第14話【錬金魔法士としてのお仕事】

「ねぇタクミ。あなたって日頃はどんな仕事してるの?」


 ある晴れた日、工房で錬金釜の前で依頼の錬金をしていた僕にララが聞いてきた。


「そうだな。ギルドや貴族から特別な依頼を受けることもあるし、趣味で料理のレシピを作ることもあるんだけど僕はこの世界には創造神のスカウトで来たからそれに添った仕事も定期的にする必要があるんだよ。

 具体的に言うと、この世界ではまだ確立されていない薬の発明や便利な道具の開発をしてレシピに起こすとかをやってるんだ」


「ふーん。結構大変なんだね。

 ところで今は何を作ってるの」


「ああ、今はレシピのある洗髪薬と新しく開発を始めた洗った髪を乾かすドライ・ヤーのレシピを作る作業をやってるんだ」


「この世界では石鹸自体は一応あるんだけど手足を洗うくらいなら良いけど、まだまだ髪を洗うには使い勝手が良くないんだ。

 男はともかく女性には綺麗であって欲しいじゃない?まあ僕の勝手な主観だけどね。

 で、作ったものをテスト的に使って貰ってたんだけど在庫が切れてしまったから追加で作る事にしたんだ」


「そのついでに髪を早く乾かす方法が無いかと言われたので新しい魔法道具を作ってみる事にしたんだ」


「ドライ・ヤーは風の魔法と火の魔法を組み合わせた髪を乾かす魔法道具なんだけど魔法を使えない人でも使えるように魔石動力と魔力充填を効率よく出来るように作ろうと考えてるんだ」


 僕はそう言うと洗髪薬の材料である生来の実と世界樹の雫とガーマの油を取り出した。


「そういったレシピって何処から調べてくるの?」


「洗髪薬は元々僕が作った薬でレシピも僕が作ってストックしてるんだ。

 まだ試験段階だからオープンにはレシピ公開してないけれどね」


「レシピを作る?」


「うん。そりゃあ誰かが作らないとレシピがひとりでに沸いて出る事はないからね」


「まあ、それはそうよね」


 ララは興味深そうに僕の手元を覗き込んできた。


「普通は色々な素材を組み合わせて何度も実験してサンプルを作るんだけど僕の場合はかなり特殊で一番最初は作りたい完成形を思い浮かべて薬なら魔力液だけ、個体物なら外装に使いたい金属の塊を一緒に釜に入れて錬金するだけで大体思っていた物が出来るんだ。

 そのあとで出来た物を詳細分析して錬金レシピを作成するんだよ」


「思った物が何でも錬金出来るって反則的にヤバイんじゃないの?」


「まあ、普通ならそうだね。

 知識さえあればどんな破壊力のある武器でも出来るし、大げさじゃなく世界征服でも出来る能力だと思うよ」


「でも、今の僕は世界征服そんなことには興味が無いし、色んな事を実験出来て周りの皆と楽しく過ごせたらそれ以上の幸せは考えられないんだよ。

 まあ、もし世界征服そんなことを考えてもおそらく創造神ガルサスが止めるか僕を殺す事になると思うけどね」


「ふぅん。竜族の私には人間の幸せの標準がどのくらいかよく知らないけれどタクミはかなりの変わり者って事だけは良く分かったわ」


「まあ、僕は人間だけど異世界の知識を持った特殊な立場の人間だからこの世界の基準とはズレがあるかも知れないね」


 僕は笑いながら洗髪薬の仕上げに取りかかった。


「よし、このくらいでいいだろう。

 ララ、君も洗髪薬を試してみるかい?」


「えっ!?いいの?・・・でも、本当に大丈夫なんでしょうね。

 使った次の日には髪が抜けてしまったり、真っ白に染まったりしないでしょうね?」


(どんだけ信用ないんだよ……)


「大丈夫だよ。今までも何人かテストして貰ったけど、みんな綺麗になったと喜んでくれた人ばかりだからね」


「それならば試してあげないこともないんだからね!」


 ララはそう言いながらも嬉しそうに洗髪薬の入った瓶を繁々と見つめていた。


「さてと、今回はドライ・ヤーを新しく作るんだけど、いつもなら魔力液と金属塊で作るものを今回は鉄鉱石と持ち手用に木塊といった素材で作る事になるんだ。

 でも、今回は風と火の魔法石も組み込まないといけないからちょっとだけ複雑なんだよ」


 僕はそう説明しながら次の工程に入った。


「素材を全て入れてから完成形を思い浮かべて……ぐーるぐーるっと。


 ーーーよし、出来た!」


「ふーん。それがドライ・ヤーなの?へんな形ね」


 確かに僕が想像していた完成形とは形が少々違っていてパッと見銃のようにも見えた。

 グリップの辺りにはボタンらしき物が3つ着いていて上から【赤】【青】【黄】に分かれていた。


 おそらく僕のイメージ通りなら、赤いボタンが温風で青いボタンが冷風、黄色いボタンが停止ってところだろう。


 試してみたいが試運転で髪を乾かす為にわざわざ髪を洗うのも面倒だし、いきなり頭に向けて使うのもためらわれたので側にあった花瓶に生けてあった花に向かって赤いボタンを押してみた。


『ぽちっ』


『ぼおっ!ぷしゅー』


『パラパラパラパラ』


 ボタンを押した瞬間、筒先からは温風どころか炎の塊が発射されて花を見事に炭と化していた。


「ちょっと何よそれ!?」


「ドライ・ヤーって髪を乾かす道具じゃなかったの?そんなのまともにくらったら頭が消し炭になるわよ!」


 結果を非難するララの声も聞こえないくらいに僕も硬直してしまっていた。


(なんで温風のはずがファイアーボールの発射武器になるんだ?)


