第35話
34話はR18の為ムーンライトノベルズの方に掲載させて頂いております。
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目が覚めると最悪の気分だった。
昨日一日でいやらしいことを二度もしてしまったせいだ。馬車でレアンドルと行為に励み、自室では一人で気持ち良くなった。
完全に落ち着きを取り戻した頭には『後悔』の二文字が爛々と輝いている。
「湯浴みでもしましょう」
一人で気持ち良くなった後すぐに眠ってしまった為、下着が気持ち悪いことになっているのだ。自分の奥底から溢れ出したものが乾き、ぱりぱりになっている下着をいつまでも身に付けておく趣味はない。
侍女に湯を張るように頼み、準備を整えてから自室を出るといつの間に帰ってきたのか父と会った。
「お父様、今お帰りになられたのですか?」
「ああ、そうだよ。ヴィオは…朝から湯浴みかい?」
何故、朝から湯浴みをするのだという疑惑の視線が突き刺さった。
苦笑いになりそうなのを必死に堪えて「寝汗が酷くて」と答える。
実際に汗は掻いていた。昨夜の行為のせいで掻いた汗だけど、もちろん口に出せるわけがない。
私の答えが納得出来たのか父は「そうか」と頷くだけだった。
「ヴィオ、湯浴みが終わったら私の部屋に来てくれるかい?」
「分かりました」
「じゃあ、また後で」
手を振って自身の執務室に入って行く父の背中をじっと見つめていた。
いきなり呼び出してどうしたのかしら?
まさかレアンドルとの嘘がバレたとか?
いや、でも、父にバレるようなヘマは今のところしていないはず。魔法省でレアンドルがやらかしていなかったらの話だけど。真面目な彼がやらかす姿は想像出来ない。
そうなると他に考えられるのは…。
「レアが私との婚約を解消したがっている、とか?」
突拍子もない考え方だと自分でも思うが有り得ない話ではない。
馬車での行為のせいでいやらしい子は嫌だと思ったレアンドルが朝から婚約の解消を願い出た…?
でも、彼はどんな私でも嫌いになったりしないと約束してくれた。いやらしい私が見たいとも言ってくれた。
「……でも、レアは酔っ払っていたし、嘘だった可能性も…」
このままだとレアンドルとの関係が終わってしまう。
不安が募っていく一方だ。気持ちを切り替えようと急いで湯浴みに向かった。
今日の夜汚してしまった一点を集中して洗った後、湯船に浸かると「あー…」と低く淑女らしからぬ声が漏れ出ててくる。
「お父様、一体どんな話をするのかしら」
私のことを急かして来なかったあたりを考えると大した話じゃないのかもしれない。
……と思いたいだけね。
どんな話をされるのか怖くなり、なかなか湯船から出ることが出来ない。
ふと視線を落とすと胸元にはレアンドルの残した痕が残っていた。
「きっと悪い話じゃないわよね」
キスマークに勇気づけられるとはなんともはしたない話ではあるが元気をもらったことに代わりはない。
勢いよく湯船から立ち上がる。
一度自室に戻り、髪を整えてもらってから父の執務室に訪れた。
「お父様、ヴィオです。お待たせしました」
「入っておいで」
執務室の中に入ると父が優しい微笑みで出迎えてくれてくれた。
その笑みが今の私には怖く感じる。
座って、と促されるままソファに腰掛けると父が目の前に座ってじっと私を見据えてきた。なにかの真偽を確かめるような視線に居心地の悪さを感じて思わず目を逸らす。
「あ、あの、私を呼び出した理由をお伺いしても?」
「勿論」
父は長い足を組み、寛ぎながら私に微笑みかけた。
「その後、レア君とは上手くやっているかい?」
「え?」
いきなりレアンドルの名前を出されて固まっていると「上手くいってないのかい?」と聞かれてしまう。
どう答えるのが正解なのか分からず「多分」と曖昧な回答を渡すと父の笑みが深まった。
「もしかして上手くいっていない?」
「そ、そんなことは…」
正直なところよく分からない。
誰かと交際した試しはないので自分達が上手くやれているのか計り知れないのだ。
ただ個人的には仲良くやっていると思うので父の問いかけは否定させてもらう。
「な、仲良くして頂いております。昨夜も二人で観劇に行きました」
「そうなのか…」
あれ?どうして残念そうな顔をするのかしら?
あからさまに元気がなくなる父に首を傾げる。
「本当に仲良くやっているんだね?」
「は、はい。とても大切にして頂いております」
「そうか…」
気不味そうな表情を見せる父にハッとする。
ま、まさか、本当にレアンドルから婚約解消をお願いされたの?
それなのに私が仲良くやっているとか大切にしてもらっているとか言うから言い辛そうにしているとか?
焦っている私に父は斬りかかるような質問を投げかけてきた。
「ヴィオ、本当にレア君が好きなのかい?」
なんで今それを聞くのよ。
父の為、延いてはレアンドルの為に別に好きじゃないですと答えるべきなのか。それとも好きになっちゃいましたと本心を伝えるべきなのか。
分からずにいると父から催促の言葉が飛び出てくる。
「あの、その…」
「うん」
「お、お慕いしております…」
はっきりと言ってしまった。
私はレアンドルが好きだ。
認めて声に出してしまった途端に恥ずかしくなって頰が赤く染まっていくのを感じる。
どうして父親に照れながらこんなことを言わないといけないのかしら。
私の答えに父は目を瞠り「推測を誤ったか」と悔しそうに呟いた。
もしかしたら好きじゃありませんと答えるのが正解だったのかもしれない。ただ自分の気持ちに嘘はつけなかったのだ。
「本当に好きなんだね」
「は、はい…」
はぁ…と深い溜め息を吐く父に婚約解消の疑惑が深まる。
「レア君の事を認めるしかないか」
「え?」
「なんでもないよ」
なんでもないって…!
そんな謎めいた言葉だけ伝えて放置しないで欲しいのだけど、向けられた笑顔にこれ以上は教えてくれないだろうと諦めの気持ちが出てくる。
レアンドルを認めるしかない?
今度彼に会った時に聞いたらなにか教えてくれるかしら。
「話は以上だ。下がって良いよ」
父の執務室を出て今度は私が溜め息を漏らす。
婚約解消の話はされずに終わったけど、変な疑問が出てきたわ。
悶々とした気持ちだけが心の中に残った。
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