ファースト同級生

 向かいのコンテナから出てきた人。ファースト同級生はエレガントだった。

 俺は思わず「宮小路院千春!」と、その名を呼んでしまう。


 そのエレガントさは忘れられない。俺が持っていないものだ。

 呼び捨てはご愛嬌。有名人にばったり会ったときのよくある反応だ!


 千春は前屈みになり、左手を腰に、右手を俺に向かって突き出す。

 それをリズミカルに横に振りながら舌打ちでハーモニーを奏でる。


「チッチッチッ! いきなり人を呼び捨てにするなんて、いけない子ね」

 と、凛々しくてニヒルで優しい。言っていることも間違っていない。

 知らない人に呼び捨てにされたら俺だってイヤ。ここは素直に謝る一手。


「ご、ごめんなさい。う、噂通りルームメイトにそっくりで、つ、つい……」

 緊張から吃ってしまった。正直に言ったけど、少々言い訳じみた。

 千春は凛としたまま1度ゆったり身体を起こして俺を見下ろす。


 そしてまた前屈みになり、下から品定めするように仰ぎ見る。そのとき……。


 服が重力に引っ張られてか、ぱっくりと開いた胸元。

 その奥には白いレースのブラジャーに包まれた、やわらかそうな胸がチラリ。

 お宝だ! 1週間おかず抜きでも大丈夫なほどのお宝映像だ!


 やばい! 顔が火傷しそうなほど熱い! 見てらんないけど、見ちゃうって!

 

 と、千春はまた身体を起こし、胸の下で腕を組んだ。つい、ほっとする。

 今の反応、拙かったかな? ガン見していたのがバレたかもしれない……。

 俺はこれ以上、不審がられないようなるべく目を逸らさず、平静を装う。


 ガン見はバレていないか、黙認されたようで、千春は無反応だった。

 そして、何事もないかのように、上半身をよじって半身となった。

 華奢な身体付きと胸の豊かさの両方が際立って、エレガントそのもの。


 そのときになって俺は気付いた。千春は俺のこと勘違いしている!

 『女子と女子だから恥ずかしくないよねーっ』とか思っている!

 俺のことを、そんじょそこらの美少女だと思っているに違いない!


 今はその方が都合がいい。けど、それじゃダメだ。そのままじゃダメ!

 俺が千春をカノジョ候補とするなら、千春には俺をカレシ候補にして欲しい!


 千春は、エレガントに俺に近付きながら言った。


「ルームメイト? では、あなたは千秋と同伴受験しましたの?」

「は、はい。あっ、秋山純です。よろしくお願いします」

 と、俺は普通に自己紹介。純という名前だけだと、男女の区別はつかない。


 それにしても、こんなに他人に下手に出たのははじめて。

 千春のエレガントさに俺の心は振りまわされている。


「どうしてこの私が、よろしくお願いされなければならないの?」

「そ、それは言葉のあやで……はははっ」


 普通に緊張して、それがピークに達すると、ついへらへらしてしまった。

 かわいいは正義というが、美少女は暴力かもしれない。

 真壁たちはこんな緊張の中で俺に告っていたのか。


 そう思うと、あの五里先生でさえ尊敬してしまう。

 けど、俺は男に興味はない。ほしいのはカノジョ。

 カノジョをつくりたくって片高に入学したんだ。怯んではいられない。


 エレガントで颯然とした優雅さのある千春と、絶対に仲良くなりたい。


「……美少女の前だから、男として普通に緊張してしまって!」

 と、なるべく笑顔で言った。頭に思い浮かべたのは真壁の爽やかさ。

 上手にできたか自信はまるでないが、さり気なく男子ということもアピった。


 それに対する千春の反応は挙動不審だった!


「お、おと、男としてって……で、でで、では、あ、あな、貴方は……」

 な、なんだよ、急に。俺が男だと知り、驚くのは分かる。

 けど、この狼狽っぷりはすご過ぎる。顔がどんどん赤くなっていく。


 そんなに俺に胸元を見られたのが恥ずかしいんだろうか。


 エレガントで凛としていた数秒前と、大きなギャップがある。

 そのギャップに、俺の胸はきゅんきゅんしている。


「はい。そして、千春さんとも仲良くなりたいです」

「ななな、仲良くなって、なな、なんとするのですかぁーっ……」


 千春が顔から火を吹く。何かを想像し怯えている。

 エレガントで凛々しい立ち姿はインハイへの究極のド直球だった。

 挙動不審になよなよするのはアウトローへの至高のスライダー!


 そのコーナーを使い分ける丁寧なギャップに俺は萌え萌えだ。

 千春はこのとき、俺がカノジョにしたい娘ランキングの第1位に躍り出た。

 あのイケメン巨乳女子の春川すばるを抜いて!


 だから、慎重に言葉を選んで伝えた。


「なんとするかは別で、先ずはお友達からということで、どうでしょう」

「お、おお、おと、お友達ですってぇーっ……」

 そう、お友達。今日はIDの交換までで充分。


「はい。お友達です!」

「お、おと、お友達だなんて……」

 千春の狼狽は続いているどころか、更にひどくなる。挙動不審だ!


 拙かったか。最初からお友達は要求し過ぎたか。

 様子を見て少しずつでも下方修正するべきだろうか。


 でも俺、絶対に千春と仲良くなりたい。友達になりたい。ID交換がしたい!

________________________

 IDゲットは、カノジョづくりの偉大なる1歩だ! 秋山くん、がんばって!


 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 これからも応援よろしくお願いいたします。

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