第53話 セシィ

202X年 6月18日


 ここは奈々達がタイムスリップしてパラレルワールドにシフトしてから約一週間後。長期欠席をしていた奈々を心配した黒澤 優と小野寺 明日香が、奈々の家に向かっている。


「ねえ明日香? 奈々ったら、もう一週間も病欠届け出して、何考えてんだか?」


「珍しいって言うより、絶対何かヘンよね」


「奈々のご両親は行方不明で、奈々は今伯父さんと一緒に暮らしてるんでしょ? 無事でいれば良いけど」


「ちょっと! 不吉な事言わないでよねっ!」


「あれ、奈々の家の玄関の前に立っているのは坂井君じゃ無い?」


「そうみたいね」


 優と明日香が奈々の実家の前に着くと、坂井が丁度チャイムを押そうとしている。


「坂井君、あなたも奈々のお見舞いに?」


「小野寺さんと黒澤さん? いや…。これは、その…」


そこに白金もやって来る。


「よう、三人とも、何やってんだよ?」


「そーゆー孝こそ、何しに来たワケ?」


「やー、越路がずっと授業と部活休んでるから、担任にプリント渡して来いって言われてさー」


「そっか。白金君は学級委員だったわよね。そう言えば、芸術祭の参加曲練習も全然進んで無い。SNSでもずっと音信不通だし」


「とりあえず、ピンポンしてみよーぜ」


白金がチャイムのボタンを押すと、デジタルの音声が応える。


「はい、こちらは越路家です。ご用件をどうぞ」


「あ、あのー、クラスメイトの白金ですけど、奈々さんはご在宅でしょうか?」


「あら、音楽部の白金孝さんでいらっしゃいますね? それに同じバンドのメンバーの方々も。お待ちしておりました。どうぞお入り下さいませ。」


チャイムのディスプレイには、優しい女性の顔が微笑んでいる。


「おじゃましまーす」


 奈々の家に入った四人を出迎えたのは、女性アンドロイドの姿だった。


「お邪魔しまーす・・・、って、あなたは一体!?」


 見慣れぬ最新技術で作られたアンドロイドに四人は戸惑う。


「これは、失礼致しました。私はこの家の留守をお預かりしているアンドロイド、名前は『セシィ』と申します。どうぞよろしくお願いいたします。」


「か、顔はまるで本物の女性の姿だけど、身体はロボット。・・・一体あなたは?」


「白金さん、ご説明は後程させて頂きます。皆様に奈々さんからのおことずてをお預かりしていますので、まずは居間の方へお入りください。」


 居間に案内される四人、セシィに紅茶と茶菓子をもてなされる。


「これからご覧頂くホログラフィーには、あなた方にとって、とてもショッキングな内容でしょう。ですが、奈々さんは、親友の貴方達にはどうしても知っておいて欲しいとのご遺志で遺された物である事をご了承下さい。」


「ご遺志ですって?  遺された物って、まさか」


 立体プロジェクターから浮かび上がったホログラフィーの投影が始まり、そこには3DCGで再現された奈々の姿が浮かび上がる。


「みんな、私の事を心配してくれて、本当にありがとう。せっかく来てくれた貴方達に、こんな事を伝えなければならないのは、正直とても辛いし戸惑いもしたけれど・・・、どうか最後まで目を反らさずに見てね、お願い。」


 ホログラフィーは、奈々の本当の素性、そして松羽目、ゲッヘラー達の陰謀、そして地球外生命体のキュリアンやデシス族の干渉で、現代の奈々が絶命するまでの経緯を映し出す。


 ホログラフィーの投影が終わり、絶句している四人。


「そんな、じゃあ、奈々は私や弟、それにみんなを救うために命まで犠牲に・・・」


「こんなホログラフィーだけじゃ、信じられる訳ねーだろ!」


「そうよ! 第一、こんな非現実的な事を信じろって方が無理よ! 奈々は死んじゃいない! 絶対にウソよ!」


 そこに未来から来た奈々が居間に入って来る。


「みんな、久しぶり。私が未来から飛ばされて来た方の奈々よ」


 少し大人びた奈々を見て、再び絶句する四人。


「何? そんなユーレイでも見る目で私を見ないで。私は正真正銘の貴方達の親友、越路奈々なんだから」


「もう、何が何だか分からない。あなたは、少なくとも、ついこの間まで私と昼休みに一緒にお弁当を食べてた奈々じゃ無いの!?」


「いいえ、明日香、私はあの頃の事を全部覚えているよ。明日香こそ、私達だけの秘密、誰かに漏らしたりしてないでしょうね?」


「秘密って、まさか坂井クンの…はっ、何でもない!!」


「もう、相変わらずウカツなんだから!」


「ご、ごめん」


「坂井がどうかしたのかよ?」


「孝ったら、ニブイのね。さっきのホログラフィー見てて気が付かなかった? 詰まりはそーゆー事よ」


「おい、坂井。一体どーゆー事だよ?」


「い、いや。僕には何の事だかサッパリ…」


「まあまあ、内輪揉めはそのくらいにして、本題に入っても良い?」


「本題・・・って、オレ達は奈々の見舞いに来ただけなんだけど…」


「さっきのホログラフィーで、私達の世界がどれだけ危機的状況にさらされているか、分かってくれてるよね、白金クン?」


「う、つ、詰まりは、ハイドロフラーレンとやらの発明が、これまでの世界のエネルギー均衡を崩してるって訳?」


「流石はご名答。そして、H60のもたらす理想的な世界の構築に、貴方達の力がどうしても必要なの。突然のこんなお願いだから、すぐに答えを出せないのは分かってる。でも、どうか命を投げ出してまでこの世界を守ったもう一人の私に免じて、真剣に向き合ってくれたら嬉しい。」


 それまで無口だった坂井が、急に立ち上がり、


「奈々さん、過去の越路の最後の言葉、あれは本当なんですか?」


「…シン君にとっては、とても辛い現実かも知れないけど…、あの時の奈々の心の中に居たのは、シン君、貴方だけよ。」


「オレも闘わせて下さい! オレ達の為に命を捧げた越路の為にも!」


「あのぅ、私なんかに何が出来るか分からないけど、貴方が、そしてあの時の奈々が私にそれを望んでいるなら…私にもお力添えをさせて下さい!」


「なーんか良くわかんないけど、正直言って今のおざなりな社会制度にはギモンだらけだったのよねー。もし私がその革命に参加出来るなら、やってやろーじゃん! んで、孝は?」


「えっ、お、俺は…」


「何? このごに及んでまだ迷ってる訳? それじゃ我が高校ダントツのイケメン失格ねっ!!」


「別に顔だけでモテてたつもりはねーぞ! 全く優は失礼な奴だな。ただ、俺はこれから直面するであろう大変革に俺のキャパシティが対応出来るかシミュレーションしてただけだ!」


「どうやら全員賛成してくれたみたいね。さすが我が誇れる親友達だわ。これからしばらく、貴方達にはH60と最新遺伝子技術の学習と実践体験を受けてもらう事になる。御家族達にはご心配お掛けしない様に、説得力のある口実とアリバイを用意しておくから、今日これから家にかえったらお願いするわね。」


「秘密の社会革命の一員か、何だかワクワクするな、え? 坂井よ?」


「僕は別に、そんなつもりじゃあ…」


「そうよ! これは亡くなった奈々の弔い合戦なんだからねっ!」



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 そして、また一つの新しい物語が始まる・・・。


 次巻、『続・セブンス・ガール 〜超結合戦機エグゼター〜(仮題)』に乞うご期待!!

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