そのまま先程の順番で、ハートの9、ダイヤの8、クラブの9、スペードの6、クラブの10が出される。


そうしてしばらく流れに沿って、手持ちのカードを出していた彼らだったが…

やがてカイネルは、奇妙なことに気がついた。

その疑問を、言葉に変えて皆に訊ねる。


「…おい、ハートの6を止めてるのは誰だ?」


カイネルは探るように皆の顔を見回したが、皆、返事もせず、すました表情をしている。

トランプのみならず、全てのゲームにおいて欠かせない、ポーカーフェイスというやつだ。


しかし、この皆の反応を見て、カイネルはとある確信を強めていた。


(…【七並べ】を、知識としてしか知らないサリアは、いきなり6を止めてくるなんて高度な技は使わないだろう…

とすれば、止めてるのはシンか、フェンネル…、あるいはカミュ様か?)


…とにかく、誰が止めているのかはまだ特定できない。

カイネルは慎重にいくことにした。


一方のシンも、実は6を止められているだけに弱っていた。

自分の持っているカードの中に、ハートの6がその場に出ない限り、出せないカードがあるのだ。

起死回生の手段として、ジョーカーがあれば良いのだが、あいにくジョーカーは手元にはない。

とりあえず、そこには拘らず、ある所からカードを出すようにして、皆の反応を窺うことにした。


…そんな、キツネとタヌキの化かし合いのような、精神的には果てがなさそうに見えたこのゲームにも、そろそろ終盤が近づこうとしていた。


ここで、まだ出ていないカードは、

ハートの1・2・3・4・5・6、クラブの1、ダイヤの13のみだ。

しかし、追い詰められてきて、さすがに業を煮やしたのか…

カイネルが苛々と足を動かしながらも、再び皆に訊ねた。


「ハートの6を持っている奴…、もういい加減に出せよ」

「…カイネル、苛立つのは分かるが、それを言ってしまったら、勝負にはならないだろう…」


呟きながら、カミュがあっさりとダイヤの13を出す。

これで、スペードとダイヤのカードは、全て出揃った。


こうなると、頼みの綱はジョーカーだ。

あれをいつまでも持っていれば、それだけでも負けてしまうので、もしも持っている者がこれ以降の順番なら、今をおいて使う時は他にはないだろう…

などとカイネルが考えていると、フェンネルがぱさりとジョーカーを置いた。


…さすがに、カイネルの頭に血がのぼる。


「フェンネル…、お前、ジョーカー持ってるんだったら、もっと早く…」

「馬鹿を言うな。…敵を貶めてこそゲームだろうが。それに、俺が持っていたからといって、何故それをお前のために使わなければならない?」

「!う…」


すらすらと切り返された正論に、カイネルが言葉に詰まると、フェンネルはテーブルに突っ伏していたままのカイネルの体を引き剥がした。


「な…!」


ぎょっとしつつも、何をするんだと噛みつきかけたカイネルに、フェンネルは先手を打って、びしりと言い聞かせた。


「意味もなく図体のでかいのがテーブルに張り付いていると、だらしなく見える上、ゲームもやりにくくて仕方ない。

少しは自重しろ」

「…この野郎…、さっきから黙って聞いてりゃ、随分と言いたい放題…」


額にぴしりと血管が浮いたカイネルが、カードを持っていない方の手で、パリパリと雷を弄んだ瞬間、


「よせ、カイネル」


カミュの制止がかかり、カイネルは不承不承、雷を消し去った。


「フェンネルもだ…、あまり煽るな」


同時にカミュは、フェンネルをも窘めた。それに応えるため、フェンネルは、カミュに向かって軽く頭を下げる。

その様子を端から見ていたカイネルは、はたと気付くと、どこか不機嫌そうに言い放った。


「…パス」


カイネルがパスしたことで、次はシンの番となったが、シンはたまたまクラブの1を持っていたので、それを出して事なきを得た。

同時に、これでクラブも全て揃い、問題は例のハートの残ったカードだけとなった。


…次はサリアの番だ。


サリアはじっとカードを眺めていたが、溜め息混じりに呟いた。


「…パス」

「え?」


今回、声をあげたのはカイネルではなく、シンだった。

自分がハートの6を持っていないことは分かっている。

その上で、ジョーカーが出されており、カイネルとサリアはパスを宣告してきた…ということは…


(6を持っているのは…カミュ様か、フェンネルのどちらかか…!)


そこまで察したシンが、カミュに素早く目を走らせると…

カミュはいたずらっぽく笑った後、そっとハートの6をその場に置いた。


「えっ!?」


予想通りと言うべきか、カイネルが絶句する。

それを端からじろりと見たフェンネルは、口調も低く呟いた。


「お前…、先程、持っているなら何だと言っていた?」

「…う、あ、その…」


まさかカミュが持っているとは思うまい。

確かに可能性の一環ではあったが、カイネルはてっきりフェンネルが持っているものだと思っていたのだ。


…そのフェンネルが、ジョーカーを出すまでは。


すっかり言葉を失ったカイネルを後目に、フェンネルはただ一言、冷静に告げた。


「…パス」

『え!?』


…見事に声をハモらせたのは、シンとサリアの2人だった。


「…また、パス…? まさか、カイネルも!?」

「…あぁ…」


手酷くフェンネルにやりこめられたカイネルが、塩をかけられた青菜のようにげんなりとなる。

同時にシンも、はっきり諦めたように告げた。


「俺もパスだ…」

「あたしもよ!?」


サリアも思わず興奮して声をあげる。

自然、彼らの目が、示し合わせたようにカミュに向いた。

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