第23話 ホテルとラブホテルの違い

※タイトルはともかく、特にR15な描写ありません


 六月十四日、月曜日の夜。


「近場に旅行行くとして、どこがいいかな……」


 仕事を終えて家に帰った僕は調べ物をしていた。

 めぐみちゃんとの付き合いもだいぶ安定してきた。

 家でお泊りもいいけど、外泊もどうだろうかと考えているのだ。


「近場だと、舞鶴、鞍馬、嵐山、……色々あるなあ」


 大体、京都は盆地で市街地が狭い。

 ちょっと京都市を出れば田舎な所があちこちにある。

 それに、宿泊出来る観光地も珍しくない。


「しかし、旅館よりホテルだよなあ」


 旅館も風情はあって悪くないけど、こっちが気を遣う部分がある。

 特に、食事を女将さんが持ってきてくれる所はかえって大変だ。

 その点、観光用の普通のホテルなら気兼ねなく泊まれる。

 というわけで、ホテルを探していたのだけど―


「時々、紛れてラブホテルがヒットするのはなんでだろ」


 いかにもビジネスホテルです、という佇まいでもラブホはすぐわかる。

 何故なら宿泊プランにご休憩とかがあるからだ。

 まあ、その辺は無視してと思っていたら―


 ピロピローン。ピロピローン。

 恵ちゃんが来たらしい。

 オートロックは便利だけど、二回対応しないとなのが面倒くさい。


「はいはい、ただいま、ただいま」


 駆けつけて、オートロックを解除。

 そろそろ、合鍵でも渡そうかなと思えてくる。


「こんばんは、裕二君。お邪魔します」

「どうぞ、どうぞ。遠慮なく」


 こんなやり取りも慣れたものだ。


「で、恵ちゃんはなんでこんな体勢?」


 というのは、彼女は今僕の膝の上。

 思わず抱きしめてしまいかねない状態だ。


「ちょっと今日は甘えたい気分なんです。駄目、ですか?」


 うう。そう言われて断れるわけがない。

 可愛い彼女の頼みなんだし。


「いや、全然オッケー」


 言いつつ、後ろからぎゅうっと抱きしめる。


「なんだかほっとします」


 嬉しそうな声色だ。


「それで、ホテルを検索してたみたいですけど……?」

「ああ、それね。君とその。お泊り出来ないかなと」


 少し気恥ずかしいけど言って悪いことじゃないだろう。


「裕二君のエッチ」


 なんで罵倒?


「べ、別にエッチな事はしなくても大丈夫だよ」

「じゃあ、したくないんですか?」


 こっちも不機嫌そうな声だ。


「恵ちゃんとしてはどっちなの?」

「言われるのは恥ずかしいですけど……」


 おっけーです、と小さくつぶやく声。


「まあ、そういうことするかは置いといて」

「置いとかないで欲しいんですけど」

「恵ちゃんとしては行きたいところある?近場で」


 考えてみれば、彼女がどのくらい旅行に行ってるかも知らない。


「あ、近場というか、市内なんですけど、これ、面白そうです!」


 指差す先にあったのは……え。

 なんか、一見リゾートホテルぽいけど、これは間違いなく。


「リゾートホテルって一度行ってみたかったんですよ!」

「あ、ああ。そういうのもいいかもね」


 僕としては、彼女の無邪気さに呆れるばかり。


「ダーツとか、ゲームも遊べますよ。ほらほら!」


 ああ、うん。確かに、遊べるね。


「でも、なんで教室があるんでしょうか」


 それはきっと、プレイに使うためだと思う。


「一泊一万円なら、私も出せますし。行ってみません?」

「あ、ええと。その」


 リゾートホテルと思い込んでいる恵ちゃん。

 果てさて、どうしたものか。


「あ、裕二君が気に入らないなら大丈夫ですよ!」


 僕の反応をどう読んだのか。

 慌てて弁解されるけど、そうじゃないんだ。そうじゃない。


「凄い言いづらいんだけど、このホテルがどういうホテルかわかる?」

「ビジネスホテルよりランクが上のホテルじゃないですか?」


 曇りなき眼でそんな事を言わないで!


「えーとさ。恵ちゃんはラブホテルという存在は知ってる?」


 頼むからこっちは知っていてくれよ。


「それはさすがにわかりますよー。え、えっちな事するホテルですよね!」


 良かった、通じた。


「あのね。そのバリ風リゾートホテル。ラブホなんだよ」

「え?」


 瞬間、空気が凍りついた気がした。

 

「冗談、ですよね?」


 振り向いて恵ちゃんは顔がこわばっていた。


「いや、ほんとのほんと。ここ見て。「ご休憩」ってプランあるでしょ」

「え?それって、単にデイユースみたいなものじゃないんですか?」


 まさかそう思っているとは。


「さすがに2時間だけOKな普通のホテルはないと思う。それによく見て?」

「う。確かに、ダブルベッドしかないとか、なんかいかにもな気がしてきました」

「でしょ。というわけで、ここはラブホテルなんだ」


 なんで、彼女にこんなことを説明しているんだろう。

 と思ったら、恵ちゃんは顔を両手で覆ったかと思うと


「ああ。前も友達に、似たようなホテル「いいよね」って言っちゃったんですけど」


 言いながら、顔を真っ赤にしている。


「友達の反応は?」

「気まずそうに、「いいよね、うん」とだけ」

「それは友達も困るだろうね」


 それは反応に困るだろう。


「でも、恵ちゃんがそこまでピュアだったとは、お兄さん驚きだよ」

「間違えただけじゃないですか!裕二君だって最近まで経験無かったのに!」

「経験なくてもこれはラブホだって気づくよ」


 雰囲気がリゾートホテルぽくないし寝室の設備が異様に充実してるし。

  

「私、経験はなくても色々知ってるつもりだったんですけど」

「諦めよう?仕方ないよ。これから知っていけばいいから」

「裕二君にそれ言われるのが嫌なんですけど!」


 そう言われても。


「まあとにかく。このホテルはなしとして」

「行きましょう。ラブホテル」


 え?何を言い出すのこの子は。


「なんかこのまま無知でいるのが我慢出来なくなってきました」

「僕はいいんだけど。平気?」

「それこそ、裕二君とは経験あるし、大丈夫です」

「じゃあ、今週末行こっか。僕も恥ずかしいけど」


 だって、家でするときは、徐々に雰囲気を盛り上げていけばいい。

 でもラブホでするという事は、エッチが前提なわけで。


「と、とにかく、よろしくお願いします」

「途中で倒れたりしないようにね?」

「そんなベタなことしませんよ」


 というわけで、わけがわからない内にラブホでお泊りが決定してしまった。

 元々普通のお泊り想定だったんだけど……まあいいか。

 これも恋愛の楽しみという奴だろうか?

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