第14話 女教師の○○ぷれい?

 陰キャ同志である翠川みどりかわ水華みかにMAYクラブを紹介することになった。



「紹介するも何も、ただこうやって案内するだけなんだけど」



 保健委員会の仕事も終わり、メイは校舎3階にある部室へと案内していた。

 この部屋は相変わらず良く分からない実験器具や薬品が並べられ、あらゆる動物の交尾映像が大音量で流れている。


 何度か来ているのにこの空気にまだ慣れないメイとは違い、ぬぼーっとした無表情キャラの翠川は興味深げにモニターを覗いていた。




「ふぅん。翠川……ミカちゃんも、ねぇ……」


 意味ありげに翠川をみるキワミ。

 自分が担任をしているクラスの生徒だが、メイと同じく大人しい印象の至って普通の女の子。


 教師がこう言っては何だが、あまり男に興味を示すようなタイプではないというのがキワミの率直な感想だ。


 だが今回、翠川の方からメイにこのクラブを紹介して欲しいと言ったらしい。

 いったい二人がどんなやり取りをしたのかは分からないが、この部活の特殊性を分かっていてそう言ってきたというのなら――そういうことなのだろう。



「やれやれ、無自覚っていうのも困ったモンだねぇ~」



 翠川に限らず、周りの女子たちは何となくこの男を気にしているようにも見える。

 メイは大真面目な顔で『サツキお姉ちゃん以外の女性に興味は無い』などと言っているが――そんなことを言っていられる場合じゃなくなってきていることに、彼は気付いているのだろうか。



 クラブ活動で今この場に居るのは幼馴染であるアカネ、今回見学に来たミカ、さらには3年生の黒鉄くろがね白銀しろがねの主従ペアだ。

 ちなみにこの場には居ないが、先ほどレモンからもMAYクラブに入りたいと申請が来ていた。



 これもメイの能力なのだろうか?

 あの女性を虜にするテクニックと合わせて、果たしてこの男の能力はこの国の政策に活かせるのか。研究者として、次々と問題を起こし続けるこの男に興味が尽きない。

 そう、このキワミ自身もある意味では虜になりつつあったのだ。


 それは研究対象としてなのか、異性としてなのか……




 ともかく、ミカという新しいメンバーも加入したクラブはキワミを含めて総勢7名となった。

 この部活の目的を改めてメンバーに示す必要があるだろう。


 ということで真面目モードになったキワミは意気揚々と説明を始めた。



 今の社会の在り方と問題点。

 不景気と少子化によりニュッポンはこの先ふたたび暗黒期に入るだろう、と。


 新たな産業を開発し、それを世界に向けて輸出を目論む新政府とそれを阻止しようとする裏組織などなど。

 果てはキワミの専攻である性技術の現状とメイの能力をミックスさせた未来の展望について。



 それを授業とは違い、実験のように模型を使ったり自分たちで意見交換をしたりしながら講義していく。

 ここに居る大半は思春期の少年少女たちだ。社会の難しい話はともかく、男女の性行為について関心が無いわけがない。



 そして話は異能の話に変わっていった。

 どうやら将門先生もメイほどではないが、特殊技能を持っていたらしい。



「そういえば、キワミ先生も何かの能力を持っているんですよね?」


「ふふふっ、気になっちゃった? 本当は秘密なんだけど……折角だし、教えちゃおっかな~」


「え? 教えてくれるんですか?」


「まぁ私だけ黙っているのもフェアじゃないしね。私の能力、それはね……」


「それは……?」



「――催眠、よ」



「「「「「催眠?」」」」」」



 なんだか急に胡散臭い話になってきた。

 本人は大真面目な顔で語っているが、まさか彼女の口からそんな非科学的な話が出てくるとは。



「私は脳科学の研究者でもあるが、同時にアロマセラピーの資格もあるんだ。匂いだって脳に作用してリラックス効果を示したりするだろう? 今日はそんな感じでアロマを使った催眠で、みんなの潜在能力を引き出してみようと思う」


「もしかして先生、俺たちで実験しようとしているんですか!?」


「えっ、ちょっとキワミちゃん!? そんなの聞いてないよ~!?」



 不安や疑惑の表情を見せる一同の前に出されたのは、不思議な良い香りがするピンク色のアロマキャンドル。

 見るからに怪しい。怪しすぎる……。



「あの、ここは学校だし、ちょっと今回は遠慮させてもらおうかと……」


「あら? 残念だけど、これはリラックスするための普通のキャンドルよ。本命はもうこの部屋に入って来る前から火を点けていたコッチ」



「な、なんだって!? みんな、マズい! 逃げ……」


「うみゅう……なんだか眠く……」


「リコお嬢様……! お逃げくだ……」


「だめよ、リカ。貴女を置いてな、んて……」


「すーすーっ、良い匂い……」



 キワミを除く全員がそれぞれの椅子の上でトロン、とした顔になってボーっとし始めてしまった。


 それを見てニヤリと怪しく笑った顧問はさっそく生徒を使った実験に取り掛かる。



「じゃあメイ君のその能力を視させてもらうわね。そうね~、じゃあ手始めに……アカネちゃんを気持ちよくさせてみてくれる? 方法はなんでも……」



 キワミが命令を告げるや否や、催眠状態のメイはアカネに襲い掛かった。

 とは言っても、暴力をするというわけではなく、お腹をコチョコチョとくすぐるだけだが。



「ふえっ!? いやっ、何してるのよメイっ!! ちょっと!? そこは……あんっ!! だ、駄目だってば!? あははっ、やめっ……んああぁっ」



 暴れながらなんとか制止しようとするアカネ。しかし自分の意思に反して椅子の上から逃げることが出来ない。


 身体をよじってメイの手から逃れようとしても、余計に敏感な部位に当たってしまって変な声が出てしまう。



 悲鳴のような笑い声を上げながら、なおもジタバタと暴れ回るアカネ。

 スカートから彼女の白く艶めかしい太腿が露出してしまっていて、さらなる情欲を誘っている。



「も、もう……ひゃっ、ゆるしてぇ……おねがっひゃあぁんっ! いやぁっ!!」



 次第に顔も真っ赤になり、珠のような汗をかいて許しを請うが、その声はメイには届かない。



 アロマの甘い匂いとアカネのオンナの匂いで、周りに居る者たちまでおかしくなりそうだ。

 両足をすり合わせるようにモジモジさせる者、アカネを羨ましそうに熱の篭もった瞳で見つめる者、手を服の中に入れて荒い息を吐いている者……。


 ……とは言ってもこの場に他の男子は居ないし、催眠状態のメイもアカネのそんな姿にエロい気分になったりはしないのだが。



 くすぐりに弱いアカネの絶叫が部室に響き渡るという異様な雰囲気の中、そんなことを気にも留めずに何かの研究ノートに書きなぐるキワミ。



「ほう……まさかメイ君の能力がここまでとは。しかも、触れるだけで相手を発情させるなんて……これならもしかして、もしかするわよ……」


 このままではどうなってしまうのかと戸惑うメンバー。

 そしてアカネに更なる異変が起きようとしていた――。








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