何杯食べたいっすか?味変えてもいいんですよ?」と言った。どんだけ食べさせる気なんだ。

「もう大丈夫。ありがとね。」

「遠慮しなくていいですよ。では、味噌ラーメンも頼みますね。」

 ……うん?

「あっ、このあとはどこで食べたいですか?」

「いやちょっと待って。もう入らない。」

「そうで…すか。ならパンケーキにします?」

 食い意地張り過ぎでは?

「ありがとう。また今度にしない?」

 蛍君は子犬のように悲しんだ。

「じゃあ……また今度にしましょう。最後に、母さんに会ってもらってもいいですか?朝から煩くて。」

「もちろん!!」


 


        “K” 

 

 「母さん、来たよ。」

 俺がそう言うとさくらさんは「こんにちは。」と笑った。あぁ、眩しい。天使…。母さんは女の子の声を聞くとすぐにこっちに来た。そしてねっとりとした口調で言った。

「あら〜、桜薇さんだっけ?お父さんから聞いてるわ。うふふ、可愛らしいわねぇ〜。蛍永の母ですぅ〜。」     

 やめて、恥ずかしい。さくらさんに夢中の母さんはいきなり俺を見て「いい彼女さんじゃないっ!」と言ってきた。さくらさんの顔はみるみる赤くなった。俺まで恥ずかしい。熱い…。

「すみません…、彼女じゃないです。」

 さくらさんは小鳥が囀るかの如く可愛らしく言った。あぁ、もう好き…。

「やめてよ母さん。違うから…。」

 俺がそう言うと母さんは「あらあら、残念ねぇ〜。でも桜薇さん?私達はいつでも大歓迎だからね?ゆっくり考えてあげて?」

 やめてよ母さん!!恥ずかしいっ!!まだろくに告白できてないのっ!!!はぁ~~~っ…。やだァ…。顔が熱い。冷えた手で、頬を隠す。さくらさんは「はいッ!」と言って笑った。あぁもう、本当に俺、さくらさんのこと好きだなぁ…。



「また来てください。」

 さくらさんが帰るというからそう言うとさくらさんは俺を見上げて「うんっ!」と笑ってくれた。幸せだったなぁ…。ずっと時間が止まってれば良かったのに。さくらさんの背中を見つめながら微笑んだ。手紙、また書こう。



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