第10話【極楽ザメの牙包丁を作ろう~錬金編~】

「ただいまー」


「マスター、ただいま戻りました」


 ララとセジュが街散策から戻ってきた。何やら大量の食料を抱えているが渡したお金で足りたのだろうか?


 僕が疑問に思っているとセジュが先に疑問に答えてくれた。


「市場でロイクさんに頂きました。マスター、先週ロイクさんに薬を処方されましたか?しきりにお礼を伝えられましたが……」


「ん?どうだったかな?そんな事もあったような気もするが良く覚えていないな」


 僕が曖昧な返事をするとミルフィがララに対して補足を入れてきた。


「ララちゃん。マスターが街の方々に頼まれてするお仕事は種類も多くて件数もかなりあるのでマスター自身に聞いても全ては把握出来てませんの、だから曖昧な事を言われても『適当にやってる』とか『頭が弱い』とか思わないでくださいね」


 何気に酷い事をさらりと告げるミルフィだったが僕がツッコミを入れないでいると。


「依頼の把握や事務的な仕事は私が全面的に引き受けているから、もしそう言った関係で分からない事があったら私に聞いてね」


 と続けた。それを聞いたララは少し怪訝けげんな顔をしつつも頷いて分かったという仕草をした。


「ふうん。錬金術士って薬師みたいな事もするんだ」


 ララの呟きにセジュが答えた。


「錬金術士は錬金術を生業にしている人達の総称なんだけど、薬を作る事もあるのよ。

 マスターは皆から【錬魔士様】って呼ばれているのだけれど理由は後でマスターから説明があると思うわ」


 それを聞いていた僕は椅子から立ち上がって錬金術の準備をしながら『ちょうどララ達も帰ってきた事だし、錬金術の基礎でもレクチャーしてやるか』と思いララに言った。


「ララ、今から依頼の包丁を作るんだがついでに錬金術の基礎を教えてあげよう。

 一応ララは僕の弟子扱いになるからある程度の錬金術は出来るようになってもらうよ」


 僕はそう言うと素材を錬金釜の前の作業台に並べた。


「多分、ララは錬金術自体をよく知らないと思うからこの世界における錬金術の概念と種類から説明していくよ。

 ひとえに錬金術と言っても色々な種類があって、鍛冶を主体とする【鍛冶錬金】調薬を主体とする【調薬錬金】色々な道具を作る【調合錬金】そして精霊達等を召喚する【召喚錬金】があるんだ。


 ほとんどの錬金術士は【調合錬金】を主に活動しているんだ。

 何故かと言うと【調合】だけはレシピと素材が揃っていれば失敗がほとんど無いのと、粗悪品になっても命に関わる事がないから返品・交換で済むからなんだ。

 まあ、次に話す鍛冶に付随する錬金はもう少し高度の腕とスキルが必要だけどね。


 【鍛冶錬金】は武器・防具だけでなく、鉄等鉱物を使った道具も含まれるもので鍛冶スキルが必要なんだ。

 鍛冶スキルが不足していると包丁とか剣ならば、刃がなまくらでほとんど切れない形だけの物になってしまうんだよ。


 【調薬錬金】はその名前のとおり薬を作る錬金術で、これもレシピと素材があれば一応作る事が出来るんだけど、薬剤師スキルが低いと効き目の弱い粗悪品が出来ることが多くなるんだ。

 薬なんかは粗悪品を売ると命に関わる事だから、すぐに悪評が広まって仕事が来ない事になるから自信のない錬金術士は手を出さないんだ。


 そして最後に【召喚錬金】だけど、これは基本的に普通の人には出来ない種類のもので、錬金術で作った道具にさらに【精霊石】という特殊な魔力石を強化調合する事によって意思を持つ道具【精霊神具】に昇格させるんだけども今は僕しか出来ない錬金術なんだ。

 で、僕はその全ての錬金術をマスターしているので錬金術と魔法(召喚術)を使う者として【錬金魔法士】通称【錬魔士】と呼ばれているんだ」


 そう言いながら僕は牙を手にとった。


「コイツは鉱石では無いけれど硬度が鉱石並みにあるから鍛冶スキルで錬金をするんだ。

 ララは先入観がないから多分大丈夫だと思うけど人によっては錬金術は錬金釜に素材を入れてぐーるぐーるとかき混ぜたら出来ると勘違いしてる人が結構いるらしいんだ。

 まあ確かにそれでも出来なくはないけど、それだけだと粗悪品になる確率が高くなるのでレベルの高い錬金術士は多くのスキルを使って基礎加工をするんだ。

 話を戻すけど、まずは【成形スキル】で大体の形に削る事から始めるんだが素材の硬度が高いほど高い成形スキルが必要になるんだ」


 僕はそう言いながら魔力を込めた手で牙を包丁の形に丁寧に削り取っていった。


「で、大体の形に削ったら次に【研磨スキル】で表面を磨いていくんだ。

 ここまでは道具を使えば鍛冶職人でも出来る内容だから一部の錬金術士は知り合いの鍛冶職人に成形を頼んで仕上げを自分がやるといった分業作業で仕事を受ける者もいるそうだよ。

 仮磨ぎの終わった刃を錬金釜に入れて研磨剤とコーティングとしてのサメの脂を追加して融合用の魔力液を満たして火にかけて後はぐーるぐーるとかき混ぜながら力ある言葉を発するんだ」


「精錬研磨!」


 力ある言葉の後に錬金釜から淡い煙が抜けていき、中から鋭い包丁の刃部分が現れた。


「よし、出来たな。

 後はこれに堅質樹の枝から削り出した持ち手を着けて強化接合の魔法をかければ……。

 よし、極楽ザメの牙包丁の完成だ!」


 それを見ていたララが呟いた。


「ぐーるぐーるとはやるんだ……」

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