タイムスリップ 高校生へ

   高校生へ


 私はまた時間の海を越えてやって来た場所は、高校の校舎の中だった。高校の校庭の通りにある桜は、花が咲いておらずその枝を生やしていて(ああそうか、桜の妖精さん、ちゃんと受験前、志望校を決める時にタイムスリップしてくれたんだな)という事が分かる。


 私は、高校生にタイムスリップして、一つのやる事を決めていた。


(春楓が合格する、慶生大を受験する!)


 そう、春楓と同じ大学に進学する為に、同じ大学を受験するのだ。一度大学受験を経験している私は、勉強のブランクがあるとはいえ、大学を卒業した身だ。高校生にタイムスリップしている間また勉強すれば、きっと受かるはずだと信じて。


 そんな中、高校の進路希望がなされていた。私は、春楓に確認する。


「春楓、志望校はどこなの?」


「さくらは、どこなんだい?」


「……慶生大――」


「そうか、俺も、慶生大」


 そう春楓が答えて、私は「えっ」と声を上げる。春楓は慶生大は第二志望で受かるんじゃなかったのか。


「春楓、第一志望は、明星大じゃないの?」


「――明星大は、第二志望だから……」


 そう春楓が答えて、私は春楓が私と同じ大学に行きたくて慶生大を第一志望にしたんじゃないかなと感じてちょっと嬉しくなった。でも、今は大学に受かる事を考えなくちゃ。


 さすがに明星大の受験は難しかったし、大学に行かない訳にはいかないので第二志望は弁天大にする。


 そして、二度目の高校生、私の猛勉強が始まる。




 大学入学共通テストの日がやってきた。いつもの八人が集まる中、私は少し不思議な感覚でいた。でも、まずは共通テストに受からなければ話にならない。二度目の受験に、少し余裕と緊張を同時に感じながら、私は試験に臨んだ。




「はい、今から大学入学共通テストを行います」


いよいよ試験の時。実年齢二十五歳の私だが、問題用紙に書かれている内容は頭に入っていて、解答をどんどん書いていく。


(思ったより、ずいぶん覚えているものね)


 私は大学入学共通テスト一日目を終え、二日目も前の人生の様に無事に終える事ができた。




「大学入学共通テスト、皆無事に通ったみたいね」


 桔梗が、皆が大学入学共通テストに通った事を報告する。私は新しい時間軸でも皆が大学入学共通テストに受かった事を喜んだ。――後は、慶生大の受験に受からなければならない……。




 慶生大の受験の日がやってきた。当日、私は春楓と合流して、慶生大の校舎前に居た。


「春楓、慶生大の受験、頑張りましょうね」


「ああ」


 私は春楓と共に励まし合い、今日の受験に臨もうとしていた。そこに、ある人物がやってきた。


(――楓……)


 楓も慶生大をやはり受験する。楓も春楓もきっと慶生大の受験に受かるだろう。私は自身の人生の、春楓への想いの勝負の時が来たと、自分に言い聞かせて受験に臨む。


 楓は、あれでいてなかなか優しい。憎めない所がある。楓を出し抜くんじゃなく、私自身の魅力で春楓を振り向かせるんだ。その為には、まずは同じ大学に受からなくては。




 慶生大、受験の時がきた。私は試験に臨み、解答用紙を開いた。


(……!――けっこう、難しいわ)


 私は慶生大の試験内容に四苦八苦する。一度目、二度目の人生でも初めて見るその試験に、私は手間取り、試験を何とか解答していく事だけで精一杯だ。


(でも、またの人生でもせっかく勉強したんだもの、頑張らなきゃね)


 そして、何とか慶生大の受験を終えた。




 慶生大の受験後、春楓、楓と話をする機会があった。


「さくら、どうだった?俺は、けっこう良かったかも」


 私は、春楓のその言葉にちょっと不安が込み上げる。


「私は、難しかったわ」


 素直にそう答えた。楓が「さくら、大丈夫?」と心配してくれる。楓の心配が、痛い。


「そうね、私は良かったかも」


 楓はそう言っていた。私の不安は、厚い雲に覆われる様に深く、沈んでいく。




 私の第二志望、弁天大学受験日がやってきた。牡丹と共に弁天大の受験に臨む。(一応、大学には受かっておかなくてはね)とその日はその日で頑張ることにした。




「それでは、試験を始めます。皆さん準備はよろしいですか?」


 弁天大の試験の時が来た。私は解答用紙を開いて、試験に臨んだ。


(これは、こう。……これは……こうね。――けっこう覚えているものね)


 二度目の弁天大の試験に、やや不安になっていたものの、いざ受けてみるとなかなかどうして解いていく事ができた。


 そうして、弁天大の試験を無事に終える事ができた。




 そして、大学の合格発表を待つ事になる。




 大学入試、合格発表日。私は慶生大の合格発表を見に行き、祈る様に合格発表の掲示板を見た。


(お願い、――受かってて!)


