2021/06/20

盲目の宝箱

「ぱちっ」と「かちっ」の間の子のような音が響いて、今また、箱に宝物が入れられた。

 私はその宝物を、見ることができない。

 宝物を封じ込めることはできても、確認することは叶わない。そんな、もどかしいけれど大切な箱を、そっと片手で握りしめた。手のひらサイズの、ちいさなハコを。


 ――中身よりも、ハコの方が、愛おしい。


 中身が分からないから、私は中身に想いを馳せる。

 うまく閉じ込めることができただろうか。

 思った通りに切り取ることができただろうか。

 撮っておきたいと思った瞬間、もう二度と私の前には現れない"いま"を、凍らせてずっと手元に置いておくための魔法。

 それは、うまくいったのだろうか。


 もしも写真を魔法と呼ぶなら。

 カメラは魔法の呪文かもしれない。

 ものや環境で音は違うけれど、シャッター音が鳴り響けば、手の中に"いま"を繋ぎ止められる。


 けれどこのハコは――インスタントカメラは。

 現像しなければ中身が分からない。

 撮ってすぐ確認することはできない。

 そして、中身を知ることは、インスタントカメラとの別れを意味する。現像に出せば、もう二度と帰ってこない。


 だから、このハコは愛おしい。


 さあ、盲目の宝箱を片手に。

 次は、なにを切り取ろうか?

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