第36話 神と悪魔

 施設内のインターコムを通じて我問さんに呼び出される私。

 

「奈々さん、ちょうど良い所へ来てくれました」

 

「え? 私、我問さんにシンの事で相談したい事があるの」

 

「奈々さん、実は・・・」

 

 と、私は急に頭脳に違和感を感じ、頭を抱え込む。

 

「ウッ!」

 

「奈々さん?どうしました?」

 

「分からない・・・。頭の中に声が入って来る・・・。ツヴァイが私を呼んでいる!!」

 

「ツヴァイが?」

 

 コンソールで奈々のバイオモデムのステイタスをモニターに映す我問。

 

「これは一体・・・、こんなデータコードは今まで見た事が無い!」

 

「私、ツヴァイの所に行かなきゃ!!」

 

 私は、急いでツヴァイのドックに向かう。

 

「待って下さい! ツヴァイはまだメンテナンス中で・・・!!」


 私は、ツヴァイのコックピットに乗り込むと、メンテナンスのマニュピレーターを収納し、アフターバーナーを全開にして発進、ツヴァイを垂直上昇させる。

 

「奈々さん? 一体どこへ??」

 

 その言葉を無視する様に空を上昇し続ける私とツヴァイ。

 

 その様子をモニターで見ていたジェイド。

 

「我問、このスピードだとツヴァイは成層圏まで行ってしまうぞ?」

 

「ツヴァイには真空中でも酸素や水分をリサイクル出来る生命維持装置が付いています。でも、奈々さんは一体どこへ・・・?」

 

 ツヴァイの周囲の大気が薄くなる。酸素を消費するアフターバーナーを止めて、H60の急速分解エネルギーでさらに加速するツヴァイ。

 

 やがて電離層を離脱し、成層圏へ到達する。と、そこへツヴァイを取り巻く様に、緑とオレンジ輝く光の輪が複数現れる。

 

 それをコントロールセンターのモニターで見ていた我問に再びS.E.T.I.のカク教授から連絡が入り、異星人からのコンタクトで、ツヴァイの様子がサーバーでシェアされている旨を告げられる。

 

「Mr. NANBU, Those Rings are The E.T.I.s, Which we were talking about.」

(我問さん、これが、私が貴方にお話ししていた地球外生命体です」

 

「Are you watching this, Prof.KAKU?」

(カク教授、これをご覧になられているのですか?)

 

「Yes, We are. Let's see What we will see.」

(そうです。しばらくこのまま様子を見ていましょう)


 グリーンに光る輪が信号を発するかの様に点滅する。

 

 それを見ていたカク教授が、知的生命体の解説と翻訳を始める。


「Those Green Halos are What we call " Curians ".There are what They says..」

(これが、私達が ”キュリアン族” と呼んでいる種族で、性別は女性の様です。

彼らは、此の様な意味の思念を発しています)


キュリアン族:「これがあの電磁パルスの発信源、生物と副産技術の融合体なのですね」


 すると、オレンジの輪が、同じく光の点滅でそれに応える

 

「The othrer Orange light Halos are What we call " Dethies ".

Here' what they said」

(これが、私達が ”デシス族” と呼んでいる種族で、性別は男性の様です。


「キュリアンよ、この生命体は見るからに攻撃性に満ちているな」


「そうですねデシス。ですがこれだけ短期間でここまで進化するとは・・・。我々が種をまいた時の予想をはるかに超えています」


「好戦的な種族は、自ら淘汰と進化の機会を増やす。これまでの異常なまでの経緯の早さが、何よりの証拠だ」


「これが淘汰の結果なのなら、これまで私達が見て来た他の好戦的種族と同じ道筋をたどるのでしょうか?」


「それは疑う余地の無い事だ。他のサンプル同様、この種族はいずれ自分達の依存する環境すら破壊してしまうだろう。キュリアン、同じ環境系の他の生命の為にも、悪い根は早く摘み取った方が良い」


「デシス、それは早急な決断ではありませんか? この種族は水素原子の超共有結合の発明にまでこぎ着けました。今ようやく化石遺産エネルギーの浪費から脱却しようと言う段階なのですよ?」


「この種族がその発明を一番最初に何に使った? 大災害を起して自然環境を大量破壊した行為は、すでに自然淘汰の域を超えている。今すぐ根絶させるべきだ」

 

 それまで、その会話をツヴァイのコックピットで聞いていた私。

 

「あなた達は? 一体何者なの?」

 

「私達は、あなた達の住む地球に生命の起源を植え付けた創造主です。この宇宙の様々な場所にある、地球の様な『ハビタブル・ゾーン』に命の根を植え育てては、その進化の過程を研究しているのです」


「創造主? つまり神様って事?」


「君達の社会概念の中での「女神」と言う言葉が、このキュリアンの存在に一番近い意味を持つと言う事になるだろう。そして私達デシスは「悪魔」と言った所だ」


「女神と悪魔?」


「私達も、昔は貴方達と同じ有機物で出来た生命体でした。それが、やがて肉体を必要としない精神エネルギーだけの生命体となり、主に太陽の様な高エネルギーの星の中に、電子情報としての意識の共有体として生きているのです。私達は太陽と同化する事で、地球の様な惑星に生命を育み、必要に応じて環境変化を与えて、あらゆる種の繁栄をコントロールしてきたのです」


「君達を含む全ての種族に ” 個体差、つまり個性 ” があるのは、その環境変化に遭遇した際に適応性を持たせる為の、言わばフェイル・セーフ・システムだ。だが、我々の様に高度な自然淘汰を生き残った存在には、もはや個性を持つ必然性が無くなった。そして、両端の二種だけが残り、キュリアンは命の創造と継承を、私達デシスは有害な種の根絶を受け持っている」

 

「そんな・・・、個性があるのがたったそれだけの理由だなんて、理解出来ない! そ、それで、これから私達をどうしようと言うの?」

 

「これ以上の君達の種族の繁栄は、他の種族に取って脅威であり、許されざる存在になってしまったのだ。君達自身が周囲の動植物を巻き添えにして自滅する前に、滅んでもらうしか無い。もうすでにそのプロセスは始まっている」


「デシス! では、あのウィルスは?」


「キュリアンよ。あれは人類が自ら、分不相応な技術で生み出した物だ。ウィルス進化の暴走は、もう人類の力では止められないだろう」


「だけど、この少女はどうなのです? この少女も、その技術の産物と言う事が出来ます。地球の種族では初めて、生命と機械と言う有機物と無機物とが融合した存在。これは、私達が与えた遺伝子の交配と継承と言う枠を超えています。私はこの少女の描く未来の過程を見てみたい」


「そこまで言うなら、キュリアン。この少女に相応しい試練を与えて、その結果で決めようではないか?」


「良いでしょう」

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