第八話

                第八話  入団会見

 拙者だけでなく十勇士や後藤殿達の入団そして拙者が阪神の監督にも就任するということは甲子園での十勇士達との再会と監督就任受諾のその瞬間からスポーツ新聞各紙それにインターネットでも話題になった。あの巨人の系列のスポーツ新聞までもがだった。

 拙者の監督就任を一面で伝えた、坂本殿はその記事を見て寮ではじめての夜を過ごして起きたばかりの拙者に言われた。とはいっても拙者は元より早起きだ。四時半に起き十勇士達とランニングに出てサーキットトレーニングとストレッチを行い風呂で身体を清めかつ疲れを癒してきた。そして朝食に向かおうという時にロビーで坂本殿に言われた。

「昨日のことが巨人の新聞でもぜよ」

「一面でござるか」

「そうぜよ、勿論他の新聞も同じぜよ」 

 見れば普通の新聞でもだった、流石にトップではないがどの新聞も一面スポーツのページでは大きく載っていた。

 テレビでも番組の欄に拙者のことが書いてある、何でも入団と共の選手兼任での監督就任は拙者もとだというのだ。

「おまんはヤクルトの徳川殿、横浜の北条殿、楽天の伊達殿、西武の武田殿、日本ハムの上杉殿とのう」

「そして中日の織田殿と並んでですか」

「入団と同時に選手兼任の監督になったぜよ」

 だからだというのだ。

「あの時も連日一面で報道されちょったが」


「拙者もでござるか」

「そうぜよ、おまんはその人達と同格っちゅうことぜよ」

「拙者があの方々と同じとは」

 言葉もなかった、織田殿や大御所だけではない。上杉殿も伊達殿、北条殿も小さな真田家の者にとっては雲の上の大身である。石高だけでなくその家の格それに位なぞ真田家とは比べものにならない。特に西武のお館様、武田様は真田家のかつての主君。父上が四郎様を上田でお守りしようと誓った程だ。そのお館様と拙者が同格とは。

 恐れ多い、分不相応と言うしかない。それで拙者は言葉を失ったが坂本殿はその拙者の右肩、サウスポーである拙者の左肩は決して触れないがその右肩を優しく叩かれてそのうえで言われた。

「おまんは戦国の最後の最後で物凄いことをした、そして戦国の幕を下ろしたぜよ」

「だからでござるか」

「後世のモンは皆おまんをそのお歴々に負けんと思っちょる」

 それ故にというのだ。

「その人達と同じだけの騒ぎぜよ」

「そうでござるか」

「そしておまんは村山さんから背番号を受け継いだ」 

 その十一番をというのだ。

「話題にならん方が不思議ぜよ」

「では」

「その話題正面から受け止めるぜよ」

 坂本殿は拙者に笑った言われた、その歯はいつも通り象牙の様に白く輝いている。尚拙者の箸は赤の木のものだ、赤備えはそのままだ。象牙の箸は使わない。それは韓非子にある殷の紂王の逸話にある様に忌むべきものである。

「そうするぜよ」

「そうしてでござるか」

「入団会見に赴くぜよ」

 こう言われて拙者達、ドラフトと育成で入団した大坂の陣で共に戦った面々を入団会見に連れて行ってくれた。

 その時拙者達は高々と飾られた阪神タイガースの旗を見た、すると自然と心に熱いものが宿った。

 才蔵、十勇士の中で最も冷静な男面長で長身、涼し気な整った顔立ちのこの男が言ってきた。才蔵には三番センターを考えている。

「こうして阪神の旗を目にしますと」

「うむ、心から闘志が沸き起こってくるな」

 拙者は才蔵に応えた。

「そうなってくるな」

「はい、氷いえ霧の様に冷たいと言われている拙者ですが」

 ここで才蔵は冗談も言ってきた、確かに冷静であるが時として冗談を言う明るさも備えている。十勇士の者達は皆陽気で愛嬌がある。その明るさに拙者もどれだけ助けられたか。

「今は火の様にです」

「心が燃え上がっておるな」

「そうなっております」

 こう拙者に述べた。

「まさに」

「そうであるな」

「殿、十月には皆でこの旗を日本一の旗にしましょうぞ」

 穴山小助も言ってきた、きりっとした伊達男で背は一七二程とやや小柄だ。俊足に堅守しかも巧打を誇っているので二番セカンドを考えている。

「他のチームに勝ち」

「そのうえでな」

「そうしましょうぞ」

「わしもそのつもりだ」

「その意気ぜよ、なら今から入団会見を行うからのう」

 坂本殿は阪神の旗を見て誓い合う拙者達に顔を向けて笑顔で言ってきた。

「十六人全員で出るぜよ」

「入団会見にしても多いでござるな」

「多いだけはあるぜよ、それと新監督の就任会見でもあるきに」

 拙者のそれでもあるというのだ。

「いいのう」

「拙者はですな」

「新監督としての抱負を言って欲しいぜよ」

「もうそれは考えているでござる」

 阪神を日本一にする、拙者達全員の力を一つにし並みいる強豪達を倒し。もうそのことは決まっていた。

「それを言わせてもらうでござる」

「頼むぜよ」

「それでは」

 拙者は坂本殿に応えた、そうしてだった。

 拙者と共にドラフトで入団した後藤殿達に十勇士達を坂本殿と共にマスコミのお歴々に背番号と共に紹介させて頂いた。当然拙者達は既に阪神タイガースのユニフォーム今シーズンよりホームのユニフォームで復活したあの白地に黒の縦縞のあまりにも美しくかつ勇壮なユニフォームを着ていた。そして。

 拙者は村山殿から直接頂いた背番号十一を披露させて頂いた、その時の万雷の拍手を拙者は一生忘れないだろうと思った。何でもニコニコ動画ではこの時書き込みが殺到しユーチューブでも感動したら素晴らしいや泣いたというコメントが多くあったという。

 ファンの方々のその書き込みやコメント、拙者の心に響いた。その為拙者は心に誓った。

 必ず阪神を優勝、日本一にさせると。どれだけの強敵が阪神の前に立ちはだかろうと拙者達は勝つ、そのことを誓った。それで拙者は坂本殿にお話した。

「強くなる為にはまずは練習でござる」

「そうぜよ、一に練習二に練習ぜよ」

 坂本殿も笑顔で頷いて下された、坂本殿は拙者に監督それにゼネラルマネージャーの職務を任せて頂きご自身は編成部長をそのままにヘッドコーチに就任された。作戦参謀即ち拙者の軍師も務めて下さるのだ。

「その練習は合理的で的確でのう」

「確かな効果のある練習で」

「怪我をせん練習ぜよ」

 まさにそうした練習が必要だというのだ。

「身体を痛める様な練習は百害あって一利なしぜよ」

「全くでござるな」

「これからそのことも考えていくぜよ」

 そう言われてだった、拙者と坂本殿は練習の話もした。入団会見が終わると拙者は早速阪神日本一の為に動きだした。



第八話   完



                2021・5・5

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