音楽

 君を待つ間、ベンチに座って足を踏み鳴らしても。風と木のざわめき、鳥の声、子どもの投げるボールが地面を叩く衝撃、やかましく音楽を鳴らしながら走っていく車、何もかもにかき消されるばかり。だけど僕は足を踏み鳴らす。


「あー、またやってるぅ」


 長めの紺のスカートをはためかせ、君が僕の足使いに指摘を入れるまで。


「行儀が悪いよぉ、それ」

「わかってはいるんだけどね」


 君と付き合い始めてから、座っていると足を踏み鳴らす悪癖が悪化したような。彼女が待ち合わせのたび、僕の癖をからかうのがとても好きなのだ。


「行こうか」


 君と手を繋ぐ。君と歩幅を合わせて歩く時だけ、僕の足音は、人と作り上げる音楽おとになる。




 Twitter300字企画第十四回お題より……「音」(本文289字)

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