三人の小さな乱入者

 ひろいこの部屋へやなんだか劇場げきじょうのようにもえる。おばあちゃまがよくおしろれててくれた歌手かしゅのおねえさんや大道だいどう芸人げいにんたちをふとおもした。

 彼女達かのじょたち昔話むかしばなしやおとぎばなしなかにさっきのおはなしはあったかしら。


ねむねむれ いとしいおはな

はなびらたたんで ゆめよう

くものベッドにあず

月様つきさまいだかれるゆめ


ねむねむれ いとしいおはな

月様つきさまは きたいの

あのもりおく しずかないえ

こいしいくろねこ にわへ”


 うたっていくにつれてかべしろはながはじからあお発光はっこうしていき、幻想的げんそうてき風景ふうけいわっていく。

 そのひかりなみ次第しだいおくかべ女神様めがみさまとねこのもとあつまっていき、そしてどんどんつよくなっていった。

 けっしてながうたではない。でもそのあいだ、なぜかおばあちゃまのうでかれているときのことをおもしていた。

 あたまやさしくなでながら一緒いっしょ子守歌こもりうたうたってくれた。うたうたびに上手じょうず上手じょうずってげてくれた。

 そのうたいま、お月様つきさまこうにんでって、

 きっとおばあちゃまのむねとどいてる。


 うたわると同時どうじにまた遺跡いせきはじめた。部屋へやつつんでいたあおひかりともなってどんどんつよくなっていく。同時どうじおくかべ手前てまえゆか劇場げきじょうのステージのように階段かいだんじょうにせりしていった。

 かなりおおがかりなかけだ。ジャンと二人ふたりってじっと見守みまもる。

 するとしばらくしてしろけむりとともにそのステージのしたからなにかがせりしてきた。それはまるでつきひかり地面じめんそそぐみたいに天井てんじょうまでながながくパイプのようにつづつつのようなもの

「ガラスのショーケース、ッスか?」

なにかきらきらしてるの、はいってる」

 ドンクのひとみがちらっとまたたく。


 そのなかはいっていたのは銀色ぎんいろにローズいろ宝石ほうせきうつくしいティアラとしろいレースがきれいなベール。

 ながときをそのなかごしたはずなのにすこしもいろあせておらず、ドンクのうようにきらきらとかがやいていた。

 ひとみまれそうになり、あし自然しぜんまえしていく。

「ソフィー」

 ジャンのさりげないエスコートで階段かいだんのぼり、ティアラにちかづいていく。

 心臓しんぞうおと耳元みみもとでガンガンひびいた。

 ちかづけばちかづくほどそのかがやき、うつくしさをしていく。

 あともう三歩さんぽぐらいのところまでちかづくとショーケースはひとりでに観音かんのんびらきでひらいた。ガラスしでときよりもずっとずっときれいなティアラがうつった。


 ばす。


 そのときだった。


 * * *


「オタカラオタカラ!!」


 甲高かんだかこえ突然とつぜんひびいてちいさな黄色きいろふくおとこがドタバタはしりこんできた。

 ぎょっとおどろかえもなくその私達わたしたちあししたをくぐりけ、ティアラに乱暴らんぼうばした。

「アッ、こら、おまえ!」

 ジャンがあわててかれめようとするもときすでおそし。

 ティアラの後継者こうけいしゃじゃないどもの侵入しんにゅう感知かんちしたかけが作動さどう、ベールのはじっこをつかんだどものからげるように、レースをちぎりながらはるうえほうまで素早すばや移動いどうしてしまった。

「オタカラ!」

 ティアラの突然とつぜん消失しょうしつみんな大騒おおさわぎ――するひまなく今度こんど大変たいへんなことがきた。

 ショーケースのとびらかたざされたかとおもうとその姿すがたえた、ちがう、あないて地下ちかとされたんだ!

