第20話

バルバラに絡まれてから一週間が経過した。この一週間、彼女の事を警戒していたけど特に不審な点は見つからない。相変わらず貴族の男子を侍らせている様子。


「消してやるって言われたけど…」


何も起こらないなら別に良いけど、不安だけは残る。

ルードルフに相談しようと思ったが最近の彼はかなり忙しそうで下手な心配をかけるわけにもいかず話せていない。


「まあ、警戒していれば良いわね」

「あ、クラウディア様!」


声をかけてきたのは同じクラスの男子だった。

女子ならともかく男子に話しかけられるのは珍しい事だ。普段はルードルフが近づかせないようにしているから。


「どうかされましたか?」

「ちょっとお願いがあって。一緒に来てもらえませんか?」

「お願い?」

「はい」


よく分からないけど困っているみたいだし、放って置くわけにはいかない。

ただ男子と二人きりというのはルードルフに何と言われるか分からないし、他の誰かに見られて変な噂が立っても困る。


「すみません、他に誰か呼んできても良いですか?」


男子生徒は一瞬動揺したように見えたがすぐに笑顔を作って「すぐに終わりますから早く行きましょう」と強請ってくる。

普通の男子ならルードルフを警戒して私と二人になる事は避けるのに。


「ねぇ、貴方は誰なの?」


男子生徒を睨み付けると不気味な笑みを浮かべられる。

この人、私のクラスの人じゃないわね。

後退り距離を取ろうとするが「怖がらなくても大丈夫ですよ」とにじり寄られる。


「すみません。お願いは他の人に頼んで貰えますか?」


走って逃げ出すが後ろから追いかけてくる男子生徒。

捕まったら不味い事くらいは分かる。せめて人が多いところに行ければ大丈夫だと思うけど。


「足が速いんですね」


不気味な笑みで距離を縮められてしまう。

このままだと捕まる…。

曲がり角を抜けたところで誰かとぶつかり、尻餅をついた。


「いった…」


他の人の姿が見えたからだろう私を追いかけていた男子生徒…の変装した人物は足音も立たず姿を消して行った。

捕まらなくて良かった…。


「大丈夫か?」


安堵の息を吐いていると目の前に手を差し出されて手伝って貰いながら立ち上がる。


「ありがとうございます。ぶつかってしまって申し訳あり……ません」


目の前に立っていた人物に固まる。

バルデマー・フォン・ロタリンギア。

第一王子でルードルフ兄。ゲームでは攻略対象者の一人だった人物だ。


「久しぶりだな、クラウディア嬢。第二王子の婚約者が廊下を走るとは良い度胸だ」


笑みを浮かべるバルデマーに頰が引き攣った。

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