 私は私の受験番号を辿っていき、探す。そうして、私の受験番号は……


(――!?――ないわ……)


 自分が落ちた事に、意外にその時はショックを感じなかった。二度目の受験に、感覚が、麻痺していたのだろうか……。


 そこへ、春楓と楓がやってきた。二人が、何だか嬉しそうにしている。


「さくら、どうだった?受かってた?」


 春楓の問いに私は「落ちてたわ」とだけ答えた。


「――!?俺は、受かってた」


「私も、受かってたわ」


 二人の言葉に、私は(ああそうか、春楓と楓はまた慶生大に受かって、私は落ちたのか)と考える。そして、その想いが溢れると、どこか忘れて感じていなかった悲しみが溢れてきた。目に涙が込み上げてきた。私は「ヒッグ……ヒェッグ――エ~ン……」と泣いてしまった。


「――さくら……」


「さくら、大丈夫?」


 二人が、私を心配してくれて、でも私は泣いていた。二人の心配が、痛い。試験に落ちた事じゃないの。春楓と同じ大学に行けない事が悲しいの。


 その時の私の心は、ザーザー降りの雨の如く、荒んで黒ずんでいた。




 弁天大、合格発表日。慶生大の事も先にあり、落ち込んでいた私だが、弁天大の合格発表は見なければと弁天大学校舎にやってきた。掲示板に、私の番号を探す。


(私の番号は――)


 ――受かっていた。やはり、もう一度の人生でも弁天大に行くのかと安堵と不安の両方の気持ちが私を包む。


「さくら~、受かってたわ~!」


 牡丹が私に報告する。「私も、受かってたわ」と牡丹に告げた。




春風高校、卒業式。桜の妖精さん、キュリオネールに導かれ、小中高と卒業式に臨む私は、再びの高校の卒業式を受けながらも、春楓への想いを感じていた。でも、春楓とはまた同じ大学に行けない。それでも、時は移ろってゆくんだ。そんな思いの中、桜の蕾が開きそうな桃色の卒業式は進行していく。


 卒業式後、やはり私達八人は打ち上げをする事になっていた。複合型エンターテインメント施設セカンドワンに行き、様々な遊戯を楽しむ。


(卒業式後の打ち上げの休憩の食事タイムの時に、春楓にまた街の公園で会いたいって頼むのよね。この年は、五年置きに会う年じゃないから、しっかり頼まなきゃね)


 私はダメもとで、再び春楓に高校卒業後、街の公園で会いたいと告げる思いでいた。


 そして、昼食の休憩タイムの時。


「春楓」


「何、さくら?」


「五年置きに街の公園で会うっていうあの約束あるわよね。今年も、街の公園で四月五日に会えないかしら?」


 春楓は「うん」と答えて「分かった、今年の四月五日も街の公園で会おう。午後二時でいい?」と聞いてきた。私は「うん、それでいいわ」と告げる。


 セカンドワンでの時間が、過ぎていく。




 四月五日、私は午後二時までに街の公園に行く。春楓はまだ来ていない。私は春楓にダメもとで再び告白するつもりでいた。春楓は、なんて反応するだろう……。


 そして、春楓はやってきた。側に居たのは、やはり……。


(……楓――)


 春楓は楓を公園の隅に留め、街の公園の一番大きな桜の前のベンチ、私の元までやってきた。


「さくら、お待たせ」


「――春楓――」


 春楓は「なに?」という顔をして、私の前に立っていた。直球勝負、ここは、素直に告白する事にしてみる。


「春楓!私、春楓の事が好き!私と付き合ってください!」


 春楓は、なんだか嬉しそうにしていたが、その口から出た言葉は。


「さくら、凄く嬉しい、嬉しいよ。でも、その答えは、あの日から二十年後だって、決めているから……」


 私はその答えに、苦悶する。何と言っていいか、分からない。春楓への想いだけが、私の中で、交錯する。


 その後、三十分程二人が別々の大学に行く事や、高校での出来事などを話した。そして、春楓はその場を離れ言ってしまった。私は、満開の桜の中、公園で佇んでいた。




「さくらちゃん、さくらちゃん」


 目の前で、桜の妖精さん、キュリオネールが空を舞っていた。私に話しかけてきた。


「さくらちゃん、時間を巡る次の旅が来たから、また時空を飛ぶよ」


「桜の妖精さん……」


 ちょっと意気消沈している私は、桜の妖精さんに半泣きで聞いてみる。


「桜の妖精さん、私、本当に大丈夫かな?春楓に振り向いてもらえるかな?」


「大丈夫、さくらちゃんなら、必ず春楓君に振り向いてもらえるよ!」


 桜の妖精さんにそう言ってもらえると、なんだが元気が出て、勇気が湧いてくる。


「そうね――」


と私は、(次は大学生の時ね)と時間旅行に向かう決意をする。


「桜の妖精さん、次は、私が二十歳、大学生の時。でも次も、桜の時期じゃなく、私の成人式の時に行ってくれるかしら?」


 桜の妖精さんは、「うん、分かった。やってみる」と快諾して、例の魔法を唱える。


「ラジカル、ラルカル、ラリルルルルルルル!さくらちゃんが大学生の時に、レッツゴー!」


 その魔法で、私はへその辺りがギュンとなって、時間旅行に旅立っていく。時間の海が、私に押し寄せて、私は時空を超えていく。

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