洋館に棲まう者

住原かなえ

序章

序章

いやあ、申し訳ない。

遅れてしまいましたよ。

道がえらく混んでいたものでしてね。

それにしても、雨が強いですねえ。


ああ、名乗り遅れましたが、私があの電話の者です。

そうそう、情けない探偵事務所を開いている、ね。

いやぁ、これは謙遜なんかではなくってね、本当にうちの事務所は閑古鳥が鳴いている、いやあ、合唱しているようなものでしてねぇ。

依頼人なんてのはありもしない。

依頼人あっての商売ですから、これでは事務所なんて呼ぶのも恥ずかしい。

それなのに、久しぶりの有難い依頼人様の約束には遅れてくる。

ああ、自分が情けないですよ、全く。


さて、そろそろ本題をお聞きしましょうかねぇ。

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