第6話 冒険者への一歩

どうしたものか。

イノーに叫んでも、歩いても、音でばれるかもしれない。

正面から立ち向かっても、私たち生産職はなすすべもないだろう。


「なぁヒカリ、そいつを使うのはどうだ?」

レオンが指を指す。その指先にはプルブルがいた。

「プルブルちゃん?」


プルブルはこちらの方を向いて首をかしげている。

目も顔もない水の塊のスライムだが、その動物的な仕草がとてつもなくかわいい。


「プルブルちゃん、イノーと一緒に敵の近くまで案内して」

ゆっくりと地面に溶け込み、進んでいく。すごいなプルブルちゃん。

潜った土の中に光が見える。どうやら仲間の位置把握は簡単にできるらしい。

これは便利だな、覚えておこう。


「レオン、あそこだ」

何かが蠢いている様子が木の間から見える。

「今はまだ木の陰にいて姿が見えないな、ゆっくり近づくぞ」


木漏れ日の下、木の幹に隠れながら顔を覗かせるとそこには、探していた存在がいた。

人ぐらいの背丈で体毛が羊の5割増し、白い体毛に覆われた動物。

絵本で昔見たことがある、ファーシープという動物だ。


「ホントに存在するんだねファーシープ」

「あの絵本面白かったよな。今でもまだ読めるかもしれない」

「とりあえずどうしようか……」


ファーシープの特徴は何と言っても体毛。

肉体的な攻撃はだいたい毛に触れた瞬間に跳ね返る。

冒険者は魔法で攻撃して狩るのが基本だ。

ただしここには魔法で攻撃できる者は誰一人としていない。


「テイムはできないのか?」

「マナが足りない。テイムはマナで紐を作って対象を捉えるの。あの大きさだとイノーやプルブルちゃんを捕まえた時より多くのマナが必要だけど、今の私の魔力量だと到底無理」


ファーシープの体毛が存在しない、弱点といわれる場所は脚と顔のみ。

もしかしてイノーとプルブルちゃん使えばいけるんじゃないか?

「思いついた」


◇◇

◇◇◇◇

「うーん難しいなぁ」

まだ能力を手に入れたばかりで扱いづらい。正確な位置に生やしづらいな。

全くヒカリは何を考えているんだ?ファーシープの周りに木を大量に生やして欲しいだなんて。


「【プラント】【プラント】【プラント】【プラント】…」

この能力はヒカリみたいに見える形でマナは使わないが、{対象の位置に木を発生させる}、そして{その木の成長を促進させる}の2つに魔力を必要とする。

かなり面倒くさいプロセスなんだが、いつかは慣れるんだろうか。


◇◇

◇◇◇◇

「ヒカリ、できたぞ」

よし、準備完了!そしたらイノーとプルブルを呼んで指示を出そう。


……今だ!

「イノー!!よろしく!」

「フゴッ!!」イノーが一鳴き。


イノーはファーシープに向かって駆け出す。

イノーの特技、突進だ。

弾丸のごとく、凄まじい速さだ。


ファーシープもイノーの足音に気づいたのか警戒し始める。

しかし、木によって視界がふさがれ、正しい位置を捉えることができない上にプルブルと私たちが近づいていることに気づかない。


一撃目、イノーがファーシープの右前脚にぶつかる。その影響でファーシープは体のバランスが少し崩れた。

続けて二撃目、旋回して助走をつけたイノーが左前脚にぶつかる。ファーシープは少しよろけたかと思うと地面に倒れ伏す。


「プルブル!!やっちゃえ!」

プルブルは返事をするように揺れた後、ファーシープの顔面に張り付く。

ファーシープは息ができなくて苦しいのか暴れだす。


「レオン!!ここにお願い!」

「了解」

私が目印となってピンポイントに木を生やすことができる。

少々危ないがこれこそ冒険者だ。


ファーシープの全ての脚の下から木が生える。押し出されたファーシープは宙を舞う。

ファーシープは突然の出来事に驚き、暴れていた体が停止した。

時間稼ぎは十分。そろそろ窒息死するだろう。


空中に投げ出されたファーシープは半回転し、背中から地面に落下する。

背中にも体毛があり、地面に到達する瞬間にもう一度跳ね上がる。

「すげぇな、絵本の内容通り……跳ね上がるんだな」

「あとは見てるだけだね。プルブル……頑張って耐えて!」


数秒後、じたばたさせていた脚が停止し、ぐたりと動かなくなった。

ファーシープは窒息死した。

「やった!」


ファーシープは死亡すると体毛の性質は大幅に消失する。

だから冒険者は素早く刈り取ることで体毛の性質を残し、高く売っているのだが――

ここにはそんな芸当ができる人はいない。


「おつかれ。イノー、プルブル」

「素材物資の剝ぎ取りはこのメンツじゃ難しそうだな。あとでギルドに頼むか」

「とりあえず花屋のおじさんのところに行こうよ」


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カモさんです!

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