科学は、如何にしてヒトを幸せにするか~ななの例~

深町珠

第1話 なな

東京駅に定刻、7時6分に着いたサンライズエクスプレスは


特に、疲れた様子も見せないから

神様には、ちょっと不思議に思ったりもする。



「八百万の神様、と言うがのぉ。

電車に魂があるとすれば、疲れるかもしれん、

夜通し走れば」と



神様は、人間っぽい事を思いながら



クリーム色のボディを撫でた。




先頭を、顔に見える電車の14号車は



ファニーフェイス。




笑顔のように見えるところが、どことなく

神様は気に入って。




「かわいいのぉ」と、つぶやくと




背中に気配を感じて、神様は振り返る。




小柄な女の子がひとり。



細身だけれでも、丸顔でちょっとブラウンかかった

髪は、ボブ。



微笑んでいて、丸いめがねの瞳も、にこにこ。


短いスカートに、レギンス。



ファニーフェイスは、サンライズエクスプレスのようだ(笑)。




ちょっと、頬がピンクで。





「あ、あぁ、電車がの、一晩中走っていて

ご苦労様っての」




と、神様は、なぜか説明調(笑)




若い女の子は苦手である(笑)、かわいいと

思うと

どうしていいかわからなくなる(笑)。


その女の子は、くすっ、と笑って



「優しいんですね」と。



神様は、なんとなく、どぎまぎ(笑)。



「あ、ああ?そうか?」と。




なんとなく笑顔になると、女の子は


とてとて、と歩み寄って

サンライズエクスプレスの、ライトのあたりに

触れて。



「ずっと、夜通し走ってくれたんですね」と




神様の方を見上げた。




「この列車に乗ってきたの?」と

神様が言うと




はい、と


女の子は笑顔で




「少し、お休みが出来たので」と

言った、彼女の笑顔が



神様には、揺らいで見えて。






「あ、あれ?」


地震だと思ったけれど

神様自身が、揺れていた。


10番ホームから、線路に落っこちそうになって



285系電車、サンライズエクスプレスの

先頭に手をついて。



持ちこたえた神様だったけど



とっさに、小柄な女の子は

神様を支えて



ホームの端っこで、下敷きになりかけていた。





「だいじょうぶかの?すまんのぉ」神様は


質量がないので、潰す心配はない(笑)。





女の子は、めがねを半分ずりおとしながら



にっこり笑った。




「びっくりしました!すごく軽いんですね、おじさま。」と、女の子は

めがねをなおして。


にっこり。




「いつもはコンタクトレンズなんだけど、今日はめがねなんです。あられちゃんみたいでしょ?」と




女の子は、にこにこしながら話すので

神様も、にこにこ。




こういう笑顔の女の子には、神様だって

かなわない(笑)。




うんうん、とうなづきながら。




「まだ、旅は途中かの?」と、神様は尋ねる。




女の子は、かぶりを振って「出雲から戻って、おしまい!」と言うので



神様は「では、モーニングでもいかがかな?

めがねちゃん」と、にっこり。




「あ、あたし、ななです。さいとう、なな」と


ちょっと恥ずかしそうに名乗る、女の子。




東京駅のアナウンスが、回送、サンライズエクスプレスが

引き上げてゆく事を告げた。




いつのまにか、先頭だった14号車にテールランプが点っていた。




ななは、そのテールを

感慨深げに見た。


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