第9話 難関! はじめての実習(病院編) その1

 地域実習が終わり。


 半月ほどして、今度は病院に実習に行く事になった。


 場所は先輩達も実習している市民病院。

 実はくりかんの目と鼻の先にある。徒歩5分。とっても近い!


 まあ、栗白山看護専門学校って、元々市の施設が集まっているところにあるわけで。駅にも近く、商店街もあり、すぐそばに他にも市立図書館や市役所もあって、なかなか便利な場所にある。


「全部の実習が市民病院って訳じゃないから、遠いとこもあるけどね。でも、近いと楽だよね。実習の日は朝早いし、終わった後も調べたいことあるし」

 って先輩から情報をもらった。


 実習開始時間は、いつもより30分くらい早い。

 でも、とりあえず学校につけばギリギリ大丈夫な授業と違って、病院に到着して白衣に着替えて集合場所に移動する必要があるので、実際は一時間くらい早く動かなくちゃいけない。


 そこにさらに追加の移動時間が必要となると、……いったい何時に起きたらいいんだろう?


 近くて助かった!




 さて。


 とりあえず早起きの心配ばかりしていた夢歌さん。

 先輩からもうひとつアドバイスをもらった。


「前日は早く寝るのよ。当日居眠りなんてしないようにね」



 そうは言われても、初めて病院に行って、実際の看護師さんや患者さんに会うって考えたら、ドキドキして眠れない!


 結局、いくぶん寝不足ぎみで。遅刻はせずに余裕も持って登校できたけど。


 朝、病院の通用口に集合して、先生と一緒に更衣室に移動して。指定のロッカーに荷物をいれて白衣に着替えて。


「これから全体オリエンテーションの会場に移動します。患者さんやスタッフの方とすれ違ったら、キチンと挨拶をしてね」


 と言われて、先生について行ったのは、階段。


 ちょっと待って! 会場って6階だよね?!

 しかも、更衣室って地下1階!


 すたすたと階段を上がっていく先生について、せっせと階段を上って行く夢歌さん達。


「休み休みいくと、余計に疲れるわよ」


 さすがに少し息が上がっている先生だけど、まだ若い夢歌さん達よりも平気そうな顔。


 な、なんで!? 先生って、うちのお母さんと同じくらいの年だよね?


 ゼイゼイ荒い呼吸をしながら6階に到着し、そんな疑問というか、称賛の眼差しを受けて、先生は微笑む。


「慣れればペース掴めるわよ。実習病棟はみんな4階より上にあるからね」


 ……すごく恐ろしい話を聞いた。


 実習の度に4階(実質5階)へ階段を昇らなきゃいけないの?

 エレベーター使っちゃダメ?


 息が上がりすぎて、そんな質問も口にできないまま、会場の大ホールに案内された。


 机と椅子が並べられた会議室みたいにレイアウトされているホールの前方にはスクリーンが降りていて、どうやらスライドとか見ながら説明してくれるみたい。


 スケジュール表によると、1日目は、最初に一時間くらい病院の概要や看護師さんの部署の話で、その後に災害時の対応の話が15分くらい。

 休憩挟んで、学生だけではやたら入れない管理部や病理室、霊安室、解剖室を案内してもらって、グループに分かれて病棟に行く予定。ここでもオリエンテーションや案内がある。


 午後は地下1階から3階までの自分達で地図を見て探索をしながら、薬局や検査部門や地域部門、アメニティ部門を見学に行く。と言っても中には入れないの。場所の確認だけ。

 ただ1ヶ所だけ見学を許可されていて。

 それもグループごとに違う場所で、見学に入れない他グループにキチンとレポートしてくるように使命を与えられている。


 夢歌さんのグループは、透析室を見学することになっている。


 そのあと病棟にまた戻って、翌日担当させていただく患者さんに挨拶をして、ちょっとお話をしつつ病室の様子を観察して。


 2日目は、朝からずっと病棟にいて、受け持ち患者さんとお話したり、ベッド回りを整えたり(環境整備っていう)、シーツ交換をさせていただく。


(このために、ベッドメイキングのチェックをしたり、清掃の手順に沿って練習してきた。上から下へ、奥から外へ、とか消毒クロスの使い方、とか)

 

 合間で、生活環境全般も観察して、記録用紙に記入する。温度とか湿度とか照度とか騒音とか、あと実際の病棟の設備の長さ高さとか。このために様々な測定機械もグループに貸し出されている。

(照度計とか騒音計とか初めて見た)


 たった2日間に、目一杯な予定。

 


 その最初のオリエンテーションが……長い。


 病院の理念から始まり、設置目的、人員配置、関連施設、救急体制、等々。

 最初は一生懸命聞いていたんだけど、法律とか制度とかの難しい話になってきて、ちょっと眠くなってきた夢歌さん。寝不足と朝イチの階段昇りの疲労も相まって、かなりヤバイ!


 先輩が「居眠りしないように」なんて忠告した理由もわかった、けど。


 ヤバイ、本気でマズイ!


 睡魔の強襲に危機的状況を迎え、必死でゲームの目覚めの呪文を唱える夢歌さん。


 その祈りが通じたのか、病院の説明は終了し。


 看護部門のお話は、実習に行く部署の看護師さんやスタッフさんのスナップがあって、楽しかった。


 何とか睡魔も立ち去ってくれて。


 でも、このあと、災害時の対応の話、って。さっきの病院の説明でも、消防とか備蓄とかの話、出てたよね? また同じような話だったら……また眠くなっちゃうよー。


 でも、そんな夢歌さんの心配に反して、実際の避難訓練を様子をドキュメンタリー式の動画にしてあって。

 今まで経験してきた学校の避難訓練とは違い、患者さんが安全に避難出来るように、色んな機材も使いながら、かなり臨場感に溢れていて。


 それに、時々写り混む、見覚えのある白衣。


 先輩達も映ってる……もしかして、私達も参加するの?


 訓練とはいえドキドキだよ。



 そんな訳で、無事睡魔との戦いに勝利した夢歌さん。


 病院実習クエスト序盤クリア!

 ……って、実質何もしていない!


(このオリエンテーションの内容をキチンと記録用紙に記入しなくてはいけないので、実際のクエストは終わっていないのだった。というか、これが難関かも) 

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