第9話 ギャルの香りはレモンの匂い?

「で? そのギャルってどんな奴なんだ?」



 自身のファッションセンスを否定され、若干投げやりになっているメイ。

 だかしかし憧れのサツキ先輩に好きになってもらうためには、ここで形振なりふり構っている場合ではない。


 そしてその協力をあおごうとしてアカネが思い付いた人物とは、どうやらメイたちと同じクラスのギャルらしい。



「んー、その子は檸檬れもんちゃんっていうんだけどね。なんか雑誌の読者モデルとか、ドラマのエキストラとかもやってるらしいよ? すっごく綺麗なのにフレンドリーでイイ子なんだから!」


「ふぅん? そんな奴がクラスに居たんだな」

「えぇ……? レモンちゃんは一年生の時から同じクラスだったし、その時から有名だったと思うんだけど……」



 他人に興味が無さ過ぎる幼馴染に若干呆れた視線を向けるアカネ。

 しかし心の中では他の女に心変わりしそうもないその態度に、彼女は少しだけホッとしていた。



「まぁ俺はサツキお姉ちゃんにしか興味無かったし、他の奴なんてどうでも良かったんだよ」

「本当にメイは昔っからそうなんだから……そういえば一年生で思い出したけど、メイの事が大好きだったアイツ。あの後輩ちゃんも今年で高校一年生になったんじゃない?」



 その言葉を聞いたメイはうっ、と嫌な顔になる。

 二人に共通の知り合いが居たのだろう。その人物にトラウマがあったのか、脳裏に浮かんだその人物を振り払うようにメイは手をブンブンと仰いだ。



「……言わないでくれ。最近になって少しずつ忘れてきたのに。そもそもアイツは中学時代に他の市に転校しただろ? だからもう関わることもないさ。それより、教室に着いたぞ。ほら、そのレモンってどこにいるんだ?」



 二人で喋りながら歩いている内に、メイたちが普段勉強をしている2年B組に着いていたようだ。クラスメイト達はまだ昼休憩を楽しんでいるようで、教室の中はワイワイと賑やかだ。アカネはメイに促されてアカネはさっそくくだんの彼女を呼び出す。



「れもれもー? ちょっとゴメーン!!」

「はーい? 誰かウチのこと呼んだ? って、アカネっちか。どったのー、カレシ君も一緒で何か用~?」


「「か、カレシっ!?」」



 校則をギリギリまで攻めたレベルの茶髪を揺らし、“れもれも”と呼ばれた女子がメイたちの方へやってきた。制服も着崩しているし、アクセサリーも腕に沢山ついている。メイクも他の女子より濃い目で、もう見るからにギャルだ。


 メイは慣れない香水の匂いに頭をクラクラとやられながら「うわ、よりによってガチのやつじゃんかよ……やっぱりチェンジで」と内心で大変失礼なことを考えていた。



「あはは、息ピッタシじゃん! ホント仲が良いよね~。でも実際、二人は幼馴染なんでしょ? っていうかクラスの皆は付き合ってると思ってんじゃん?」



「え……そうかなぁ? やっぱりそういう雰囲気出ちゃうかなぁ?」

「おい、アカネ。ワケの分かんないこと言ってないで、ちゃんと紹介してくれよ」


「――っと、そうだった。ゴメンゴメン! この子は横塚よこつか檸檬ちゃん。とっても可愛くて良い子で……ってオカシクない!? 同じクラスメイトなんだから私が紹介するんじゃなくて自分で聞きなよ!!」

「うぐっ!? 痛い痛い! 悪い、悪かったからこれからは気を付けるから叩くなって!!」



 自分の事を棚に上げて文句を言うメイの背中をポコポコと叩くアカネ。

 そんなやり取りを見てニハハ、と八重歯を見せながら愛嬌のある笑いをするレモン。


 自分のことを全く興味を示していなかったと言われているのに、不機嫌そうな様子も見せていない。アカネの言う通り、彼女はフレンドリーで良い子であるようだ。



「やっぱり夫婦みたいだね~。まぁ改めてヨロシクね、メイっち!!」


「メイっち!? え、もしかしてそれ俺の事!? うっそだろ、もうそんな距離縮めてくるの!? 心のソーシャルディスタンスとか知らない系の陽キャこっわ!!」


「あ、ウチのことはレモレモって呼んでねー。そうだ! メイっちもLIMEライムやってるっしょ? この際だからフレンドになろうよ~!」



 辞書に人見知りなんて言葉は存在しないかのような、怒涛のリア充初対面セットに面食らってしまったメイは二の句をぐことができない。

 完全に陰キャの敗北である。



「くっ……これだからギャルなんかと関わり合いになるのはイヤだったんだ」

「クッ……さすがレモレモ。もうLIMEの交換まで……私なんてメイにLIMEをやらせるだけでも半年掛かったっていうのに……」



 文句をタラタラ言いながらも、レモンに自身のスマホを差し出す陰キャ男メイ


 その光景を、クラスの男子達は羨ましそうに眺めていた。

 とある男は何でもないように接してはいるが、レモンもアカネも系統は違えどトップクラスの美少女なのだ。そんな彼女達と仲良く会話し、あまつさえ連絡先の交換を果たすメイが羨ましくないはずがない。



「それでー? ウチに用って何かあったの??」

「あっ、そうだったね。えっと、ちょっと耳貸してくれる? 実は……ゴニョゴニョ」

「ええっ? ……おぉー。ふぅん、それでそれで?」



 メイに代わってアカネがレモンに事情を説明する。


 さすがに性技術向上の為の部活メイクラブに入ったことや、先程あの部室で起きたことはこの教室で大声で話すことははばれるのでコソコソとだ。

 耳元でコショコショと話の流れを聞いたレモンは興奮したり顔を赤くしたりとコロコロと表情を変えつつも、最終的には満面の笑みになった。



「にひひひ。いいねー、いいねー!! 一途な男の子は好感度高いよ!」

「べ、別にそれはフツーだろ? そんなことねぇーって」



 当然、メイの恋する人物についても聞いたのだろう。


 それを褒められた彼は素っ気ない言葉とは裏腹に、かなり照れ臭そうに頭をポリポリと掻いて誤魔化している。



「オッケーオッケー。それでウチにメイっちをイメチェンさせるためのプロデュースをして欲しいってコトね? いいよー、ウチがメイっちをこの学校でバズるくらいにカッコよくしてあげる!」


「……うーん。私が紹介しておいてアレだけど、なんか心配になってきたわ」

「なんで~? 安心して任せてよ! これでも雑誌のモデルやってたりしてるしー? それに別に奇抜なファッションじゃなくたって、リーズナブルな値段でオシャレなコーディネートをするからさ!!」



 だから心配なんだけどなぁ、とレモンのファッション談義に感心しているメイの隣りで、不安をこぼすアカネ。


 あまりに上手くいきすぎても、メイが誰かに奪われてしまっては困ってしまう。


 もしかしたらレモンがライバルになってしまうかも……?



「じゃあ今度の週末にさっそく近くのショッピングモールに行こうよ! 時間とか待ち合わせ場所とかLIMEするから。ちゃんと返してね!!」

「お、おう。ありがとうな?」



「ううぅ……やっぱり不安だぁ……!!」





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