寮旗争奪戦!

 千秋、お前も変なやつだったのか……。

 地味なのを除けば、まともなルームメイトだと思っていたのに。


 周囲の視線が俺に厳しい。特に真壁とすばる。千秋の妄言を真にうけている。

 メイド3人衆に至っては、声を失う始末。


「秋山、サイテーだね。見るだけで満足せずにエロい妄想するなんて」

「さすがは我が公式ライバル、エロい! エロエロ大魔王だ! (はぁはぁ)」

「……」「……」「……」


 エロいって言うな! 大魔王じゃなーい! 全部、千秋の勝手な妄言だって。

 俺はみんなの厳しい視線を振り払うように大声で叫んだ!


「兎に角、俺は絶対に寮長になってみせる!」

 そして、カノジョをゲットする! これだけは譲れない!

 そうでなくちゃ、片高に入学した意味がない!


「だ……だったら……もうそろ……入寮……しませんと!」

 挙動不審な千春が言う。もう、訳がわからない。

 分からないが、1番的を射た発言かもしれない!


「たしかに、もう日が暮れそうだね」

「かなり出遅れた感があるよ」

「いつまでも筋トレしている場合じゃないな」


 こうして俺たち8人は、地下通路を抜けて寮の中庭へ移動した。

 そのときにはもう、俺にはエロエロ大魔王のレッテルが貼られていた。




 今、俺たちがいるのは、細長い建物の裏。


「寮旗争奪戦は、いわば宝探し。旗を掲げた者が勝者!」

 と、すばるが言うと、空気がギュッと引き締まる。

 いつも爽やかな真壁が応じるが、このときは神妙な語り口だった。


「先代の寮長が隠した旗を見つければいいんだったよね」

「その通り。旗は全部で13。だが、現実的には12」

 13? 12? どっちなんだ?


「どうして12なんだ? 建物は13棟あるんじゃないか!」

 俺がそう言うと、真壁が地図をポケットから取り出して広げる。

 12の建物が中庭を取り囲むように配置されているのが分かる。


 1つの建物は鉄コン2階建てで、長さ約200m・幅12.5mと細長い。

 北にある子棟から時計回りに丑寅卯……と、十二支の名が付されている。

 方角からして、俺たちの目の前にあるのが午棟だ。


 そして俺たちの背中、中庭の中央にあるのが朝礼台と呼ばれる建物。

 1辺が20mの正十二角形で3階立て。13棟の中で最も広い。

 2階から突き出たテラスは文字通りの朝礼台として使われるらしい。


「朝礼台に住むのは難しいんだ」

「共用部分ってことか?」


「そう考えて問題ない。旗を探すなんて時間のムダ」

 真壁が相変わらず神妙な口調で言う。俺もつられてつい神妙になる。

 朝礼台が共用部分だとすれば、旗を掲げるなんてナンセンスでしかない。


 けど、納得できないこともある。最初から旗がないなら別だけど!


「だったらどうして旗があるんだ? 共用部分なら旗、要らないじゃん」

 真壁とすばるが顔を見合わせ、苦笑いを浮かべる。

 俺、そんなにおかしいことを言ったかなぁ……。


「片高1000年の歴史の中、朝礼台に寮旗を掲げた方は1人しかいない」

「これまでに何人もの片高生がその旗を探したけど、誰も見つけられない」

 なんだって! そんなに巧妙に隠されているのか……。


「聞いたことがあります……」

 と、はなしに入ってきたのはメイド長のりえ。こちらも神妙そのもの。


「……旗を探し回り疲れ果てた者は、ノマドとなり寮内を徘徊する、と……」

 ノマド、徘徊……夢を追って旗を探し求めた者のなれの果て。

 そうはなりたくないという見本のような存在だ。


 それしにても、朝礼台に旗を掲げるなんてとんでもないやつだ。

 挙句、卒業したら巧妙に隠すんだから始末が悪い。

 どんなやつだ? 親の顔を見てみたい!


「誰だ! 旗を隠した者は一体、どんなやつなんだ!」

 俺は熱り立ってそう言った。返してくれたのは、俺の大親友の真壁。

 神妙な顔は消えていて、大きなため息混じり。


「はぁーっ。その旗を隠した先代の名は……」

 ……先代の名は? 名前までご存知とは真壁、さすがだ。

 固唾を呑んで次の言葉を待つ俺。まさか、あいつじゃないよな……。


「待って! 今はそれどころじゃないわ。最も不人気な午棟に旗が……」


 と、今度は横から地味に千秋が割って入ってきた。

 千秋はそのどさくさに俺にタッチ。華やかモードに変身する。

 そして、午棟に旗が翻っているのを指差した。


「おーっ、ほっほっほっ! 既に全ての建物が押さえられている証拠!」

 全ての建物というのは、この場合は12棟。朝礼台は含まれていない。


 そして服を脱ぎはじめる千秋。双子の露出狂はいただけない。

 つい見てしまう俺だけど……今はそれどころじゃない。一大事だ!

 全ての寮旗が奪われたら、寮長になる目標が潰えてしまう。


「……最早、全ての寮旗が落ちたとみて、間違いありません……」

 と、千秋がエレガントに続ける。その姿は下着のみ。

 俺はしっかりガン見のあとで、慌てて視線を逸らす。


 そこにいたのはすばる。こちらも負けず劣らずの巨乳だ。

 千秋に手で触れて、千秋を地味モードに変えながら言った。


「たしかに。俺の公式ライバル・純くん。1年間は休戦としよう!」

 休戦? 寮旗争奪戦は来年に持ち越しってことか。

 すばる、お前はそんなに簡単に諦めるのか?


「そうだね。早く誰かに取り入って、入寮しておかないと」

 真壁が冷静に言う。そうか。俺たちまだ入寮していない。

 ということは、ノマドになる可能性があるってことだ。


「ど……どど……どどど……どど……ど」

 千春のあれも、おそらくは入寮に同意したってことだろう。


「このままでは、8人そろってノマド生活が待ってます!」

 お、おい、りえ。それはフラグじゃないのか?

 寮旗を争奪しようと思ってた俺たちが、フラグ立てててどうする!


 これは、緊急事態だ!

________________________

 で、先代の名は?


 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 これからも応援よろしくお願いいたします。

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