第45話 異常

202X年6月10日

 

 ここは、葛西臨海地区にあるゲッヘラーの基地のエグゼター格納庫。


 ゲッヘラーは、サイバーマトン・エグゼター壱号機『アイン』を見上げながら、イゴーの研究の遅れに苛立ちを隠せないでいる。

 

「それでは、バイオモデム抜きではこの研究は進まないと言うのか、イゴー?」

 

「はい。現在のオートマトンのO.S.では、人間の運動神経には遠く及びません」

 

「クソっ! 折角オートマトンの量産にこぎつけ、エグゼターの試作まで出来たと言うのに。何か良い方法は無いのか?」

 

「やはり現存する2つのバイオモデムの回収が最優先かと。もしくは、エグゼターのO.S.と人体組織をダイレクトに繋ぐ方法もありますが、それには若くて運動神経の良い実験体を用意する必要があります」

 

「よし、準備が出来次第、バイオモデム回収作戦と実験体の捕獲にかかれ」

 

「承知しました」

 

 ゲッヘラーは、コンソールのマイクに呼びかける。

 

「南部我問はいるか? 我問をエグゼター格納庫に呼び出せ」

 

 エグゼター格納庫のドアが開き、現代の我問が入って来る。

 

「何か?」

 

「エグゼター弐号機、『ツヴァイ』の本国への搬送はどうなっている?」

 

「税関の目を引かない様に分解して小型輸送機に積み分け、昨日出発しました。明日にはオーベルンドルフの本社に到着します」

 

「よし、では壱号機『アイン』に載せる実験体はイゴーが手配する。バイオモデムのホストを捕獲次第、作戦を発動させるから、お前は準備の方を抜かるなよ」

 

「では、グランドスラム計画を? ハイドロフラーレン爆弾は完成したのですか?」

 

「そうだ」

 

「しかし、どうやって日本海溝の活断層まで到達させるのですか?」

 

「そんな事はすでに手配済みだ。お前はただ言われた事をやっていれば良いのだ」

 

「・・・・・・」

 

「どうした? 何か言いたい事でもあるのか?」


「いいえ、失礼します」


 部屋を去る現代の我問。


 中央指示室に戻るゲッヘラーとイゴー。

 

 すると、中央指示室の一つのパネルが信号を発しているのを、イゴーが発見する。

 

「これは・・・」

 

「どうした?」

 

「ハイドロフラーレンの力場センサーが異常を感知した様です。」

 

「センサーの異常? どう言う事だ?」

 

「まだ詳しい事は分かりませんが、ある特定の地区に時空のゆがみが発生した様です。ですが、この様なゆがみは、通常ハイドロフラーレンの結合生成時以外には発生しない筈・・・」

 

「私の秘密基地以外にも、ハイドロフラーレンのエネルギー基地が存在すると言うのか?」

 

「その可能性もあるかと」

 

「よし、無人偵察機を出して、現状を確認させろ」

 

「はい」

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