第9話 俺の答えは決まってる

 ドンドンドン!

 突然、激しく部屋のドアが叩かれた。

 田舎に帰るために身支度を済ませたところだったのに。

 こんな朝に一体誰だ。


「今、開ける!」


 苛立ちながらドアを開けると、そこに立っていたのは複数の兵士。

 全員が完全武装で、妙に威圧感を与えてくる。

 一体何の用だ?

 まさか昨日のクズールにした行為が問題になったのだろうか。

 五賢者に対しての不敬……しかしその程度でこれほど仰々しい対応をするだろうか。


「魔術師協会に所属していたグロウで間違いないな?」

「そうだけど、これは何のつもりだ?」


 苛立ちを隠さず俺はぶっきらぼうに答えた。


「来い。王がお呼びだ」

「……タブリス王が?」


 さすがにクズールへの不敬程度で王に呼び出されるなんておかしい。

 もしかして昨日倒したあの魔物に関係があるのか……?

 有無を言わさず、兵士たちは俺の腕を掴むと強引に引っ張った。


「お、おい! 何するんだ!」

「黙れ。金属魔術師が口答えするな」


 荷物を宿に置いたまま、俺は外に連れ出されてしまう。

 宿の主人や道行く人が何事かと俺を見ている。

 まるでさらし者だ。

 しかし抵抗することもできない。

 俺は兵士たちにされるがままに、城へと連れていかれた。

 

   ●〇●〇


 謁見の間。

 兵士二人が俺を挟み佇んでいる。

 俺はと言えば、玉座の前で膝をつき、頭を垂れた状態だ。

 王が来るまでそうしていろと言われたためである。

 なぜ呼ばれたのかという説明は一切ない。

 そうしてしばらくすると両隣の兵士が離れていった。


「面を上げろ」


 玉座から聞こえた言葉に俺は頭を上げた。

 玉座に座っている恰幅のいい男が俺を見下ろしていた。

 レーベルン国の王、タブリス。

 直接見たことは数回しかないが、妙に居丈高で暴君な印象が強い。

 王なのだからそれが当たり前なのだろうが。

 王の隣には卑屈そうな顔をした老人が立っている。

 宰相か側近か、その辺りの人間だろう。

 壁際には兵士だけでなく将軍らしき人物や、アイリスを筆頭とした五賢者まで並んでいた。

 なんだ、何が行われるんだ?

 不安と不快さが共存して、妙な感覚に陥った。


「貴様は昨日『メタル』を倒したそうだな。これは誠か?」


 メタル、とはあの金属の魔物のことだろうか?


「……はい」

「ほう。役立たずの金属魔術師がメタルを倒したと」

「間違いありません」


 あの時は必死だったからよく考えれなかったが、そもそも金属魔術の特性を考えれば当然のことだった。

 あの魔物は金属の身体をしていて、金属魔術は金属を扱う魔術。

 図らずも相性がよかったということ。

 そしてそんなことは、金属魔術のことを少しでも知っていればわかることだった。

 そう、少しでも。


「がーっはっはっははは!」


 王が笑った。

 その笑いに呼応するように周りの人間も笑い声をあげる。

 これは俺のよく知っているもの。嘲笑だ。

 慣れたもので俺の心は微動だにしなかった。


「ぎ、金属魔術師ごときが、メタルを倒すなどありえん。五賢者の大魔術でさえたいして効果がなかったのだぞ! あまりに滑稽すぎて笑ってしもうたわ」


 俺は説明する気力さえなかった。

 さっさとこの場から立ち去りたいという思いだけしかなった。


「アイリスの魔術でさえ足止めにしかならず、今もメタルは地の底から這いあがってきておる。猶予はあまり残されておらん。さっさと申せ」

「申せ、とは?」

「無能が。真実を申せと言うておる。いかにしてメタルを倒した!」

「……金属魔術にて」


 宰相らしき男が叫んだ。


「かような嘘が通ると思うか! 主君を謀るとは!」

「他に言いようがない。他の人間の証言を聞いては?」


 理不尽ないいように俺の中にふつふつと怒りがわいてくる。

 口調がやや粗くなったせいで宰相の顔は怒りで真っ赤になる。


「き、きき、貴様ぁ! 調子に乗りおってぇ! 五賢者! 証言せよ!」


 激高しながらも話を進めるとは器用な男だ。

 殺せとか言うかと思ったんだけど。

 俺は妙に冷静だった。針のむしろでも、お偉方に囲まれても心は揺るがなかった。

 もう他者に翻弄されるのはごめんだった。

 最初の言葉を受け、クズールが一歩前に出ようとしたが、アイリスが手で制止する。

 そして彼女自身が前に進み出た。


「グロウ様はわたしを助けてくださいました。金属魔術を直接見たのは初めてですが、魔力の本流を感じましたし、金属を扱うという特性上、金属魔術を活用なさったことは間違いないかと」


 アイリスの言葉を受け、宰相と王が渋面を浮かべる。

 金属魔術も嫌われたものだ。

 理由はわかる。下に見ていた、もしくは差別していた存在が価値があるとなれば、それだけでやんごとなき連中からすれば不快なのだ。

 くだらない。


「ふん、アイリスの言葉とあれば信じないわけにはいかぬな」


 タブリス王が不快そうに俺を睥睨した後、宰相に目配せした。

 宰相は演技がかった仕草で手をかざすと、俺に言い放った。


「……金属魔術師グロウ。貴様は今よりメタル討伐隊隊長に任命する。後に配属される隊員に金属魔術を教え、我が国のメタルを掃討するのだ!」

「断る」


 即答だった。

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