第19話【錬魔士苦渋の決断を迫られる】

「ララ頼みがある!」


「嫌よ!」


 ララは僕の頼みの内容も聞かずに即効で断ってきた。


「そう言わずに頼むよ!」


 僕はララに頼み事をする時の貢ぎ物『甘味菓子』を皿に山盛りにして両手を合わせてお願いをする。


 今までにも何度か目にした光景であるが、今日はいつに無く真剣な表情のタクミに気圧されながらも「今日は一体何のお願いよ?」とララは山盛りの甘味菓子に視線を奪われたまま聞き返した。


「実はある錬金術の効果をテストしたいんだけど誰も協力してくれないんだよ」


「また、とんでもない物を作ったんでしょ?普通ならミルフィさんとかセジュさんとかが協力してくれそうなのに断られるとか普通じゃないと言っているようなものに決まってるでしょう!」


「うーん。普通じゃないと言えば普通じゃないと言えるけど僕の錬金術は普通じゃない物を作るのが仕事なんだから仕方ないと思うんだけどな」


 僕は頭をかきながら作った物をララの前に出して説明をしていった。


「こいつは『変身ブレスレット』と言って身につけて決め台詞を言いながらポーズを決めると何と魔法少女に変身出来てしまう優れ物なんだぜ!」


「それって前に皆の反対にあってボツになった案件じゃなかった?確か変身シーンで服が消えるやつで!」


「ちっ覚えてたか……」


「覚えてたかじゃないでしょう!あれは私も嫌だからね!全く冗談じゃないわよ!」


『本命は他にあるんだけど魔法少女変身ブレスレットは絶対捨てがたいんだよな。いつか絶対に誤魔化してOKさせてやるぞ』


 密かに心に誓いながら仕方ないので僕はとりあえず変身ブレスレットの件は諦めて本題に入る事にした。


「実はこの指輪を着けて僕と一緒に王宮に行って欲しいんだ」


 そう言うとララの前に虹色に光る指輪を見せた。


「まさか婚約指輪エンゲージリング?」


「いやいや、それは無いから!」


 僕は左右に首を振りながら今回の内容を説明することにした。


「僕が錬魔士として世の中に提供している発明品のほとんどはギルドを通してレシピを公開してるんだけど、特別な依頼とかだと公おおやけにはレシピ化しない物もあるんだ」


「その中で国の上層部、特に王族とか公爵とかあたりから特定のレシピをお抱え錬金術士にだけ指導して欲しいと依頼を受ける事があるんだ」


「まあ、大抵の物は僕のオリジナル錬金術でしか作れなかったりレシピ素材がレア過ぎて再現出来なかったりと無理ゲー状態なので断る事が殆んどだけど、今回の錬金術は料理錬金で対応出来るレベルのレシピだから断れなかったんだよ」


