実は……2

「まず最初に、いつから私達はお付き合いをしていたのでしょうか?明確に想いを伝えあった記憶はないのですが」


私の質問に、課長は顎をさすりながら考える。


「えっと、いつから……。そうだな。一緒に住んでる内になんか夫婦みたいだな、と思い始めて、中条と一緒に居るのが楽しくて、そしたら好きになってて……。でも、確かに明確に想いを伝えあってはいなかったけど、俺はちゃんと意思表示をしていたぞ?」


「え?」


課長の言葉に、私はまた驚いた。


意志表示?そんな記憶、私にはないけど……。


「いつですか?」


「えっと…あれは確か……あっ、中条が火事の報告をしに実家に帰った時かな。あの時、お母さんが持たせてくれたご飯を食べながら今後の事も含めてお母さんに報告したい、って電話してもらったじゃないか。あとは何度もデートをしたし、それに手も繋いで、膝枕だって――」


「ちょ、ストップ、ストーップ!!」


次々出て来る話に付いて行けず、待ったをかけた。


「なんだ?」


課長が唇を尖らせ、不服そうな顔をしている。


「ちょっと待って下さい。あの時の電話って、そう言う意味だったんですか?私てっきり、料理のお礼を言いたいんだとばっかり……」


「違うよ。あの時の会話、よく思い出してみなさい」


「え……」


課長に言われて、薄っすらしか残っていないあの時の記憶を必死で呼び起こす。


(えっと確か、課長がお母さんが作った料理を食べながら……)


『俺もお母さんに挨拶した方がいいよな。今後の事もあるし……うん、美味い』


とかなんとか。


あと、私が「そんなのいいですよ……」みたいな事を言ったら、


『そうは行かないよ。結婚前の大事な娘さんと暮らしているんだ。男としても、上司としてもちゃんとしないと……うん、かぼちゃも美味いな』


とも言ってたような。


……え?これのどこら辺が意志表示?料理に対する意思表示はハッキリしているけど。


そう課長に尋ねると、「分からないのか」と悲しそうな顔をされた。


「いいかい?今後の事って言うのは、お付き合いしたその先の事だよ。あと、結婚前の大事な娘さんと暮らしてるってのも、結婚前に同棲させてもらってます、って事で……」


「いや、そんなの分かるかっ!」


課長のものすごく分かりにくい意思表示に、ついつい突っ込みを入れてしまった。


課長が驚いて私を見ている。


「あ……すみません。つい……」


「いや、いいよ……」


しばし沈黙。


「確かに……」


その沈黙を破って課長が話し始めた。


「確かに、今考えてみると分かりにくいよな。ごめん」


「いえ。私も上手に課長の意図を汲めなくてすみません」


「いや、俺の方こそ……」


「いえいえ、私の方が……」


漫画みたいにこのやり取りを数回繰り返したあと、なんだか可笑しくなって2人で笑った。


「あの…もう一つ、聞いても良いですか?」


「うん。なんだ?」


そうだ。私は一番重要な事を確認出来ていない。


「迫田課長は……」


「うん?愛実?愛実がなに?」


「課長は、迫田課長をどう思っていらっしゃるんですか?」


「え、どうって……?」


私の言っている事が分からない、と言う表情で首を捻る。


「この間、ルイちゃんの命日に課長、寝言で『メグミ』って言ってました」


「えっ。愛実の名前を……?」


私の言葉に少し考えて、ああ……と課長が笑った。


「もしかして、愛実が飼っていた『メグル』の事かな?ルイと仲良しの猫で、よく一緒に遊んでたから。あの日、夢に見ていた気がする」


「え、メグル……?」


確かに、聞き間違えてもおかしくない程よく似ている名前。

じゃあ、なに?私は『メグミ』と『メグル』を聞き間違っただけ?


「心配する事ないよ。俺と愛実がどうこう、なんてありえないから」


課長がハッキリと断言する。


「……なんでそう言い切れるんですか?」


男と女に「絶対」なんて言葉はない気がする。


「ん~……。愛実すまん」


課長が頬っぺたを掻きながらボソッと呟いた。


かと思ったら、


「アイツ、恋愛対象は女性だから」


と、課長の口から衝撃の事実が発せられた。


「……………………は?」


迫田課長の恋愛対象は、女性??迫田課長は女性で……女性が恋愛対象……。


「だから俺とどうこうなるなんてありえないんだ」


「……えええぇぇぇっ!!!?」


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