第2話 星滅教団


 広い会場、そこは体育館のようになっていた。集まる者達はさながら生徒か。


『では遊星様のご登壇です』


 アナウンスが鳴り響く。澄んだ女性の声だった。

 上がってくる黒いローブ姿の少年。その相貌は『残酷』そのもの。

 濡羽色の髪の毛に黒曜石のような瞳。ブラックホールを思わせるような恰好。


「……聞け諸君! 我が名は『遊星』、この星の敵対惑星である。故にこの星の滅亡を望む!」


 拍手喝采、遊星と名乗る少年は嗤う。布を引き裂いたような笑み。


「ああ! 自らの滅びを望む愚かな諸君に代償を!」


 拍手は止まない。そこに、が落ちてきた。

 薙ぎ払われる観客。全員が死亡した。遊星を除いて。

 残った檀上に。スーツ姿の女性が上がってくる。


「今ので代償はどれだけ溜まった?」

「百程です」

 

 恭しく傅く女性、遊星にかかった砂埃を払う。


「そんなものか、まだ願掛け術式には勝てんな」

「代償階梯は三つほど進みました」

「だが向こうの願望階梯は既に百ほど進んでいる」

「単純な力量差ならば勝てるかと」

、ならばな」


 砂埃を払い終わった遊星と女性はその場を去る。


「願いと代償、どちらが高くつくか、証明せねばな」


 場所は変わって、都内某所。


「あーきーたー」

「ここは秋田じゃない東京だ」

「そんな事言っとらんわホシミチィ!」

星路せいじだっつってんだろ!」


 ギーッとにらみ合う二人、屋敷でダラダラしていたが限界が来た様子。


「なぁホシミチ」

星路せいじだって――」

「そろそろこちらから仕掛けんか? このままじゃジリ貧じゃ」

「セカンドハウスならいくらでもある」

要塞メインハウスも落とされた」

「……」


 沈黙が続いた。

 そこに明乃がやって来る。


「お茶が入りましたよー、せんべいもいかがー?」


 割烹着が良く似合う。お盆も良く似合っていた。

 ちゃぶ台にお茶とせんべいを並べていく。

 やがて明乃は沈黙に気づく。


「……? どうしました?」

「いや、なんでもないです」

「明乃、明花の敵討ちをしたくはないか?」

「おい!」

 

 星路が咎めるように叫ぶ。


「……いいえ、したくはありません」


 明乃は肩を震わせながら言った。


「嘘を吐くな。

「……! いえ、それでも、です」

「いい加減にしろウツワ」


 星路がウツワの前に出る、明乃をウツワの視界から外すような配置になる。


「お前は万能じゃない」

「星は万能じゃ、あんな術式モドキの代償なんちゃらよりよっぽどな、それはホシミチ、お前が一番分かっているじゃろう?」

「……それは」


 再びの沈黙、その時だった。


「いやー、ようやく見つけたよお姫様」


 身体に半分、火傷を負った男が現れる。


「誰だお前!?」

「俺? 吉比斗よしひと、よろしく、そして、さよなら」


 ナイフを振るう吉比斗、屋敷が


「代償術式か……!? ウツワ、こいつ階梯何段だ……?」

「三十段、お前の相手じゃないな」

「へぇ?」


「俺の願望階梯は千段、悪いが勝つぞ」

「殺すって言えよォ!」


 ナイフに手刀で立ち向かう星路。かち合う、血が出るかに思われた。しかし。

 手刀がナイフを弾く。がら空きの脇腹にもう片方の手で手刀を突きこむ。

 突き刺さり、吹き飛ぶ吉比斗。地面を転げまわる。


「カハッ!? ハァハァ!?」

「これが実力差だ、代償使い」

「もっと本気で来いよ! 願望使いィ!」


 投げナイフ、五本。全て弾く星路。

 しかし瞬間移動ワープしている吉比斗。

 星路の懐にいる。ナイフを心臓に突き刺そうとする。しかし。


「かてぇ!?」

「悪いな、そういう風に出来てる」

 

