第32話 追手(6)決意

 疾風達は、各々急いで店に戻った。

「無事か!」

 お互いに無事を確認し、そして各々の身に起きた事を話す。

「直葉はどこに行ったんだろう」

 狭霧が言うのに、疾風が答える。

「打って出たのかもな。歳三に」

「無理じゃない?探してみよう?」

 八雲が言うのにほんの一呼吸逡巡したが、

「よし。でも、まずは俺達の身の安全が優先だ。いいな」

と言い含めて、探しに出た。


 人のいない方、誰も来そうにない方へと行き、とうとうそれを見付けた。

「ああ……直葉……」

 八雲が肩を落とす。

「毒なんてあげるんじゃなかったかな。店から離れて瀬名を討ったのは失敗だったのかな」

 狭霧はしょんぼりとするが、疾風が首を振る。

「店で騒ぎを起こすわけにはいかないし、直葉がいずれは向かって行ったのは間違いない。だったら、こうして歳三を殺せたんだ。見ろよ、満足そうな死に顔だろ」

「うん……」

「こう言っちゃなんだけど、直葉が歳三を殺れたのは、奇蹟に等しい」

「そうね。直葉は諜報専門だったしね」

 疾風に八雲も同意する。

 それで3人は竹筒と針を取り上げ、その場を後にした。


 大家の所へ行く。

「お参りへ?そりゃあまた急な」

 大家は目を丸くして、疾風達を見た。

「夢枕に親が立ちまして。どうにも、お参りしてあの世の事を拝んでやらないとって気になってしまいまして」

 疾風は困ったように笑いながら言った。

 八雲もしんみりとした表情で言う。

「親孝行できないうちに死んでしまったもんですから、気になって気になって」

 狭霧も大家に言う。

「なので、思い切って、店を休んでお参りに行こうって事になったんです」

 大家は鼻をぐすんと啜った。

「お前さん達も、若いのに苦労してきてるんだろうねえ。

 そうだね。親の冥福を祈るのは、いい事だよ。うん。気を付けて行っておいで」

 それから長屋の皆にも声をかけ、旅装に身を固めた3人は、出立した。


 勿論、お参りなんて真っ赤な嘘である。

 このままではどんな手を使って来るかわからないので、迷惑をかけないためにも、ここを離れ、槐を迎え撃とうという話になったのである。

「帰って来たら、またねこまんまをやろうね」

「ああ。常連さんも待っててくれてるしな」

「そうね。おじいさんもね」

「そのためにも、負けられないぞ。これが、最後の戦いだ」

 疾風、八雲、狭霧は、決意を胸に、歩き出した。


 槐は仲間をやられ、1人になってしまった。

 こんなはずではなかった、そうくりかえしては、頭を掻きむしる。

 3兄弟を討ち果たし、八雲を連れて戻ったら、「俺が正しかった」と八坂を下ろして自分が首領になる。そして八雲は、泣いて許しを請うまで犯し抜き、気が狂うまで里の男で輪姦し尽くし、子供を限界まで何人でも孕ませてやる。そう考えていた。

「何でだよ、くそ!役に立たねえな!」

 死んだ仲間達をののしり、そして、決意する。

「殺してやる。あいつら、殺してやる!」

 そして、兄弟達の後を追い始めた。


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