 その直後ちょくご天井てんじょうから大量たいりょうみずがショーケースをつうじて地下ちかつづあなへと一直線いっちょくせんちていく。そのりょうすさまじさったら、ショーケースはガタガタいって、とおくにいてもそのみずおとこえるほどだった。

「ナッ、なんなんスか!? なんなんスか!!」

「それよりあのは!?」

からない、でもはやくどうにかしないとあぶないぞ!!」

「おろおろ」

 くちぐちにさわいでいるとうしろからピオー!! と二人ふたりどものこえこえた。

 きっとさっきのれだわ。

「ねえねえ眼帯がんたいのおいさん!!」

「お、オイサンッ」

黄色きいろふくなかった!?」

「そ、そのなんだけど!」

 ことのてんまつをはなすと途端とたん二人ふたりもあわてだす。

 なんでもこの二人ふたりはさっきちてしまった一緒いっしょにこの遺跡いせきらしているんだそう。ここにおたからねむっているらしいというのはいていて、日々ひびみんななぞこうと頑張がんばっていたけれど出来できず。そんなときにそれの出現しゅつげんをたまたままえてしまったものだから興奮こうふんしてわなおもいっきりびこんでしまった――とのこと。

「ちょっとはなすとすーぐいなくなっちゃうんだから! アイツ!」

「リオ、どうしましょう……このままだとピオがんじゃうかもしれない、そんなことしたらあの動物どうぶつたちのお世話せわだれがするんですか、いそがないと緊急きんきゅう事態じたいです、どうにかしないといけな」

かってるってルイ! ちょっとだまってて!」

 赤服あかふくのリーダー、リオくんがショーケースをバシバシたたくがびくともしない。それに青服あおふくのルイくんがあせってどんどんまくしたてる。

 かねたジャンが二人ふたり無理矢理むりやりショーケースからきはがした。

「おい、お前達まえたち! そんなことやっても無駄むだだ、一旦いったんそこからはなれろ!」

「でも!!」

大丈夫だいじょうぶだ、俺達おれたちなんとかしてやるから! ――ディーディー! このみずめるかけかなにいか!」

いまさがしてるッス!」

「そんなのべついよ! それよりはやくこのパイプけて!」

「バカ野郎やろうにてぇのか! こんな水圧すいあつながれるみず一気いっき開放かいほうしたら俺達おれたちがやられちまうんだぞ! そしたらピオどころか全滅ぜんめつだ! 例外れいがいなく!」

「……!」

「オマケにあんなにはげしいみずなかんで地下ちかくなんて不可能ふかのうだ! さきなんとしてもこのみずめないと」

 それから全員ぜんいん部屋中へやじゅうをくまなくさがした。そしてすぐにわたしっていたレーヴ王家おうけ紋章もんしょうはずれることがかる。

「これッスか!」

「そうみたいだが……クソ! これ邪魔じゃまだな!」

 はずしてみたはいいものの、あのショーケースみたいにガラスがおおっていてそのおくにあるボタンがせない。そこからびるせんをたどっていくと壁画へきがのてっぺん、お月様つきさままでつづいているのにがついた。

「あれか!」

「でもどんなびっくり人間にんげんでもあそこにとどかないッスよ!」

「ジャンプも無理むりひとげたらあぶない」

「……あのなにてればいの?」

 リオくんがぽつりとつぶやく。

「ええ……でもあんなたかくてちいさいまとてるなんて」

大丈夫だいじょうぶぼくにまかせて!」

 瞬間しゅんかんなんかめっちゃ格好かっこういいパチンコをポケットからしてパチンコたまをセット。片目かためをつむってねらいをさだめ――った!

 するとたままよいなく一直線いっちょくせんに、まるでいこまれていくようにお月様つきさまたった。ガコンとおとがして足元あしもとのガラスのおおいがれ、ボタンがせるようになる。

 リオくん、すごい!

 ジャンがボタンをすとみずながれがうそみたいにぴたりとまった。しかしショーケースのとびらがいつまでってもひらかない。うそでしょ!? さっきはいたじゃん!

「しまったッス! これ、扉同士とびらどうしっかかってるッスよ!」

 うああ、さっきの放水ほうすいでガタガタいってたもんね……! どうすんのよ!

みんな、おれのところに!」

 いつの移動いどうしたのかそこらへんたおれているおもそうないしはしらちかくにドンクがいる。すぐにかれ真意しんいさとってみんなあつまる。ぶちやぶるんだ!!

どもたち大人おとな大人おとなあいだはいって!」

あしはさむなッスよ!」

「「うっす!」」

 全員ぜんいんいたのを見計みはからってジャンが大声おおごえさけぶ。

総員そういんちからをこめてぇ! ソレ! ヨーホー!」

 ヨーホー!!

