四十歳の誕生日を迎えて試しにレズビアン風俗を利用してみたら二十歳下の女の子にガチ恋した。

シイカ

 

 ああ。とうとう四十になってしまった。

 いつもと同じように十二時を指す時計の針が、今日はいつになく特別に見えた。

 笠間美由かさまみゆとして漠然と生きてきて、何かを成し遂げたということもなく何事もなく過ごしてきてしまった。

二十になったときは自由を手に入れた気がした。

 三十になって第二の人生のスタートだとワクワクした。

 しかし四十になった今回は何の感情も湧かなかった。

 年を重ねれば勝手に大人になると思っていた。

 

 美由は五年間一人で寝続けたベッドにいつものように入り込む。


 ――そろそろ誰か現れてくれるかな。


 美由には五年ごとに恋人ができる周期があった。

 二十歳で初めての恋人ができ、一年以内に別れ、二十五歳で恋人が出来、別れ、最後に三十五歳で恋人と別れてからここ五年間は一人で生きてきた。

 便宜上、恋人と言っているが美由はその人たちのことを好きではなかった。

 付き合っている内に好きになると思っていたができなかったのだ。

 楽しいとは思った。しかし、美由は満たされなかった。

 金銭的問題ではなく心の問題だった。

 かつての恋人だった人たちに申し訳ないことをしたと思う。

 だから、時間を無駄にする前に別れる。

「しばらくしてないな……」

 美由は下腹部をゆっくりと撫でて呟いた。

 性欲が強いわけではないが人の体温が恋しくなる。

 やはりこれも五年周期だ。

 しかし、在宅ワークに仕事を移してから出逢いがない。

 一人でいることがほとんどになり、自分がひとりぼっちであったことを痛感した。

 過去に付き合った相手の連絡先は未練を残したくなくて必ず消している。

 貰った物も写真も必ず捨てている。

 友人に話したら「やりすぎだ」と言われたが美由は終わった縁というものは徹底して絶つべきだという考えを幼い頃から持っていた。

 不要だと思ったら、とにかく手放す。

 だから美由は気が付いたら一人になっていたのかもしれない。

 スマフォに登録している連絡先は仕事相手しか残っていなかった。

 

 ――婚活は……やりたくないな。結婚したいわけじゃないし。


 今の気持ちはただセックスがしたいという欲求だった。

 かと言ってナンパする度胸も無い。

 性欲なら一人でも満たせるが、今欲しいのは人肌なのだ。

 インターネットで他の人たちがこの気持ちをどう発散しているかを検索してみた。

『マッチングアプリ』

『一人で満足するまでオナニーする』

『前付き合ってた人に連絡取る』

『友達に会う』

『セフレを作る』

 美由は自分には向かないものばかりだなと落胆しつつも、自分が求める答えが無いかと画面をスクロールし続けた。

 その中で興味を引いた単語があった。

『女性向け風俗』


 ――風俗……お金を払えば人と身体を重ねることができるってことか。


 ――女性向けだから、私が利用しても変じゃないよね。

 

 マッチングアプリよりは怖くないはずだと思った。

 お金はかかるがそもそも無料タダで快楽を得ようというのが贅沢なのだ。

 しかし、美由にはまだ抵抗があった。

 知らない人間といきなり肌を重ねるということをしたことがない。

 調べた末にたどり着いた結論。

「女の子相手なら……怖くないかな」

 目に入った女性向け風俗店にメールを送った。

 次の日にはメールの返信が返って来ていた。

『ご指名の子はいますか? いつ頃が良いですか』  

 と言った内容だった。

 美由はすぐに返事を書いた。

『おまかせします。土曜日の午後三時を希望します』

 店から返事が来た。

『承知しました。後ほどお電話で連絡します』 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る