三通目 お食事デート

 蛍君は顔バレもしてしまい、積極的にクラスまで会いに来てるようになった。また、反応は乙女だけど。そう、つまり千花にも蛍君の顔がバレた。千花はニヤニヤしながら言った。

「で?お顔の方は何点?」 

「うーん…別にイケメンじゃないんだよなぁ、目は真ん丸だし、頬などもぷっくらしてる、太眉で少しハの字に下がっててどちらかというと可愛いに属する。だから10点中6点。」

 千花は少し引くようにして「ガチやん…」と言った。ガチで悪いか。本当、高身長で整ってる方なんだからもっと凛々しくいればいいのに。そしたら悪くない顔してるのになぁ。少しがっかりする。

 千花はにっこり笑って言った。

「まぁ、好きになればかっこよすぎて仕方なくなると思うよ。」

 そうかなぁ。と溜め息をつく。なんで蛍君は私を好きになったんだろう。


 お昼。私は千花と食べようと千花に近づいた。すると蛍君の声で小さく「桜薇さんいますか?」って言っているのが聞こえた。教室の扉には少し顔を紅潮させた蛍君が見える。千花は私に言った。

「蛍永君のとこ行ってあげなよ。」

 私は千花に感謝しながら蛍君の方へ行った。


「私がどうかしました?蛍君。」

 蛍君は沸騰するように顔を真っ赤にした。そして口元を手で隠した。

「あ、あの!一緒に…ご飯食べませんか?」

「いいですよ!どこでですか?」

 蛍君はうまく喋れていない。暫く待っていると私の服の袖をくいっと小さく引っ張って「おすすめの場所、あります。」と言った。その仕草、もはや女の子?そう思いながら蛍君について行った。


 連れてこられた場所は屋上。ふぅ~と優しく吹き付けるやわらかい風が心地よい。いつの間にか、青いエコバッグにたっぷりの購買のパンを入れている蛍君はあぐらをかいて白いコンクリートの上に座った。そして、私に手招きした。

「ここ良いだろ?僕、ココすっごく好きなんだ。」

 ニカッと太陽のような笑顔を浮かべる。そして私が隣に座るとパンを食べ始めた。私も食べようと思って弁当を開けた。すると、一番に蛍君が反応した。

「それって、桜薇さんの手作り?」

「そうだよ。」

 蛍君は子供のように目を輝かせて私の弁当を見た。私はなんか嬉しくなって言った。

「おかずあげようか?」

「え?!?!いいの!?」

 大袈裟だなぁと苦笑。私は笑いながら箸で卵焼きを持ち上げて蛍君に「口あけてください。」と言った。するとまたも顔を真っ赤にして、「いいンスか?」と聞いてきた。私は「いいけど。なんで?」と聞くと林檎みたいな顔の蛍君はもごもご言った。

「その、間接…キ、スじゃないッスか…。」

!?!?!?

 間接キス!?考えてもみなかった。なんか恥ずかしい。私の顔もみるみる赤くなった。そんな私の顔を見て蛍君はふにゃりと笑った。

「間接キス、嫌ですよね。でも、箸持ってなくて…もしよければ、手でも…。」

「間接キス嫌じゃ…無いんすけど、その、えっと…………。ッ手で行かせてもらいます!!」

というとガバッと卵焼きを掴んで口に突っ込んだ。蛍君の顔はみるみる明るくなっていった。

「すっごく美味しいです!!」

 そう言ってくれた。顔はまだ赤くてそれが幼さを倍増させた。「良かった」私がそう言って笑うと蛍君は照れくさそうに俯いて言った。

「今度は俺も何か作ってきますね。」

「蛍君料理できるの?!」

「はい。お母さんが料理の先生でお父さんがラーメン屋の店主だから無理矢理教えてくるから。」

「楽しみにしてる!」

 蛍君はへなぁと笑って「ありがとうございます。」と返した。私は弁当の具を口に突っ込んだ。

「そういえば、手紙を読んでくれた?」

 蛍君は再び顔を真っ赤にして視線をずらした。そして「はい。」と返した。すぐにバックから茶色い封筒の私が書いた手紙を取り出して口元を隠すようにして笑った。

「宝物です。」

 大袈裟だなぁ、蛍君は。私も嬉しくなって笑い返した。

「いつご飯行く?」

「え!?…ほんとに行ってくれるんですか!やったー!!行きたいとこある?俺な、俺な、駅前のパンケーキもっかい食べたい!……あっ…。」

 びっくりするほど元気だった。いつも女の子みたいだけど今のは少し男の子らしかったと思えた。蛍君は取り乱したことに照れて顔を大きな両手で覆い隠した。いつもの蛍君に戻っちゃったな。