 こえわせておもたいいしはしらなんとかふらふらげる。

っこめ!」

 あせたまひからせながら全員ぜんいんかたいガラスにいしはしらをぶつける。ひびははいったがまだまだれる気配けはいがない。

「もいっちょ! ヨーソロー!」

「「ヨーソロー!」」

 そのまま三回さんかいかえすと――。

 ガシャアアン!

 派手はでおとててガラスが盛大せいだいれる。やった!

 ジャンがすぐにのこってしまってあぶないガラスをそこらへんいしくだき、ぐち確保かくほする。

 したほうではべつ部屋へやがあるらしく、そこでは天井てんじょうのそれとはべつ大量たいりょうみずがものすごいいきおいでながしていた。

たすけてぇ!」

いまく! ――ソフィー、おいで。お前達まえたちはその子達こたちかかえておれいてい! のこしてってこっちでべつかけが発動はつどうしたらたまったもんじゃないからな!」

 ピオくんのこえ確認かくにんしたジャンがわたしつよきしめ、一直線いっちょくせんみずがごうごうながれる地下ちかへとびこんだ。ながれに上手うまり、冷静れいせいたか足場あしばわたしろし、あとからつづいた船員達せんいんたちをそこへ誘導ゆうどうする。そのあいだにもはげしいみずながれはもろくなったかべやぶり、最早もはや制御せいぎょ不可能ふかのうだ。

「ジャン! ジャンもはやく!」

大丈夫だいじょうぶおれはピオをたすけないと」

「でもでも! ――だったらわたしも!」

「や、ソフィーはここにいて」

 ジャンのかたをかけようとしたのをかれやさしくめた。

大事だいじひとってるっておもえば、ぬわけにいかねぇだろ」

「……!」

 かおあかくしてるあいだかれはまたキザったらしく挨拶あいさつをして台風たいふうのようなみずもどっていった。そのままこうでぱしゃぱしゃあばれるなにかのほうかっていく。

「もうバカバカ!! 頑張がんばれコノヤロー!!」

「……おねえちゃんはあのひと恋人こいびとなの?」

恋人こいびとじゃないー!!」

 さすがはうみらすおとこ、といったところか。ジャンはもうすこしでおぼれそうになっていたちいさなからだきとめて、ながれに上手うまりながらこっちへかえってきた。すごい、やった!

「オジチャン、オジチャン」

「オニイサンな」

「オジチャン、ありがと……」

「うむうむ。うむうむよし、オニイサンとはや脱出だっしゅつしような」

「ありがと、オジチャン」

 みずながれがはやいおかげもあるだろう、直後ちょくごにはこちらの足場あしばにたどりいていた。うずのようなながれにすくわれたのだ。

 これ以上いじょうながされないようにりながらジャンが船員せんいん二人ふたりにピオくんを手渡てわたす。二人ふたりわたったピオくんはすぐにリオくん、ルイくんのもとにすっんでいき無邪気むじゃきいてあやまった。

 かったかった。

 ――とおもったのもつか

 うしろでなに巨大きょだいかげれたがした。

「おい! ドンク、ディーディー! おれげてくれ」

 みずにすっかり体温たいおんうばわれてちからはいらなくなってきたジャンがこちらにかってばす。わたしふくめた三人さんにんでそのをつかむとこおりのようだった。

「せーの!」

 かけごえわせておもいきりる。ひまがなかった上着うわぎ帽子ぼうし成人せいじん男性だんせい体重たいじゅうあいまって、メチャおもい……!

 と、そのとき。またうしろで巨大きょだいかげらめいた。今度こんどなにかぶっといひもみたいなもの遺跡いせきかべたたいたがする。あきらかに様子ようすがおかしいのにジャンたち気付きづいたみたい。

今度こんどなんなんスか!?」

はやげてくれ!」

「ちょっとみんなどいてて」

 ドンクがちからをこめやすいようにみんなでその一旦いったんはなれる。おお、さすがは怪力かいりきドンク、いとも簡単かんたんにジャンのからだげ――


あぶない!!」


「え」


 その瞬間しゅんかん高潮たかしおみたいなあばみず一緒いっしょむらさきおおきなからだくちがこちらになだれこんできた。

 その巨大きょだいなにかはジャンのよこぱらみつき、一気いっきみずなかっていく。

 まえからかれ姿すがたえた。


「ジャアアアアアアン!!」

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