第33話【閑話 ララとメイシス王女】

婚約が決まったふたりがそれぞれに持っている思いをそれぞれの視点で書いてみました。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ーーーララ編ーーー


『初めて出会った時からこうなる事を望んでいたのかも知れないけれど竜族としてはまだまだ子供の私は恋愛なんてさっぱり分からなかった。

 これが好きって言う事なのかな?思いが溢れて皆の前で大泣きしちゃったから恥ずかしかったけど全部をタクミは受け止めてくれた』


「分かったよ。ララ、千年を一緒に生きよう」


『そう言われた事が何より嬉しかった。

 私とタクミが結婚?これって現実なのかな?私は『竜族』タクミは『人族?』普通ならば相容れない異種族の関係。

 でもタクミは千年生きる竜族よりも長生きな人間。

 こんな異世界に来たんだからこんな変な出会いがあったっておかしくないかもねー。

 タクミはいつも『世の中の人の為』って色んな道具を作り出すけど『自分だけがー』って言う事は殆んど聞いた事がない。

 無欲なのか天才の余裕なのか知らないけれどカッコつけ過ぎかなーって思っちゃうわよ』


「僕は権力には興味がないしお金も皆が生活出来るだけあったらいいんだよ。

 あとは家族皆が楽しく暮らせたらそれが一番の幸せかな」


『なんて偉そうな事を言う割には錬金術に没頭すると周りの事なんかみんな飛んじゃうくせにねー。

 そういえば「結婚するなら成長したララとー」だってあの成長する魔道具1日しか持たないって言ってなかったっけ?常時使える物が作れるなら初めから作ってくれれば良かったのにね。

 ああ!でもタクミは今の姿が可愛いって言ってくれてたし!成長したら私の事は可愛いって言ってくれなくなるのかな?それはちょっといやかなり嫌かなー。

 まあいいや、どっちにしても結婚したら毎朝「おはよう今日も可愛いね」と言わせてやるわよ!

 この幸せが夢でなく私の元に届いてくれますように……』


   *   *   *


ーーーメイシス王女編ーーー


『やりましたわ!ついにあの方を説得できましたわ。これであの方のもとで錬金術の鍛練ができるわ。なんて素晴らしい事なんでしょうか』


『小さい頃から王宮の書庫で色んな本を読んだけれど一番興味を持ったのが錬金術のお話だった。

 お姉様達の婚約話を聞かされてはどこの跡継ぎの男性が素敵だとかあの家は税制的に裕福だとかの話ばかりで全く興味を引かなかった。

 ある日交流のある貴族に優秀な執事が居るとの話を聞いた。

 その執事は『服に宿る精霊』だと聞き驚いた。

 しかも彼はある人物が召喚主となって召喚した精霊だと聞いて更に驚いた』


『どんな人なんだろう。私の中で想像が脹らみ色んな妄想をする日々が続いた。

 そんなある日お父様から私の魔法適正検査のお話があった。

 魔法適正は自分の価値を確かめる重要な検査、これで何も無ければおとなしく何処かの貴族の嫁になろう。

 私も王女として生まれたからにはそのくらいの覚悟はあるつもりだった。しかし……』


「メイシス第3王女殿下には錬金術士としての素養がおありになります。しかもかなりの確率で上級錬金術士に届くでしょう」


『私の胸は高鳴った。

 生まれて今までこれ程心が踊る案件は無かったと思う。

 お父様もお母様も大変驚かれたがそれにも増して喜んでくれた。

 それほどこの国の直属の錬金術士レベルは厳しいものだったからだ』


「最高レベルの家庭教師をつけねばならんな。

 しかし今の宮廷錬金術士でもそこまでの効果は期待出来ん。

 平民に一人だけ飛び抜けた錬金術士が居るが権力に対して全く興味が無く、王族や貴族からでも命令に対しては全くと言って良いほど断られるから厄介なんじゃ」


「王族からの命令を断るのですか?そんな平民がいたら不敬罪で捕まる気がするのですが?」


「うむ。普通ならばそうなんじゃがその錬金術士は民の間では『錬魔士』と呼ばれ絶大な人望を誇り、傍に自らが召喚した精霊達を従えて理不尽な要求ははねのけてるんじゃ」


「横暴な方なのですか?」


「いや、命令は聞かないが話し合いは応じるし所属するギルドに依頼すれば錬金術の依頼も受けてくれる。要は命令されるのが嫌なのだろう」


「私、その方にお会いしてみたいです!そして優秀ならば家庭教師をお願いしたいです」


『ーーー実際にお会いしてかなり驚いたのを覚えている。

 予想に反して若いのに落ち着いていて礼儀も正しい。

 でも確かに周りにいる精霊達は凄い魔力を感じるし、お弟子さんのララさんは綺麗な女性なのに抜群の錬金術の腕前だった。

 あれだけ簡単に錬金術を使いこなしているのに錬魔士様はララさんに「まあまあ」とか言われていた』


「娘の家庭教師をやって貰えないか?」


『そう頼むお父様の横で私の心はその時すでに決まっていたのかも知れない。

 その人のもとに嫁げば私が私でいられるのではないかと……』

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