第47話 決死行

 「第四特別遊撃小隊、行くぞ!」


 ボルドはそう言いながら、城壁沿いに向かって塹壕から飛び出した。背後には副官のタダイが続く。タダイの後ろには志願兵の二人。続いてハンナとマーク、最後尾には重装歩兵のジェロムが続いていた。


 ボルドたちの左手にある城壁側には、イェンスが率いる重装歩兵八名が、ボルドたちを城壁からの攻撃から守るべく並走している。


 城壁沿いに辿り着くと、そこは目を背けたくなるほどの酷い惨状だった。

 城壁沿いの大地では、ガジール帝国将兵が死屍累々の様相を呈している。


 そのような状況下ながらも城壁沿いに左右から雪崩れ込む合計一千の突撃部隊。それをイスダリア教国側が見過ごすはずもなく、城門上から小銃と短距離魔法による熾烈極まる攻撃が始まった。


 第四特別遊撃小隊を守る格好で並走していたイェンスが率いる重装歩兵も既に、短距離魔法の直撃を受けて早くも一名が脱落していた。


 分厚く重い甲冑を着込み、同じく分厚く重い大盾を装備している重装歩兵は、どうしても足が遅くなる。その速度に合わせて守られるボルドたちも移動せざるを得ない。小銃は重装歩兵の分厚い鎧や大盾が跳ね返してくれるにしても、短距離魔法は防ぎようがなかった。しかも移動速度が遅い分、格好の的になるといってよかった。


 やはり単に突撃するだけでは、先に突撃を敢行して苦戦している先発の突撃部隊四千と同じになるだろう。このままでは城門に辿り着く前に盾となってくれている重装歩兵を全て削り取られ、やがてはボルドの小隊も全滅するのが目に見えていた。


 ならばどうする。足を止めて城壁の上にいる魔導兵を小銃で狙って排除していくか。

 いやそれは流石に不可能に近いとボルドはすぐにその考えを却下する。


 ならば、煙幕か。こちらも前方の視界を奪われるが、城壁伝いに進めば何とかなるのではないだろうか。容易く魔導兵に狙われてしまうよりも、視界を奪われた方がこれからの被害がまだ少ないように思えた。


 この策しかないとボルドがそう決意した時だった。ボルドの背後から長距離砲と思われる発射音が起こった。

 次の瞬間、城壁上や城壁の内側で着弾するのが見えた。


 味方の長距離砲劇か? 

 馬鹿な。こんな近くから……。


 ボルドは信じられない思い出背後を振り返った。味方の長距離砲部隊だけではなかった。そこには遠距離魔法部隊の姿も見える。


 突撃する自分たちを援護するために突出してきたのだろうが、彼らは明らかに敵の小銃や短距離魔法の射程内に位置していた。これでは射撃後に無傷で撤退することは不可能だろう。


 案の定、突然の攻撃による混乱から立ち直った城壁上のイスダリア教国側からの反撃が始まった。だが先程の攻撃で城壁にいる敵兵が半数以上は減ったかもしれない。


 背後を振り返ったボルドの視界では、味方の長距離砲部隊、遠距離魔法部隊が急いで撤退しようとしている。しかし、急な撤退は難しく城壁上からイスダリア教国の反撃を受けて次々と倒れていく。


 自分たちは防御手段を全く持っていないのにもかかわらず、突撃するボルドたちを援護するための遠距離砲撃部隊による決死の攻撃だった。


 ……充分だ。


「イェンス少尉、このまま走り抜けますよ!」

「了解だ。てめえら、根性を見せろよ!」


 イェンスが自分の小隊へ檄を飛ばす。


 再び城門付近で爆発が起こった。爆発の位置を見る限り、味方はまだ城門前まで連なっている塹壕を突破できてはいないようだった。


 突破すべき塹壕はいくつが残っているのだろうか。だが、そうは多く残っていないはずだった。

 またイェンス率いる重装歩兵の一人が倒れる。


「ボルド少尉、正面の塹壕に飛び込むぞ! まだその先は制圧できていない!」

「了解です!」


 イェンスの言葉にボルドはそう返した。

 ボルドが率いる第四特別遊撃小隊と、イェンスが率いる重装歩兵は正面の塹壕に雪崩れ込むようにして飛び込んだ。

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