「料理錬金で作る料理はレシピがあれば作る事は出来るんだけど出来上がりの味が想像出来るかどうかで天と地ほど完成度が変わってしまう弱点もあるんだ」


「だから僕がやり方を見せながら錬金しても大抵の錬金術士は味が再現出来ない事が多いんだよ」


「もちろんレシピは用意してあるし、素材も用意出来てるのに失敗するから僕の教え方が悪いんじゃないかって直接ではないけど言われてるらしいんだ」


「そんな時に僕が弟子を取ったとの話が広まったので一緒に連れてきて試しに弟子に作らせてみるようにと言われたんだ」


ララはじーと僕を見てから指にはめた指輪を光にかざしながら聞いてきた。


「ふーん。それで私に一緒に行って欲しい訳なんだ。ところでこの指輪は何のためなの?」


「ああ、その指輪はオリハルコン製で魔力制御が格段に上がる性能を持っているから、ララの魔力量を暴走させること無く制御出来るようになるアイテムだよ」


「超高価なアーティファクト級のアイテムだから失くすなよ」


 まあ、オリハルコン鉱石さえ手に入れば錬金で作れるんだけどオリハルコンがなかなか手に入らないんだよな。


「と言う事で一緒に行ってくれるか?」


手を合わせてお願いする僕にララはイタズラな笑みを浮かべて注文をつけてきた。


「そーねぇ。まず、私に作らせたい料理を事前に練習させてくれる事」


「あと、私のお願いをひとつ聞いてくれるならば一緒に行ってあげてもいいわよ」


そう言うとララはお菓子の山からチョコをひとつ口に放り込んで僕の返事を待った。


「ーーーで、そのお願いって何なんだよ?」


「えー!先に言わなきゃ駄目なの?」


「当たり前だろうが!先に承諾したらどんな無茶な要求をするか分からないだろうが!」


「ちっ気づいてたか……」


 逆に気づかないと思う根拠が聞きたいんだけどな。僕はため息をついてララにもう一度聞き直した。


「それで?」


 ララは急に真剣な表情になって僕の顔を見ると願い事を言った。


「私の外見をもう少し成長させて欲しいの。セジュさんやミルフィさんくらいに!」


『がーーーん!!』


 正直驚いた。今の外見がそこまで嫌だったなんて思ってもみなかった。


「なぜだ!そんなに可愛い外見が変えたいほど嫌だったのか!?」


「可愛い?」


 驚きのあまり思わず本音がこぼれた僕にララはきょとんとした顔で聞き返した。


「うっ!」


「ふーん。そっかぁ。タクミはこの姿が可愛いんだぁ」


「タクミってロリコン?」


「ちがーう!大体そのネタは前にもやっただろうが!」


 全力で否定しておかないととんでもない噂が流れたら錬魔士としての立場がまずいことになるからな。


「で?変えてくれるの?くれないの?」


 マジで言ってたのかよ。てっきり僕をいじるネタかと思ったのに。


「なんでそんなに外見にこだわるんだよ?」


 僕の食い下がりにため息をひとつついたララは呆れた顔をして説明を始めた。


「いい?今回の依頼内容はタクミが『噂の弟子』をつれて王宮に行って錬金術の講師を行い『弟子と言う触れ込みの私』が錬金術を成功させないといけないんだったよね」


「そんな所に今の外見の私が行っても馬鹿にされるかタクミがそれこそ幼女ロリコンを弟子にしたと言われるのが目に見えて分かるわよ」


「そりゃあタクミがそれでいいなら私は別にどうでもいいんだけどね」


 正直完全に失念していた。

 今ララが指摘した内容は筋が通っている。

 いつも依頼があるときは精霊の皆と行くことが殆んどだったから特に気にしてなかったが今回は弟子も一緒にと言われてるから連れて行かない訳にはいかない。


 ララが竜族だとは言えないから弟子にした経緯は説明しにくいから詳細を濁すようになるだろう。そうすると外見が可愛い幼女を僕の趣味で弟子にしたとの憶測が流れてもおかしくない……最悪だ。


「で、どうするの?」


 僕は悩んだ。ララを成長させる事は正直出来ない事はない。

 と言うか出来るんだが前に無理だからと突っぱねた経緯があるだけに、ここでやってしまうとこれからも無理を言えば『本当は出来るんじゃないの?』と勘ぐられてしまう事になりかねないのが気がかりだ。


「…………。」


 仕方ない、ここはあの方法でやり過ごすとするか。

 僕はひとつの方法を決めるとララに向かって説明をすることにした。


「分かった。ララの意見を尊重しよう。

 今から特殊なアクセサリーを錬金するからちょっと一人にしてくれ。

 そうだな一時間くらいミルフィ達と買い物でもして時間を潰してきてくれると助かる」


「ミルフィ頼めるかな?」


「了解ですのマイマスター。

 ララさん行きましょうか。

 ちょうど夕食の買い物に行こうと思ってたんですの」


 ララは少しだけ怪訝な顔を見せたが大人しくミルフィと買い物に出かけてくれた。


『さて、それじゃあ早速作ってみるか。上手くいくといいんだけどな』


 僕はいつものように魔力液と魔石に砂時計を準備して錬金釜に向き合った。


   *    *    *


「ただいまー!タクミ上手く出来たの?」


「ああ。つい先程出来たばかりだ。ほら、これを髪に着けて自分のなりたい姿を出来るだけ明確に思い浮かべてごらん」


 僕はそう言うとララに蝶々の形をした髪飾りを手渡した。


「これを髪に着けて思い浮かべればいいのね?それってどんな姿でもいいの?」


「いや、基本的には今の人型ベースからは大幅には変わらないぞ。やらないとは思うが他の種族になったり性別を変えたりは出来ないからな。

 せいぜい身長を伸ばしたり髪を伸ばしたり体型を変えたりするくらいだからな」


「ふーん。まあ、とりあえずやってみるわ。えーとアクセサリーを髪に着けてっと私のなりたい姿を思い浮かべるのね」


 ララは僕の言われる通りにアクセサリーを着けて目をつむり、なりたかった姿を思い浮かべた。


 次の瞬間ララは自分の体にいつもより多くの魔力が廻っているのを感じていた。

 体が火照って関節の軋む音と何かが裂ける音が頭の中に響き体が大きくなる感覚に期待と不安が駆け巡った。


 体内の魔力が安定した感覚にララはゆっくりと目を開けて自分の姿を見た。


 そこにいたのはララの想像していた理想の体型を持つ人間年齢で10年後のララだった。


 身長も160センチくらいまで伸びてポニテに束ねた髪も腰まで届いていた。

 胸もミルフィと同じくらい成長していて、元の姿からは想像出来ないくらいの別人に仕上がっていた。


 ただ体の成長に服が追い付く訳も無く、申し訳程度に隠された服の残骸を見て慌てて叫んだ。


「きゃー!タクミあっち向いてぇー!!」


 後ろを向かされた僕の後ろでララはミルフィに服を貸してくれと言って奥の部屋に駆け込む音がしていた。


   *    *    *


 服を着替えたララは姿見に写る自分の姿をまじまじと見て叫んだ。


「そうそう!これよ!これ!私がなりたかった姿はこれなのよ!なによやれば出来るじゃないの!」


 予想通りのララの言葉に内心ため息をつきながら僕はララに言った。


「仕事は2日後の朝からだから今日と明日はレシピのおさらいと完成精度上げの特訓だからな」


「分かったわよ。せっかくだからオシャレしてちょっと出かけたかったけど仕方ないか」


 ララは残念そうな顔をしたが約束なのでしぶしぶ了承した。


僕は『ただ、今の姿は3日しかもたないけどな』との言葉をララには聞こえないように呟いて悪い笑みを浮かべながら特訓の準備にかかった。

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