2021/05/04

目薬

 よく、判断を間違える。


 目がかゆいとき。こすってしまったせいでぼやけてよく見えない視界で目薬を探し、見つけ出したそれを使ったら、自分が処方されているものではなくて、目が真っ赤に充血してしまったことがある。痛かったし、親に怒られてしまった。


 友達と仲良くなりたいとき。相手に同化して距離を縮めようと思い、口調を少し真似てみた。ちょっと甘えた感じで、言葉を伸ばして話す子だったから、その日、その子に「おはよ~う!」と甘えた感じで声をかけたら、無言で逃げられてしまった。


 数年前の母の日。「ちょっとコンビニに行ってるからお風呂入っててね」と親が出かけている間に、親を驚かせようと、リビングを飾り付けた。数日前から作って準備しておいた輪飾りに、「いつもありがとう」の横断幕、そしてたくさんの折り紙で作ったお花たち。喜んでくれるかな。帰ってきた母親にこっそり用意しておいたプレゼントを渡そうとしたら、大激怒された。


 今だってそうだ。ここ最近会えていなかった祖父母が、たまたま近くに来たからと家に寄ってくれた。けれど今は病気も流行っているし、特に祖母は感染を気にしている。自分は行動範囲が広いから、無自覚のうちに病気を拾って移していたら申し訳ない。祖母も表面上は笑顔でも、裏では嫌がるだろうな。そう思って、会わなかった。けれど、応対した母親は「冷たい孫だね」と言い放った。


 ねえ、どうしたらいいんだろう。

 相手のことを考えたはずなのに、全部が全部、裏目に出てしまう。

 かゆみを抑えようと使った目薬で、逆に悪化させてしまうみたいに。

 自分なんて、いない方がよかったかな。

 喜ばせようとして相手を不幸にする人間なんか、いらないかな?

 ――あれ、おかしいな。

 目にゴミでも入ったみたいだ。

 涙が止まってくれないや。

 目薬は、どこかな。


 ぼやけた視界で、目薬を探す。

 時間はかかったけどどうにか見つけ出したそれを、ぽたり、目に落とす。

 じわり、染み込む痛さに、ようやく気づく。

 ああ、また間違えて他の人の目薬を使っちゃったな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る