茶箪笥を避けて!

 俺が真壁に声をかけようかというとき。

 真壁がゆっくりと動き出す。向かったのは茶箪笥。

 その陰にスイッチを発見したと俺に報告してくれる。


 真壁がスイッチを押すと、棒がゆっくりと降りてくる。

 体育館の舞台の奥にある国旗を掲揚するときの棒だ。


「ここに引っ掛ければいいんだね!」

「なるほど。そんな仕掛けがあったんだ」


 旗を探し出すことに一生懸命だった俺は、掲揚の方法を考えていなかった。

 それを真壁がさりげなく見つけてくれた。真壁には助けられてばかりだ。

 いつも冷静で、俺の力になってくれる。見返りを求めることもない。


 俺にとっては出来過ぎた大親友だ。横に並んでも動揺しないのがいい。

 だがしかし、カノジョではない。真壁は男。とんでもないイケメンだ。


 その真壁が大声で叫ぶ。


「みんな、茶箪笥の影にスイッチがあるから!」

 遠くから返事。みんな素直に真壁の言う通りにしている。


 全ての準備が整った。あとは思いっきり真壁に俺の気持ちをぶつけるだけ。

 そして、一緒に寮旗を掲揚する。これからの学園生活を共に過ごす。

 大親友として。寮長と副寮長として。


 あれっ? 副寮長になるのは、寮長のカノジョじゃないのか?

 ということは、真壁が俺のカノジョになるのか?

 冗談ではない! そんなこと、天地がひっくり返ってもない。


「真壁、俺……」

 そこまでで、俺の言葉は遮られる。


「今は、寮旗争奪戦に集中しよう!」

「……あぁ、そうだな!」

 と、俺は自分の気持ちを押し殺してそう言った。


「さぁ、結ぼう!」


 それからは旗を掲げることに専念した。

 全ての旗を棒に括り付け終えたとき、制限時間まで残り3分を切っていた。

 まだ旗を掲げるスイッチは1つとして押されていない。


「秋山、スイッチを押してまわるんだ!」

 と、真壁が俺をせっつく。優柔不断な俺なんかに寮長を任せてくれるのか。


「真壁も一緒だ。手を繋ぐぞ」

 今のところ、俺の横はやっぱり真壁! ただし、イケメン大親友としてだ。

 カノジョじゃないから!




 俺は、時計まわりに走り、スイッチを押していった。

 途中で先ずはすばるとりえが合流。次は久美子と範子。

 最後には千秋と千春を回収しようという計画だったが。


「愛しい君の隣。今日のところは、ひかるに譲るよ!」

「すばる様、そのようなことは無粋ですよ」


 すばるをやんわりと嗜めるりえ。

 りえはもう完全にすばるを操っている。

 けど無粋ってどういう意味だろう。


「お供いたします……」

「……ます」

 久美子も範子も実に礼儀正しい。範子はいざとなると喋るが、普段は寡黙だ。


「どうして私たちが貴方達より遠くなのですの」

「そうですわ。私たちをなえがしろにするなんて、許せませんよ」


 千秋も千春も野良メイド3人衆への対抗意識が強い。

 2にんにも繋がってほしかったけど、このときには列に加わらなかった。


「楽勝だね、私の公式愛しい君!」

「寮旗争奪戦なんて、僕たちが恐るものじゃないのさ」

 うんうん、そうそうそう。すばるや真壁の言う通り。


「転ばない限りは、歩いたって間に合いそうだよっ!」

 と、俺も完全に有頂天。本当に歩いたってよかった。

 でも俺は、そんな無精な真似はしない。ちゃんと走った。


 途中、バランスを崩してしまうが、ちゃんと茶箪笥を避けた!


「おっと、いけない」

「秋山。茶箪笥の角に足をぶつけるような真似はするなよ」


「うん。今は危なかったが、もう大丈夫だ!」

 余裕、余裕。茶箪笥なんかに足をぶつけてたまるか。

 転んだりしたら大ごとだから、俺だって慎重に走ったんだ!




 でも、転んだ。だから、転んだ。


「いててててっ」


 きっかけは、掘りごたつの天板。右足小指をぶつけた!

 俺が転ぶと真壁も転ぶ。そしてすばるもりえも久美子も範子も。

 全員が順に等間隔に顔面を畳に打ち付けた。


「うおぉーっ。足が……足が痛いーっ」

 俺の顔が苦痛に歪む。


「大丈夫かい、秋山! っててて。僕も痛いーっ!」

「私の公式愛しい君よ。直ぐにでもお助けします。この痛みさえなければ……」

「右に同じでございます……」 「……同じでございます……」 「……ます」


 みんなの顔も歪んでいる。最後の最後に転んでしまうだなんて……。

 寮旗はあと2枚を残すのみだったのに、浮かれてフラグを立ててしまった!

 そしていつになく素早く回収してしまった。もう、ダメか……。


 いや、まだだ。俺たちはまだ戦える。まだ終わっていない!

 見える、見えるぞ。この寮旗争奪戦の終幕が俺には見える!

 俺を左右から支えてくれる千秋と千春の姿が!


 その胸はGカップ。アーンド、Gカップ!


 さぁ、千秋と千春よ。今こそ俺の両側に立つがいい!

 そして存分に、そのおっぱいを堪能せしめるがいい!


「千秋、千春。すまないが肩を貸してくれ!」

 と、2人のいる少し後方に目をやった俺は絶句した。

 な……何故、今、2人揃って灰塵モードに……。

________________________

 灰塵モード、厄介ですね……。


 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 これからも応援よろしくお願いいたします。

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