第33話 矛盾

 私は明日香達と話し終えると、シンのいる病室に向かう。

 

 失われた手足の治療を受けながら、眠りについているシン。

 

 それを、そっと私が見守っていると、シンが気配に気づいて目を覚ます。

 

「奈々・・・、か?」

 

「シン、ゴメン。起しちゃった?」

 

「いや、いいんだ。それよりここはどこなんだ?」

 

「え・・・、びょ、病院よ。シンは何も心配しなくていいのよ」

 

「奈々・・・。嘘を付くのはやめてくれよ」


「な、何の事??」

 

「おぼろげだけど、覚えているんだ。ロボットに乗せられて、爆弾を運ばされていた事。そして、その爆弾が爆発して、恐ろしい事が起こった事」

 

「そんなの! 怪我で気を失って、悪い夢を見てたのよ!!」

 

「それは違うだろう、奈々? オレのせいで、沢山の人が死んだんじゃないのか?」

 

「違う! 違うよ!! シンはちっとも悪くは無いんだから!!!」

 

「お前は優しいんだな、奈々。でも、俺は男として、自分がやった事には責任を取らなきゃいけない」

 

「シン・・・。いいから、今は身体を治す事に専念して。お願い」

 

「分かったよ・・・。でも、俺の無くなった手足をどうやって治すんだ?」

 

「それはね、シン・・・」

 

 私はシンに、私の祖父の研究を基盤にして、松羽目やゲッヘラーが開発したクローン技術、カプセルで培養された万能細胞が急速に成体に発育する様や、成体の一部を切除して移植する経緯を説明する。

 

「そ、そんな事が・・・、本当に出来るのか?」

 

「本当よ。現に、松羽目の研究室では私のクローン達が『近衛兵』として大量生産されていて、私は『もう一人の私達』を沢山殺さなければならなかった・・・。私自身が生き延びる為に・・・」

 

「それは・・・、奈々。 さぞかし辛かっただろうな?でもよ、その俺の身体を元通りにする為に、俺のクローンから手足を切り取ったら、そのクローンはどうなるんだよ?」

 

「クローンは成体になっても、意識や自我は無いから、何も感じないんだって、我問さんが」


「何も感じないからって、そんな事が許される訳ないだろう!? だって、そのクローンはもう一人の俺なんだぜ?」

 

「それは・・・、確かにそうだけど。私は今のシンに「ちゃんとした」姿になって欲しいって思うから・・・」

 

「奈々、お前、どうかしちゃったんじゃ無いのか? よくそんな事が平気で話せるな?」

 

「えっ? 私はただ、シンの為を思って・・・」

 

「奈々! 俺は絶対に認めないからな! オレの存在は、今ここにあるオレ自身だ! ホンモノのオレは、ここにしか居ないんだ! 例えクローンだろうが、コピーだろうが、オレの身体の一部を『部品取り』扱いされて、まるで、何も存在しなかったみたいな消耗品として残りが捨てられちまうなんて・・・、絶対に許さないからな! ・・・そんなにしてまでも、今の自分を『ちゃんとした』姿にする位なら、オレは一生、このまま手足をもぎ取られていた方がずっとマシだよ!!」

 

「シン・・・。分かった、ゴメン。私の方がどうかしてたんだ。我問さんに話してみる」


 シンは憤慨したまま、私と口を聞こうともしないでいる。

 

 私は、シンを思うがばかりに、人として一番大事な事を忘れかけていたのかも知れない。まるで、小学校の担任の先生から𠮟られている様な気まずさで心が一杯だった。

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