第28話【メイシス王女の錬金工房合宿 その三】

 僕は諦めて夕食の準備をミルフィに頼むとメイシス王女を連れて工房の素材棚に行き説明を始めた。


「夕食が出来るまでこの工房における注意事項の確認をします。

 基本的に僕の許可なく工房の素材や機器には触れないでください。

 大抵の物は単なる素材ですが、中には触ると怪我をする物や毒になる物も含まれていますので注意が必要です。

 よろしいですね?」


「はい。分かりましたわ。必ず確認してから扱うようなしますわ」


『うへぇ。王女様に偉そうな物言いをするのは精神的に辛いものがあるな。

 しかし、事故があってからでは遅いからしたかないか』


 ひと通りの説明が終わる頃ミルフィから夕食の準備が整ったとの連絡がきたので食事になった。


「なっなんですの?この料理は!?初めて見る食事ばかりではないですか?」


 興奮したメイシス王女は出された食事を頬張って叫んだ。


「しかもどれも王宮で出される食事より美味しいものばかり!一体この食事はなんなのですか!?」


『あー。しまった。ミルフィに伝えておくのを忘れていた』


 工房の食事は基本的に僕の居た世界の食事を再現して貰っていた。

 勿論最初は僕が料理錬金で作ってレシピをおこし、それをミルフィが調理用のレシピに落とし込む手間のかかる作業を繰り返して今の形にしていたんだが、当然こちらの世界の食事とは全く違った物になるからメイシス王女が驚くのは無理もない。


『まあ、3ヶ月も暮らすなら今さら食事をこの世界の物にあわせるのも面倒だから仕方ないか』


「ああ、この食事は今までに僕とミルフィで一緒に考えて作った料理達なんだ。

 あまり馴染みのない料理だから驚いたかもしれないけれどまあ食べてみてよ。

 もし合わないようなら明日からは普通の食事を準備するから」


 僕はメイシス王女にそう伝えるとミルフィお手製の夕食をおいしく食べた。


「口に合わないなんてとんでもないです!全てにおいて私の人生最高の夕食である事は間違いないですわ!」


「それは良かった。ミルフィも作ったかいがあったと思うよ。

 じゃあ暫くはこういった食事で大丈夫そうだね。

 ミルフィすまないが頼んだよ」


「了解しました。マイマイスター」


 ミルフィは僕に微笑みながら頷いた。


「あっ!でもこんな食事ばかりしてたらもう王宮には戻れなくなるかもしれませんわ。どうしましょう」


『いやいや、誉めるのはいいけど冗談はやめてほしいぞ……』


 色々とあったがメイシス王女の講習初日は無事に終了した。


「おはようございます!今日も講習宜しくお願いします!」


 今日もメイシス王女は元気だった。

 あれから約2週間毎日座学と魔力操作講習ばかりを反復練習させてきたのでそろそろ飽きてテンションが下がると予想してたが驚いた事に全く下がらないどころか上がりまくりで皆の中に溶け込んでいた。


「ああ、宜しく頼むよ。しかしメイシス様この2週間でかなり魔力操作が上達されましたね。

 予定では1ヶ月くらいかかるつもりだった段階まで進んでしまったから……」


 その時僕はふとあることを思いつきメイシス王女に言った。


「メイシス様。そろそろ次の段階に入ってもいいかと思います。

 それで準備をしたいと思いますので今日は講習はお休みです。

 しかし、ただ休むのも勿体ないのでセジュとミルフィを護衛につけますので街に買い物のおつかい経験をしてきてください。

 場所や買うものやお金はミルフィに指示を出しておくので心配しなくても大丈夫です」


「えー、私は?」


 ララから不満そうな声がかかると僕は「ララには手伝って欲しい事があるから残って欲しいな」と言うと「しょ、しょうがないわねぇ」と了承してくれたので3人で出かけてもらった。


「で?手伝って欲しいものって何?まさか単なる口実だったんじゃないでしょうね!?」


『ギクッ』


「そっそんな事はないぞ。

 この後メイシス王女には錬金術の実技を教える予定だがララも一緒に錬金の基礎を覚えて欲しいんだ。

 勿論ララは既に一定のレベルで錬金出来ることは知ってるし基礎はつまらないかも知れないけれどこれを知ってるかどうかで完成度が軽く倍は違うからな。

 ララも僕の一番弟子と言うならばレベル上げていかないとメイシス王女に抜かれてしまうかもな」


「えー!メイシスってそんなに才能あるの?」


「メイシス王女……な。

 まあ、ララはドラゴン族だから基礎魔力の量が全然違うので単純には比較出来ないんだけど『魔力操作』に関しては既にララより上手いと思うぞ。

 これで基礎魔力の底上げをして実践講習を修了出来たら多分この国くらいの錬金レベルならトップがとれるんじゃないかな。

 ああ、勿論僕とララは除いてだけどね」


「ふーん、そうなんだ。

 でも基礎魔力の底上げって簡単には出来ないわよね?

 そんな事が簡単に出来たらみんなバンバンあがってしまうよね?」


「もちろんララの言うとおり『簡単』には出来ないけど『不可能』とは言えないんだよ。

 基礎魔力をあげるには幾つか方法があるんだけど一番簡単なのは『装備アイテムで魔力を補う』ことだな。

 これは個人の基礎魔力を増幅して底上げするもので魔力操作さえきちんと出来れば安定して高錬金術をこなす事が出来るようになる」


「なるほどチートアイテムね。他にはどんなのがあるの?」


「そうだな、時間がかかってもいいならばひたすら魔力アップ訓練を地道にこなす事だな。

 これは本当に自分の基礎魔力が上がるから向上心があるなら毎日の日課にするといいだろう。

 後は、身体に強制的に魔力を流し込んで定着させる強引な方法もあるけどあまりオススメはしない。

 これは魔力操作が未熟な者にやると魔力暴走を起こして逆に魔法が一切使えなくなるリスクがあるんだ。

 まあこれはやらないほうが無難だな」


「そんな危ない方法絶対やんないでよ!メイシスがそんなことになったら私達全員死罪確定よ!」


「分かってるよ。大丈夫そんな事は絶対しないから。

 まあ期間中は基礎魔力アップ訓練は毎日やって貰っておいて1ヶ月くらい基礎錬金術講習をこなしてから面談をして正しい使い方が出来るようなら僕が道具を作ってあげようと思ってるよ」


「ふーん。タクミはメイシスには優しいんだねー。私には何もないのかなー?」


「いや、ララには前にオリハルコン製の指輪を渡したよね?

 魔力制御補助能力のついた。そのうえまだ何かねだるの?」


「だってさー。結局大きくなれたのだって1日だけだったしー。

 やっぱりさー。タクミの気持ちが欲しいんだー」


「だぁー!!その奇妙なしゃべり方はやめろー!!悪かったと思ってるから服も用意してやったろ?今はそれで我慢しなさい!」


「うー!じゃあさ!今日タクミと一緒に寝ていい?」


「ばっ!駄目に決まってるだろうが!」


「へへぇー。冗談だよー!びっくりした?」


 ララは顔を赤らめながら反対を向いて後ろ手にひらひらさせながら自分の部屋に戻っていった。


『全くびっくりさせやがって。だから僕はロリコンじゃないんだよ……』


 呟きながら昨日の大人ララを思い出して慌てて想像した事をかきけす僕だった。

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