第13話 過去の記憶と現実 IV

同じベットが6つ等間隔で並んでいる

白い空間に同じく等間隔で6人の人が横たわっている

そのうちの1人である僕に窓から差し込む光が眩しい

窓際に連れてこられたことがいいのか悪いのか

僕にとっては微妙なところだ

その眩しさを嫌だなと思いつつ周囲を見渡していると

視界にスーツのジャケットが入り込んできた

黒に近いような灰色のスーツ

目線を上に向けると父親の顔が目に入って来た

他の患者さんに気を使いつつゆっくりと静かに僕の元へやって来る

もう面会時間なのだろうか

どうやら長い時間ずっと眠っていたらしい

父親がなぜか申し訳なさそうにベットの横に置いてある椅子にそっと腰掛ける

腰掛けてしばらく落ち着いた後

「どうだ?具合は・・・」

少ない言葉だが優しく僕に話かける

「うん。今んとこ大丈夫だよ」

大丈夫じゃない状況と言えばそれなのだが、今のところこれと言った支障はない

「ごめんな。手術中は仕事で来られなかった」

僕自身は全く記憶がないので言わなければ分からないのに

父親はなぜかそれを謝ってくる

「そんなこと気にしなくていいよ。そもそも記憶ないし」

「そうか・・・・」

そうつぶやいた後、父親が僕の顔を眺める

一呼吸置いた後

「お母さんがお前を見つけたんだ」

「台所でお前が倒れてるところを」

「お前が包丁で自分の腹を刺して倒れている所をな」

怒るわけでもなく呆れるわけでもなく普通のトーンで僕に話しかける

僕がここにいる理由がそれだったのか・・・

そう思いながら天井を見た

過去の記憶をたどるうち、自分に起きた出来事の詳細が少しずつ浮かび上がって来る

僕はあの時何を思い、なぜそうなったのか僕自身をさらに振り返ってみる

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