第31話 バイオモデムの覚醒

202X年 6月12日 午前7時05分頃 


TV放送局のカメラはゆっくりとズームアウトして行き、大災害に見舞われた首都圏を写すTV局のヘリコプター。


 レポーターが緊迫した声で実況中継している。


「皆様、ご覧になれますでしょうか? 昨日、首都圏を襲ったマグニチュード8クラスと言う未曾有の直下型大地震は、想像を絶する被害をもたらしています。都心の建物は倒壊し、交通網は寸断、堤防の決壊や津波によって各地が浸水し、火災も各地で発生している模様ですが、救援活動は手つかずのままの様です。この地震による死者、行方不明者は恐らく数万人規模に達するとの予想もあり、また、余震による二次災害の懸念も・・・」


 それを、葛西臨海公園の基地のTVで、ほくそ笑みながら見ているゲッヘラー。


 私はその横の手術台に、両手両足を拘束されて、意識を失わされている。


「越路博士のバイオモデムからは、何か分かったか?」

 

 ゲッヘラーの腹心である初老の科学者、イゴーが答える。


「いいえ、残念ながら。 博士のバイオモデムは機能停止してから数ヶ月が経っていますので」


「では、奈々のバイオモデムはどうだ? 取り出して解析してみろ」


「は、しかし・・・。 本当によろしいのですか? スキャニングの画像から判明した所、この少女のバイオモデムはすでに生体と同化しています。無理矢理摘出すると少女が死亡する危険もありますが?」


「構わん! バイオモデムのメカニズムを解明する為なら何をしても良い!」


「分かりました。摘出手術を開始します」

 

 私の身体にイゴーのメスが入ろうとしたその瞬間、私は意識を取り戻す。

 

「これは・・・、私に何をしようと言うの?」


「イゴー! どう言う事だ? 奈々はオーバーライドされているのでは無いのか!?」

 

「わ、分かりません。機器は正常に作動しています」

 

「ええい! 電波の出力を上げろ!」

 

 機器を操作し、オーバーライドの電圧を上げるイゴー。


「ウッ・・・!」


 私の瞳が苦痛と共にデジタル模様でオレンジとグリーン色に点滅し始めるが、急に『 ワタシ 』 の冷酷な表情と共に、目の色が攻撃色に変わり、逆立つセミ・ロングの髪も真紅のクリムゾン色に変身する。

 

「ワタシタチヲクルシメル・・・テキ・・・、ユルセナイ・・・!!」


 ワタシの全身から波紋状に青白い静電気のインパルスがほとばしる。


 火花を上げてショートする機器。


「バチバチッ! バァ~~ン!!」


 ワタシは拘束から解き放たれ、手術台からゆっくり起き上がると、ゲッヘラー達を睨みつける。

 

「イゴー! 護衛兵を!!」

 

「ハ、ハイ!」

 

 手術室のドアが開き、続々と現れるオートマトン達が、ジワジワとワタシに迫り来る。


 ワタシは冷静な表情のまま、オートマトンの一体を、もの凄い形相で睨みつけると共に掌をかざす。

 

 すると、ワタシの掌が青白い静電気光を放ち、強烈な電磁パルス(E.M.P. = Erectoro Magnito Purse )を放ってオートマトンの電子装置を破壊する。

 

 スパークを上げながらその場に崩れ落ちるオートマトン。

 

「あ、あれは一体なんだ、イゴー!?」

 

「私・・・には??」

 

 ワタシに襲いかかろうとするオートマトン達を、次々とE.M.P.でショートさせてなぎ倒すワタシ。

 

 ワタシは、祖父にインンプラントされたバイオモデムを通じて基地のシステムにアクセスし、我問やキラ、ジェイドを拘束室から解放する。

  

 その様子を見ていたイゴーが、


「あれは・・・、恐らくバイオモデムの未知の機能では??」

 

「何だと??」

 

「バイオモデムが生体をエネルギー源として、電磁パルス攻撃を可能にしている物と・・・」

 

「そんな話は聞いていないぞ!!」

 

「ゲッヘラー様。ここはひとまず避難を!」

 

 そこに、ゲッヘラーに招集されたオートマトン達が現れる。

 

「丁度良い所へ来た。お前達、あの少女を抹殺しろ!!」

 

 それを復唱するかの様に繰り返すオートマトン達。

 

「マッサツシロ・・・。 マッサツシロ・・・!!」

 

 ところが、オートマトン達が襲いかかった相手はゲッヘラー達だった。


 私が、バイオモデムを通じてオートマトンのO.S.をオーバーライドしている。

 

「違う! こっちでは無い! 相手は向こうだ!! うわぁぁぁっ!!」

 

 詰め寄るオートマトン達に覆いかぶさられ、ひねり潰されるゲッヘラーとイゴー。 

 

 そこに駆けつける我問、キラ、ジェイド。

 

 ゲッヘラーとイゴーの惨死体を見て、キラが、

 

「奈々?? これは一体??」


「やはり・・・、博士の言われていた事は本当だった。奈々さんにインプラントされたバイオモデムが、生まれながらの奈々さんの生体と融合したんだ!」


「融合だと?」

 

 我問は、キラとジェイドに説明を続ける。

 

「バイオモデムはただの電子装置ではありません。移植された生体の遺伝子と相互作用しあって、新たな種を作り出す様にデザインされているのです。奈々さんは、新しい生命体として生まれ変わったんだ」


 敵を一掃した事を確認したかの様に、目の色が元に戻る私。


 だが、私の感情は、今までの私とは異なり、もう一人の「ワタシ」に対して、憎悪さえ感じている。

 

 私は、思わず口走る。


「いくら相手が残虐な敵でも、同じ残虐な方法で仕返ししてしまっては、憎しみの連鎖を生むだけで、何の問題も解決しない・・・。私、本当はこんな事したく無かった・・・。何故、人は憎み合い、殺し合わなければならないの?」


「奈々・・・。 そんなに捨てた物でも無いわよ? 愛し合う事だって充分出来るんだから。ねぇ、ジェイド?」


 ジェイドにすり寄るキラ。


「な、なんのコトだ??」


 見かけによらず赤くなるジェイド。


 急に、私はシンの事を思い出す。

 

「そうだ! シン! シンは無事なの!?」

 

 シンの収容されている部屋に駆けつける私達。


「シン! シン!」


「奈々・・・。 あれ、俺の気のせいかな? お前、なんだか少し大人っぽくなってないか?」


「シンったら!!」

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