同伴者の想い!(宮小路院千秋視点)

 私は千秋。世間を騒がす宮小路院家の双子の姉の方です。

 私、大きなミスをしてしまいましたの。

 片高への願書をうっかり出し忘れてしまったの。


 出そうとは思ったんです。出そうとは。

 でもそのとき、妹の千春が腹痛で大騒ぎになってしまいました。

 腹痛がなんとか治ったときには、受付時間を過ぎていました。


 ま、高校なんてどこも一緒です。だから最初は、片高進学を諦めました。

 ですが昨日、妹に関するある陰謀を耳にしてしまったのです。

 このままでは妹が危ない! そう思ってここにきました。


 願書もないのに受験ができるのか、ですって? その点は心配ご無用です。

 だって私、地味なんです。ステルス性能抜群です。

 私には機械も反応しないはず。受付のゲートを素通りいたします。


 1つ前の人がゲートをこれから潜ります。

 さすがに緊張します。大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせます。


「ようこそ田中実君。どうぞお通りください」

 と、機械の声が前の人の通過を知らせました。

 今です! ゲートに突入です! さぁ、どうでしょうか!


「申し訳ございません。お通しすることはできません」

 あ、バレました。大丈夫だと思ったのですが、無理でした。

 ひっかかってしまいました。


 しかたありません。ここは、したたかにいきましょう。


「そんな。妹が心配なんです。受験だけでもさせてください」

「出願がありませんと……」

 たしかに出願していません。締め切っていたので。


「私にもメールはきました。その日に妹が倒れてしまい、出願できなくて」

「そう言われましても、出願もなく受験していただくわけには……」

 さすがは機械です。融通がききません。


「そんな……どうしよう」と、さすがにしょぼんです。

 地味な私を捕まえるなんて、片高の認証システムはさすがです。


 などと感心している場合ではありません。

 なんとかしませんと、なんとかしませんと、なんとかしませんと……。


 と、そのとき。私の背中に話しかけてくる声がしました。


「あのー、どうです? 俺の同伴ってことで!」

 俺、ですって? 男の人でしょうか。だったら好都合です。うれしいです。

 だって私、男の人にしがみつくと、華やかになるんです!


「同伴ですか! その手がありましたね」

 と、私は振り向きました。けどそこに立っていたのは、美少女さんでした。

 見た目からそう思いました。がっかりしました。


 でも、その隣にはイケメンがいます。

 理由をつけて隣のイケメンに乗り換えましょう。

 ここは、したたかに、したたかに。妹のためですから。


「が、頑張って一緒に合格しましょう!」

 引いています。私の地味な顔を見て引いています。

 慣れっこです。へっちゃらです。


「はい。ありがとうございます! では、参りましょう!」

 と言いながら、美少女さんの腕にしがみつきました。

 すると、どうでしょう。私、華やかになってしまいました。


 この美少女さん、男の人ってことのようです。

 兎に角、同伴成立です! うれしいです。

 男の美少女さん、ありがとうございます。


「ようこそ秋山純君、宮小路院千秋君。どうぞお通りください」

 純くんというのですね。私は純くんにサービスしました。

 わりと大きな胸を押し当てるようにして腕にしがみつきます。


 ちょっと照れています。純くん、うぶなんですね。

 純くんと私に、周囲は大騒ぎです。私の胸も騒いでいます!


「な、なんて尊い絵面でしょう……」

「もはや、溜息しか吐けないわ……」

「これが片高のレベルなのね……」

「入学は諦めて、お家に帰って寝よう……」


 ちょっとだけ罪悪感があります。私は男の人の力を借りて華やかになります。

 そのときちょっとだけ男の人の何かを吸い取るようです。何かは何かです。

 その結果、男の人は数秒後には干からびてしまうのです。かわいそうです。


 ところが、純くんは一向に干からびません。

 

「驚いたわ……ひょっとして、あなたって……いいえ。そんなはずないわね」

「は、はぁっ……」


「兎に角、行きましょう」

「うん。そうしよう」




 背後のイケメンくんもゲート通過です。

 カウンターでデバイスを受けとります。合格すれば入学後も使うものです。

 私の姿が、元の地味子に戻りました。イケメンくんが私にはなしかけます。


「おやおや、千秋君。随分と地味だね」

「はい。私は特定の条件を満たさない限り、地味なんですよ」

 見ての通りです。


「なるほど。噂通りということだね」

「多分その噂、少し修正が必要でしょうけど……」

 だって純くん、あんなにピンピンしています。


「ふーん。僕にはちっとも修正が必要とは思えないけど!」

 と、イケメンくんが突っかかってきます。カチンときましたわ。


「そうでしょうか。あなたもお試しになりますか?」

「僕は構わないけど!」

 だったら、何かを吸い取らせていただきます。干からびていただきます!


「まぁまぁ。2人とも、まずは入試突破だよ!」

 残念。邪魔が入りましたわ。相手が悪いです。


「純様がおっしゃるなら、そういたします」

 入試突破は必定です。私と純様が組めば、最強です。妹にも負けません。


「僕だって、絶対に合格してみせるよ!」

 ふん。イケメンくん、精々、頑張んなさいな。

________________________

 千秋の能力、恐ろしいです。何かって、何でしょうね。


 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 これからも応援よろしくお願いいたします。

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