第十一話

               第十一話  確かな食事

 阪神タイガースは秋からキャンプに入った、異例のこととしてマスコミもインターネットも大騒ぎだったが拙者は阪神日本一の為に必要と考えそれを行った。

 日向に入り皆初日から練習で汗をかいた、その練習量は何でも練習の虫とさえ言われた故村山実氏も驚かれるとのことだった。

 その村山殿、英霊となって尚阪神を見守っておられるこの方ご自身が拙者に言われた。

「わしもここまでの練習はしたことがない」

「そうでござるか」

「朝早くから起きてずっと激しい練習してるな」

 このことを言われた。

「もうカネさんもびっくりな位や」

「カネさん、金田正一殿でござるな」

「そや、これは凄い練習や」

「拙者達は皆忍の者か侍でござるので」

 十勇士達は忍であるが拙者が武士にした、そもそも忍の者と武士の違いは拙者にしては曖昧だと思う。真田家自体が忍の血が濃いと言われることもあるが拙者自身否定出来ないものがある。

 前世とはいえ鍛錬の記憶が残っている、そして身体もその頃の頑健さと俊敏さそれに体力が残っている様だ。しかもそこに現代世界の栄養が加わり拙者達は身体能力だけでなく体格も備わっている。前世では今の丈で一六〇程だった拙者も今では一八〇を越えていてしかもがっしりではなくすらりとした鞭の様な身体になっている。

 そうしたことも踏まえつつだ、拙者は村山殿にお答えした。

「ですから」

「身体がもつんやな」

「坂本殿や板垣殿も」

「そういえばあの人達も幕末やったな」

「幕末の稽古も相当なものでした」

 それこそ朝から晩まで毎日であった、坂本殿は江戸の道場で北辰一刀流免許皆伝となっている。武市殿に岡田殿も相当な鍛錬を積まれている。

「そうでござるので」

「これだけの練習を毎日してもか」

「体力は持ち申す、そして体力はさらにつき」 

 猛練習は体力錬成も考えてだ、やはり長きに渡って戦える体力なくしてペナントを制覇することは出来ない。特に阪神の場合はそうだ。

 我が阪神には地獄のロードが存在している、夏の高校野球がはじまると本拠地である阪神甲子園球場は使えなくなる。だから遠征が続き次第に疲労が蓄積していく。所謂地獄のロードであり阪神は毎年ここから調子を落とし敗北は続いていく。その為優勝出来ないことが多いのだ。阪神限定のハンディキャップである。

 拙者は夏も考えている、ただ序盤に勝利を収めていくだけでは駄目だ、最後の最後に笑っていなければ意味がない。福岡ソフトバンクホークスもかつては毎年序盤は調子が悪く後半に本領を発揮していた。今は最初からチーム全体が西郷殿と大久保殿を軸にリーグ一の戦力をあれだけの強豪達を相手に誇示しているが。

 だからこそ拙者はキャンプをあえて長くし猛練習で野球の技量を磨くだけでなく体力錬成も考えているのだ。

 文字通り月月火水木金金である、かつての大日本帝国海軍の様に。しかし勿論休養日も入れている。そして何よりも。

 疲労回復に睡眠は多く摂ってもらう様にしているしトレーナーの方も多く来てもらい入浴も整えた。練習の前と後には準備体操と整理体操も徹底させている。

 疲労と怪我、この二つはとりわけ注意している。村山殿にはこの時もお話した。すると。

 村山殿は拙者にこうも言われた。

「それで食うもんもやな」

「はい、気をつけています」

「そやな」

「肉と野菜、魚、果物と」

「何かと考えてやな」

「献立を決めてもらっています」

 料理人の方にだ、ただ食事の量はかなり多い。それこそ朝から力士の様に食事を出し残すということない様にしている。

 基本好き嫌いも許していない、偏食もまた野球にとって敵と考えているからだ。それで味の方もよくしてもらっているが。

 予算はかかる、だが食費のそれなぞたかが知れている。だから拙者もそれは承知のうえでフロントの方に話して多くの予算を出してもらった。とはいっても拙者もフロントのそれもゼネラルマネージャーの立場にあるのでそこは通った。

 そしてそのうえでだった、今も。 

 選手達には鍋を出していた、ちゃんこの様に多くの野菜や茸を入れた鶏肉の鍋だ。豆腐も多く入れてある。

 拙者も今それを食している、そうしつつ村山殿にお話させてもらった。

「日々激しい運動が続くでござるので」

「食事は三食常に多くか」

「左様でござる、拙者もこうして食し」

 ナインと同じ鍋をつついている、そしてご飯も食べている。今は白米であるが麦飯や十六穀飯の余栄もある。デザートも用意しているがそちらはネーブルだ。豆乳や牛乳、野菜ジュースも飲んでもらっている。無論拙者もそうしたものを飲んでいる。

「明日も励むでござる」

「全ては優勝の為やな」

「日本一の為にでござる」

「わかった、わしは日本一は経験出来んかった」

 村山殿は昭和三十七年と三十九年にリーグ優勝を達成された、しかしそれでも日本一にはなれなかった。阪神タイガースが日本一になったのはニリーグ制になってから昭和六十年だけだ。もう遠い昔のことになっている。

 だが拙者は今年こそ阪神を日本一にすると誓っている、その為にだ。

 食事も考えている、それで今は鳥鍋を食べつつ村山殿のお話を聞いていた。

「しかし自分やったらやれる」

「日本一を」

「この意気やとな、ほな頼むで」

「そう言って頂き感無量です」

「ああ、それでやが」 

 村山殿も鳥鍋を食されている、実体はもうないがそれでも食することが出来るのは深く考えてはいけないことであろう。

 だがそれでも拙者はよかった、共に同じ鍋のものを食すれば絆は深められる。だから拙者は満足だった。

 それでだ、拙者は村山殿だけでなくだ。

 十勇士達と共に鍋を食しこの者達にも話した。

「お主達も常にな」

「はい、たらふく食うのですな」

「栄養を考えて」

「そうしてですな」

「そうじゃ、朝昼晩とな」

 三食しっかりだ、二食とは決して言わぬ。もう戦国の頃には三食だったので拙者も三食が普通と考えている。

 それ故に十勇士達にも告げた。

「しかと食せよ、お主達が野手となるのであるからな」

「ですな、ではです」

「日々確かに食し練習に励みます」

「そして身体も労わります」

「そうせよ、このキャンプはシーズンのはじまりである」

 もうシーズンははじまっている、まだ秋だが拙者は既にペナントそしてシリーズのことを考えている。その為だ。

 拙者は食事にも気を使った、栄養バランスのよいものをたらふく食し飲む、それを徹底させた。だがそれだけではなかった。



第十一話   完



                2021・5・29

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る