だい〝よんじゅうさん〟わ【しーずかちゃんのちょっと意外な素顔】

 安達さんがようやく口をきいた。

「まあ会長が担がれただけの全くの無能というわけじゃないことは分かりましたけど、この会って聖徳太子研究会? 聖徳太子だけなの?」


 『予言者聖徳太子』についてのツッコミは無いのか? これは〝徳大寺会長〟で認めてくれたっぽい、のか?


「それはあくまで会の名前よ。名前が決まったってだけ」と、なぜだかまとめ先輩が返した。相変わらず会長を軽んじているような……

 その上〝やること決まってない〟って事実上言っちゃうのもどうかと……


「先輩、わたしは会長の徳大寺さんに訊いているんですけど」と安達さんから戻ってくる。


 まあそれはそうなるだろう。


「いまも明治初期や現代の話しになったように、特定の時代だけを取り上げるわけじゃないです。あくまで〝横断的〟にってことです」徳大寺さんが答えた。


「じゃあ活動内容ってどう活動するの?」と安達さん。


 来るような予感はしていた。

 でも、いや、しかし、活動内容って……


「それはわたしが独断でどうこう決められないけど」さしもの徳大寺さんもこう答えるしかない。


 この会に活動内容などというものが伴うものだろうか?


 そこにまたもまとめ先輩が割って入ってきた。

「明日する事は明日決める! 明後日することは明後日決める! これがこの会の方針だから。みんなが明日来ないとなにをするかが決まらないから明日もここに全員集合で!」


 まとめ先輩なりのフォローであるらしい。さすがは臨機応変信奉者の言い様だ。


「そうですか。それはいいことですね」

 ホントのところどう思っているのか解らないような安達さんのお返事。


「後輩である会長を気づかってるのよ。じゃ会長、今日はこの辺で解散命令を」


 これだけはナイスなタイミングです先輩。なにせ今後の活動内容まで問われるのは想定外だったろうし、今度は〝どう活動するか〟を打ち合わせるんだろうな。実に本末転倒だけど。


「それじゃあ今日はこの辺で。明日みんなの集合を期待します。以上わたしっ!」

 徳大寺さんの——

 いや徳大寺会長って言った方がいいのか? 偉そうだし。

 でもやっぱり徳大寺さんにしよう。


 徳大寺さんの散会宣言で今日、この場はお開きということになった。



 例によって安達さんが真っ先に出て行った。ただ、いつもの安達さんとは違っていた。なぜだか応接室を出て行く直前に——、


「今川くんにういのちゃんだっけ? じゃあまた明日」と意味深なセリフを残し去っていったんだ。

 〝上伊集院さん〟じゃなくて〝ういのちゃん〟? で、あれだけの対応をした会長には挨拶無しですか? とは思っただけでそう言っている間も無かった。


 いつもと違うのは比企さんも同じだった。いつもなら安達さんのすぐ後を大慌てで追うように着いていくのになぜか僕らの方に二歩ほど進み出てなぜか無言でお辞儀した。

 お辞儀の角度が0度になると同時に比企さんは、


「閑夏ちゃんのことありがとう」とにっこり笑って口にした。次の瞬間には「じゃ」と声を残し応接室を出て行こうとしていた。みんな一瞬あっけにとられたよう。


 いち早く立て直したのはまとめ先輩だった。

「いまのどういう意味⁉」


「わたしたちを入れてくれて〝ありがとう〟、ですけど」と比企さんが振り返り言った。


「そうじゃなくて! 〝〟ってのはなに⁉」


「あぁ、わたし『しずかちゃん』って呼びたかったんだけど恥ずかしいから『しずかさん』にしてって言われてて」


「……」


「そういう意味でも〝ありがとう〟ですね。入ったからには『しーずかちゃん』ですから」と今度こそ比企さんは安達さんに一刻も早く追いつきたいのか、出て行ってしまった。




 あの名前は〝ちゃん付け〟で呼びたくなるってこと……?

 そういうことなら、ただ引きずられているだけとは言えない……

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