4-3

 あれは夢だったのか——そう思うことがある。

 例えばそこは真っ暗闇な空間だったとする。その空間の天井、地面には黄緑色の、網目状の線が張り巡らせている。いつもだったらその人とは文字でしかやり取りすることができない。

 でも年に何回かだけ、そこから立体的に人が浮かび上がり、顔を見ることができて、声も聞くことができる。周りの景色も一変する。

 そこでようやく初めて、この人を一人の人間として見ることができた。変な感覚であるが、そう言っても差支えないのではなかろうか。

 でも、そのせいを感じ取れる時間は極限られていた。シンデレラの魔法が解けるように、終わりの鐘の音が告げられて、またその姿を消してしまう。

 今度はいつ会えるのかな。その一瞬でも、触れ合えた素敵な奇跡を抱きしめて、また明日へ向かう。いつも居るはずなのになんて遠いのであろうか。



『急にごめんね。あの、志保ちゃんにだけに思い切って言うね。私、リョウさんのこと、好きなのかもしれないの。正直に言うけど今まで私、男の人を好きになったことがなくてよく分からないんだけど、この初めて感じるこの気持ちはきっと、そうなんだと思う。でも、そんな恋愛経験のない私だから上手く話しかける自信がなくて。志保ちゃんといればリョウさんも近づいてくるから、これからのライブ、しばらく志保ちゃんと一緒に行動してもいいかな?』


 父の通夜の日、Ricoからこんなメッセージが来た。向こうはこっちの事情なんて知らないとはいえあまりにもタイミング、間が悪い。

 まさか打ち明けてくるとは思わなかったが今は別の意味でも返事をする気になれないし、これを了承してしまったらRicoのキューピッド役になってしまいそうでそれもなんだか嫌であった。

 別にリョウを好きになるのは自由だが、自分でなんとかしろというのが本音だ。父の死を受け入れるのにも必死な志保にはこれはまさに追い討ちであった。もう駄目かもしれないと思った。

 悪い事というのは時に連続して起こる。志保の胸の辺りからポキっという音がした。

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