 吉比斗を蹴り飛ばした星路は、それを追いかける。


「このままドリブルといこうか」


 蹴って、蹴って、蹴って、蹴った。

 山を越え、川を越え、海に着いた。


「どこだ此処!?」

「東京湾」


 律義に答える星路、吉比斗は笑った。


「ハハッ! コンクリート詰めで沈める気か!?」

「正解」

「はぁ!?」

「しゅーと」


 吉比斗を蹴り飛ばす星路。東京湾に突き刺さり、水飛沫が上がる、それは柱のようだった。


「もう上がってくんな」


 そう言った時だった。


「お前が星の使徒か」


 黒いローブ姿の少年が空中に立つ。


「ちっ、聞き付けたか、遊星」

「様を付けろよ、餓鬼」


 互いににらみ合う。


「まだ吉比斗には働いてもらわねばいけないのでな。遊星の死人しととして」

「シトとかパクリかよ」

「さてな」


 吉比斗を海中から拾い上げる遊星。空中浮遊手品のように浮かび上がる吉比斗。


「今ので代償階梯は三つは上がったぞ吉比斗。起きろ」

「ガハッ! ガハッ! ンンッ!? ゆ、遊星様!? 俺は……?」

「良いからしろ吉比斗」


 遊星は命じた。するとどうだ。吉比斗の人間としての形が変わっていく。ナイフの化け物へと。


「願望階梯程度では、星の力を引き出しているに過ぎない。人の命を燃やしている代償階梯は出力が違う」


 そこで星路の脳内へと言葉が響く。


『こっちも変形するかホシミチ』

「いいよ、人型このままで」


 ウツワの提案を振り払って全身ナイフの化け物へと向かう星路。


「こいよ化け物、星の力を魅せてやる」

『ガアッ!』


 ナイフの化け物は空中から落下してくる。そこに。


「惑星殺法、キラメキ!」


 殴った、いや、それは掌底だった。ナイフの千本山せんぼんやまと成った吉比斗に向かってその刃を砕く一撃になる。

 そのまま連撃、回し蹴りを放つ。


「惑星殺法、公転!」


 蹴り飛ばされた吉比斗は、空中へと浮かぶ、しかし。


「惑星殺法、引力」


 その星路の一言で吉比斗はパーカーの少年の下へと落ちていく。


「惑星殺法、噴火!」


 一撃が。吉比斗が炎に包まれる。

 ナイフが溶けていく、吉比斗の人間態が現れる。


「終わりだ、惑星殺法、月」


 ムーンサルトキック。横への捻りが加わった二回転蹴り。

 頭から生えていたナイフが砕かれる。

 それで吉比斗の意識は失われた。


「ふむ、これで代償階梯七つは上がったな。よしよし」

「まさかお前それだけのために」

「お前ら星の器は人を殺せない。代償階梯を上げるにはいい相手だ」

「舐めやがって、お前は例外だぞ遊星!」

「殺してみろ! 届くならな!」


 星路は跳び上がる。遊星は宙へと舞い上がる。


『ウツワ! 俺を飛ばせろ!』

 

 星路がウツワに念話、しかし。


『ならば願え、さすれば叶わん』

「ちっ、星に願いを、今叶えたまえ!」


 舌打ちからの願い、だが。飛ばない、自由落下する星路。


『効かねぇぞ!』

『願いが足らん』


 遊星にあと一歩届かない。

 吉比斗を連れた遊星は消えていく。


「また会おうぞ星の使徒、今度は星の器も共にな」


 あっかんべーで返す星路。そのまま、地面へと落ちた。完全に消え去る遊星と吉比斗。

 地面に寝転がりながら天を眺める。


『このままじゃ勝てねーよウツワ』

『そのようじゃな』


 諦めにも似た溜め息。

 星路は都内某所の屋敷へと帰っていった。

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