 訳が分からないまま、隣の花瓶に向けて【青いボタン】を押してみた。


『ひゅおっ!カチン!!』


 今度は花が花瓶ごとカチカチに凍っていた。

 なんとなく予想はしていたが、やはり現実になると首を捻ることばかりであった。


「マジかー!」


「こうなると【黄色いボタン】も気になるよな。

 どうせ雷の魔法でも出てくるんだろ?」


 僕は後の展開がある程度読めていたが、好奇心に勝てずに黄色のボタンを押してみた。


『バチバチバチ!!』


「やっぱりかー!!」


 僕は予想通りの展開に自分で突っ込みを入れていた。


 ボタンの効果は分かったけれど、どうして今回に限ってこんな変な魔道具になったんだろうか?


「やはり魔法石を混ぜたのがまずかったのか?しかし、道具に追加効果をつける他の方法が思い付かなかったんだよな……」


 僕が失敗した理由を考えていると、セジュが横から僕を覗き込んで声をかけてきた。


「マスター様。魔法を得意としている私と致しましては今回の原因は魔法石にあるかと推測します。

 魔法と言うものは属性相性に厳しい法則があります。

 世界の四大元素の【火】【水】【雷】【地】それに【聖】【闇】【時】の三つが加わって世界七大魔法と呼ばれています」


「それぞれの属性とも単独で発動させるのが基本で複数の魔法を混ぜると魔法の制御が格段に難しくなり無理をすると暴走することもあります」


「魔法石はそれらの力を封じ込めたものですから強引に融合させようとすると思いがけない結果になったのでは無いかと推測しました」


 僕はセジュの推測を聞いて自分の中の失敗に気がついた。


「そうか!魔法石を初めから混ぜたから予想外の融合になったのか。

 確かに僕の錬金は今まで魔力液だけか入れても外形の金属塊だけだったからな。

 余計な物を入れて失敗するとか初歩的なミスだな」


「まあ、これはこれで僕の護身用の携帯武器に使うとして、新しく作り直してみるか」


 僕は初心に帰って魔力液と鉄塊と木塊だけを入れた錬金釜に向かい完成形を思い浮かべてかき混ぜた。


 ほどなくして先ほど失敗したドライ・ヤーとほぼ同じ形の物が出来上がった。


 前の物と違うのは動力が着いていない外形だけということとボタンが3つとも白色だということ、そしてグリップの側面に魔力石を嵌め込む穴が2つ空いているのが特徴だ。


「よし、とりあえず見た目は大丈夫そうだな。

 後はこの穴に風の魔法石と火の魔法石を嵌め込んでっと」


 風の魔法石を嵌めた時に上のボタンが青く変化し、火の魔法石を嵌めた時に真ん中のボタンが赤く変化したのを確認した僕はそっと青色のボタンを押してみた。


『カチッ!ゴー!』


 新たに作り治したドライ・ヤーからは気持ちの良い冷たい風が吹き出してきた。


「おおっ!うまくいった!!」


「よし!ならば赤いボタンを押したらどうなるかな?」


 冷風がうまくいった僕は機嫌よく、無造作に赤いボタンに手をかけた。


「ちょっと!こっち向けないでよ!またファイアーボールが飛んできたらどうするつもりよ!」


 ララの激おこモードを華麗にスルーして、僕はボタンを押してみた。


『カチッ!』


 音はするけど何も出て来なかった。


「きゃっ!何よ!何も出ないじゃないの!!」


「マスター。もしかして、赤と青のボタンは同時に押すのではないのですか?

ドライ・ヤーって基本には風を吹き出す装置なんですよね?

 その風が出なければ風を温める事も出来ませんよね。

 そして、火が出なかったのでふたつ同時に押しても炎柱にはならないと思われます」


 横で見ていたセジュが首を傾げながらも意見を言ってきた。


「ふむ。そうかもしれないな」


 僕は魔法に関しては僕なんか比べ物にならない知識を持つセジュの意見に素直に試してみることにした。


『カチッ!カチッ!ブオー!!』


「おっ動いた!しかも風が温かいぞ!!」


「やった!成功だ!!」


「となると残った白のボタンは……」


 白のボタンを押すと『パチン』と赤と青のボタンが戻って風が止まった。


「やはり停止ボタンだったか」


「よし!とりあえず完成だな。

 ララ!早速使ってみて感想を頼むよ。

 使えるようならレシピを作らないといけないからさ」


僕は上機嫌にララに完成したドライ・ヤーを差し出した。


「本当に!本当に!本当に!!安全なんでしょうね!!!」


「大丈夫だ!!……と思う」


 最後の言葉は小さくゴショゴショと濁しながらも笑顔でドライ・ヤーを押し付けてセジュに言った。


「多分大丈夫だと思うけど念のためセジュも一緒に検証に付き合ってやってくれないか?で、無いとは思うけど万が一のときには回復魔法をかけてやってくれないか?」


「そんな危険なもの私に使わせる気だったのね!そんな実験は作ったあんたがやりなさいよ!」


「なっなにをする!ちょっと待て!話し会おう!」


 カチッカチッカチッ


「うおお!?熱い!冷たい!熱い!冷たい!熱い!!」


 ララには聞こえないようにこっそりと伝えたつもりだったがララが聞き逃すはずも無く、椅子にぐるぐる巻きにされ逃げられない状態でドライ・ヤーのテストを受けるはめになった僕の横でセジュが冷静に分析しながら僕に回復魔法をかけてくれていた。


「マスター。温度調節が必要みたいですね」


 僕の状況は気にせずにセジュは冷静に分析していた。

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