「あ~ァァ、もう最悪だぁー。」

 と小声で。私はなんだかそんな蛍君が面白くて笑った。

「今の!今の蛍君の方が好き…かも。」

 私はそう蛍君に伝えた。すると蛍君は「え!?」と言いながら後ずさった。

「あの…なんかすみません。」

「さっきの感じてで話してよ!」

「その…。無理ですぅ。恥ずかしい。でも、あの、俺って言っててもいいですか?」

「もちろん!」

 蛍君の新鮮な姿を忘れたくなかった。だから私はじっと蛍君を見つめた。

「ヒューヒュー、お熱いですねぇ蛍くぅ~ん?」 

 この声は、智也。

「ゲッ」 

「ゲッとはなんだ。」

「なんでくんだよぉぉぉぉぉ!!!!!」

 珍しく蛍君が取り乱す。もしかして、ずっと見られてた?恥ずかしい…。蛍君の顔は真っ赤だった。私も、多分。智也と翔君。なんで見てんだよぉ…。

 蛍君は私の耳に囁いた。

「これ、ID。連絡待ってます。」

 と、小さなくしゃくしゃな紙を渡された。きっと、渡そうか迷って握っていたのだろう。蛍君はその場を去った。




 連絡先を貰った。早速『こんにちは』『(よろしくスタンプ)』を送った。するとすぐ『(よろしくスタンプ)』『こちらこそ』返ってきた。なんか、男の子と連絡するの新鮮だな。私は思わず笑ってしまった。しかし、あの蛍君の真っ赤な顔が見れないのは少し残念に思えた。

『いつ空いてますか?』

 そう、メッセージが来た。私は開いてる日付を連絡した。結果、一緒に食事をする日は明後日の日曜日になった。今から楽しみだな。

 でも、男の子とふたりきりってデートじゃない?

『デートだね!』

 私がそう送ると既読はつくもなかなか返ってこない。しかし私には真っ赤になってる蛍君がわかる。『そうですね!』

 なんか面白いな…。



 土曜日の朝。私はのんびりしてるお母さんに聞いた。

「お母さんって初デートどういうの着ていった?」

「あらあら、もしかしてケーさん?」

 お母さんにバレバレで恥ずかしい。私は「そう…。」と素直に言うとお母さんは嬉しそうに話した。

「そうねぇ、私はお父さんに直接どういう服がいいか聞いたわぁ。するとお父さんったら“いつものお前らしい姿が好きだ”って…。だから、何着てもきっと喜んでくれると思うわ。うふふ。」

 恥ずかしい。もうそれしか考えられない。私は、部屋に戻った。



 当日。蛍君と約束した駅で待ち合わせをしている。またせる訳にはいかないと十分位早く来た。まだ蛍君はいない。

 暫くしてると蛍君が来た。赤色のパーカーの上から、ベージュのジャンバーを羽織ってお洒落そのものだった。しかし乙女さは拭いきれてない。

「さ、桜薇さん!?早いですよ…。」

「えへへ。」

 私がそう笑うと蛍君は照れくさそうに顔を赤くしたがすぐ「電車来ましたよ。」と言って歩き出してしまった。私もあとを追うように改札を抜けた。電車に乗ると蛍君は私にスマホを見せた。その画面には美味しそうなパンケーキが映っていた。見てるだけでお腹が空いてくる。

「これ、前言ってた駅前のパンケーキ屋さんのです。凄く美味しかったので一緒に食べましょうよ。俺、結構気に入ってて…。」

「賛成!私も食べたいと思ってた。」

 私が笑うと蛍君は子供らしく笑い返してくれた。パンケーキ楽しみだな!蛍君は一生懸命話を振ってくれて、助かった。蛍君のそういうところ良いと思える。でも、顔は真っ赤でうまく喋れてなくてほぼなんて言ってるか聞こえないけど。まぁ、可愛いということで。

 駅に着くと人が沢山いた。蛍君は私の方を見て「離れないでくださいね。」と言ってくれた。蛍君についていくとすぐそばにお洒落な、パンケーキ屋があった。蛍君は「ここです。」と言って入って行った。そして、店員に説明を受けて席に着いた。向かい合わせの蛍君は「ここ、一人で来るのなんか恥ずかしくて。」と笑った。 

「私も、蛍君と来れて良かった。」

 そう言うと蛍君はほんのり顔を赤らめて笑った。

「蛍君もパンケーキ作れるの?」

「はい。一応…。」

「すごいなぁ。私、あんまり作れないから。」 

「お弁当美味しかったですよ?」

「ありがとう。」 

 蛍君はどこまでいい子なんだ。一緒に話してると感動する。その後パンケーキを注文した。私はシンプルプレーン。蛍君のはミックスベリーのパンケーキ。どちらも美味しそう。私達は少しづつ分けながら美味しく頂いた。手紙に書いてあった通り、幸せ過ぎる。こんな幸せになっていいのかと思ってしまう程。幸せで楽しいひと時だった。

 私達が店を後にしたのはもう、夕陽がオレンジ色に眩しい時だった。随分と満喫してしまった。私も蛍君も満足気に笑ってしまった。

 だいぶ仲良くなったなぁ…。

「今日はありがとうございました…。その…また一緒にご飯行きたい…です。」

 夕陽のせいで真っ赤な蛍君の顔が見えなかった。かわりにオレンジ色と白のハイライトを溜め込んだ丸いブラックストーンのような瞳が、満足気に細められて私を見つめているのが見えた。

「うん。また行こうね、一緒に!」

 私はそう言って大きな蛍君の隣を並んで家に向った。

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