紗月母

「で?お母さんはなんて?」


「くれぐれもご迷惑だけはおかけしないように、と……」


「ハハハ、そうか」


千歳とのランチを泣く泣く諦め実家に戻った私は、着くなりお母さんに説教された。


お母さんは私と和矢が付き合っていた事は知っていたから、私は和矢の家にいるんだとばかり思っていた様で、


『どうせ一緒に住んでいるんなら結婚しちゃいなさい!!』


と開口一番怒られた。


それを聞いてまず、和矢と別れた事から説明しなきゃならないのか……と気が重くなったけど、言わなきゃどうにもならないので、今私が置かれている状況を掻い摘んで説明した。


そしたら、また怒られた。


和矢と別れた事に対して、と言うよりも、課長(上司)の家にお世話になってる、と言う事の方が気にかかった様で、


『お母さんも挨拶する!!』


と息まいて荷造りを進めるお母さんを一生懸命なだめてやっと帰って来た。


「俺もお母さんに挨拶した方がいいよな。今後の事もあるし……うん、美味い」


課長が、筑前煮を頬張りながらそう言った。


(今後……?ああ、アパートが決まるまでの事か……)


今日の夕飯は、お母さんが持たせてくれた筑前煮とカボチャの煮物と茹で卵入りのマカロニサラダ、そしてデザートのショコラババロア。

それらを課長が夢中で頬張っているのはなんとなく納得が行かないが、しょうがない。


お母さんは料理が上手。


娘の私が言うのもちょっと恥ずかしいけど、お母さんの料理が世界で一番美味しいと思っている。


「え、挨拶なんて、いいですよそんなの……」


課長なんかに会わせたら、何を言い出すか。絶対に余計な事を言うに決まってる。


「そうは行かないよ。結婚前の大事な娘さんと暮らしているんだ。男としても、上司としてもちゃんとしないと……うん、かぼちゃも美味いな」


「えぇ~。深く考え過ぎですよ……」


「いや。それじゃ俺の気が済まない。それに、料理のお礼も言いたし」


「……分かりました。後で母に電話しますので、その時に代わって下さい」


「頼んだよ」


課長はご飯を食べ終わり、食後のババロアに取り掛かり始めた。


「うん、これも美味い」


ニコニコしながら食べている課長を見て、小さくため息が漏れた。


気が重い……。絶対に余計な事を言うに決まってる。娘の私が保証する


(課長に代わる前に、クギを刺しといた方がいいな)


しかし、その願いも虚しく、やっぱり余計な事を言ったお母さんは、終始電話口で課長を困らせていた。

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