3-5 大量のハエ

 レオは座ったまま考えていた。テーブルに並んだドーナツ、ハンバーガー、パスタをだらだら口に運ぶ。


 さっきのことだけで、今までの認識がだいぶ変わってしまった。心残りだったゼリージュースのことも。そう、あのゼリーをダンが先生にあげているのを見たのだ。

 その日彼の部屋に寄って、冷蔵庫を見たら無くなっていた。心臓を打たれたような衝撃だった。どうしてあの体罰教師に渡すんだろう、そこまで仲がいいのか。そうやって、不安と痛みと嫉妬に似た憎しみを抱え、爆発しそうになりながらレオは過ごした。


 レオは喉を詰まらせそうになりながら完食した。生きた心地がしなかった。腹はちょうどいいはずなのに、胸のほうに重い塊ができたかのようだ。外に出ると、太陽がじりじりと自分を責め立てているように照り付けていた。



 扉を開けると、ハエが一匹逃げ出した。ゴミを捨て忘れたせいか、ハエが増えている。異臭が広がっていないだろうか、とレオは考える。酷ければ退去命令されるかもしれない。虫よけでも買おうか。

 日差しからは逃れたが、部屋の中が熱帯であることには変わらない。何か冷たいものを――――




     ごとっ




 レオが冷蔵庫を開けるとダンの死体が落ちてきた。


「ぎっ!」


 腰が抜ける。尻もちをついた床がミシリと音を立てる。

 よく見たら、そんなものはいなかった。自炊の残り物が、茶色くなって酸っぱく臭っている。辺りを飛んでいたハエがそれに寄り添う。汗まみれのレオの、腕や頬にも。



ビーッビーッ



「あああっ!」


 冷蔵庫を蹴る。変な音を立てながら扉が閉まる。吐き気に襲われたレオは立ち上がったが、耐え切れずにその場で吐いてしまった。うずくまって顔を覆う。


「しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね……」


 口からとめどなく、時々嘔吐がぶり返しながら、罵倒し続ける。それは、レオ自身への言葉なのだった。

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